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『群島語 0号』 巻頭言 | 離陸するための準備

以下オンラインストアで販売中の「群島語 0号」から「巻頭言 | 離陸するための準備」を無料公開します。

小説は一人で書ける。一人でしか描けないこともある。しかし言葉は一人のものではない。
誰かの言葉が、別の誰かの言葉を触発する。それは私たちの日々に溢れる普通のことです。
そんな言葉の力を小説を共同で作ることで加速させてみたら?
そんな実験的な試みが「言葉の共同制作」。

まずは巻頭言をぜひお読みください!



巻頭言 | 離陸するための準備(今津祥)


 小説は〈ひとり〉からはじまります。言葉以外では他者に伝えることのできないことを〈ひとり〉から生まれる言葉だったら表現することができる。そう信じて人は小説を書きます。
 その言葉は、しかし作者の内面の反映であることから自立し、自らの運動を開始します。「人物が自ら動き出す」というやつです。その時その言葉はもうあらかじめの自分の考えを飛び越えています。
 いわば、〈ひとり〉から生まれた言葉が〈ひとり〉の状態から離陸するのです。
 離陸した言葉はもう〈ひとり〉の時の私だけの言葉ではないから、〈他者〉とともに練り上げることができます。
 そのプロセスを通じて、人は〈ひとり〉では見つけられなかった言葉や自分を発見し、その発見がまた言葉をさらに遠くに飛翔させます。
2023年8月10日、11日
 映画美学校言語表現コース「ことばの学校」第二期のわたしたちは三鷹SCOOL で、二期修了展「Archipelago ~群島語~」を開催しました。
 成立ちも形も歴史も異なる様々な島が、それでも気候や海などを共有して緩やかにつながる、そんな比喩性をもった「Archipelago ~群島語~」は、未知の他者が雑多に遭遇する学校という場所で偶然出会ったわたしたちにふさわしいように思いました。
 展示では、それぞれの作品は完結しつつも、それらが並置されることでその「あいだ」が、読者の想像力のなかで浮かび上がるような展示を目指しました。
 しかしあくまでその創作プロセスは〈ひとり〉であることが前提でした。参加者相互は〈ひとり〉のまま。これだけ多様な人が集まっているのだから、その相互の関わりの中で作品を作ることができたらきっと面白いものがうまれるんじゃないか、素朴にそう思いました。
 だからこそ、群島語0号では「言葉の共同制作」を大特集にもうけました。自らの運動を開始した「離陸する言葉」を共同で作り上げる試みを通じて、わたしたち自身が相互に変容し、その変容がさらに言葉を飛翔させることができるはず。いわば今号は「飛翔するための準備」だからこそ0号と銘打ちました。

 わたしたちは〈ひとり〉では自分であることができません。「私とは一個の他者である」とはランボーの言葉ですが、然り、自己は、自己の生きてきた歴史のなかで遭遇したさまざまな他者によって形成されています。
 群島語0号における共同制作の実践は、こうした、他者とともに在ることでしか自分を見出すことができない事実をむしろ、生の可能性として見出す試みでもあるはずです。



『群島語 0号』について

2023/11/11開催の文学フリマ東京37で販売した『群島語 0号「言葉の共同制作」』ですが、好評のため増刷することが決まりました!以下から購入可能です。

紹介文

〈ひとり〉で書くことが当たり前のように思われる執筆を「共同」で行なってみたらどうだろうか。

発された言葉は、作者の内面の反映であることから自立し、自らの運動を開始する。離陸した言葉はもう〈ひとり〉の時の私だけの言葉ではないから、〈他者〉と共に練り上げることができる。そして発された言葉もまた〈他者〉である。言葉を共同で作り上げる試みを通じて、わたしたち自身が相互に変容し、その変容によってさらに言葉を飛翔させることができるはず。

映画美学校言語表現コース「ことばの学校」第二期有志で創刊した文芸誌『群島語』。第0号では「言葉の共同制作」を特集として設け、それぞれ異なる方法によって共同執筆された小説四編と、集団としての関わり合いから生まれた小説やエッセー、批評、もしくはそれらのあいだのような文章が収められています。

目次

巻頭言

言葉の共同制作

  • オーのあたまのなか | 今津祥・坂野明・磦田空・今井友哉

  • 春夏秋冬―終わらない対話/「いなくなる」を語るのに必要な「あなた」 | 小島和明・林恭平・草村多摩・栗林彩

  • 十月十四日、金沢 | 小映・下坂裕美・小路口忍・西山唯

  • 外を脱ぐ | 秋山拓・川・近藤真理子・樋口貴太・龍道幽/水原由紀

  • 言葉の共同制作 座談会

信仰

  • 曲がり角のアミ | 坂野明

  • アトモスフィアとエモーショナル | 小路口忍

  • 夜釣り | 樋口貴太

  • 恩寵 | 小映

また腹がへるだけ

  • 未加熱とか野蛮すぎる | 林恭平

  • 郊外・四人家族のご飯 特別な予定のない週末編 | 草村多摩

  • 越境 | 近藤真理子 - 美味く食う | 秋山拓

  • デルモンテのトマトペーストは、人類学者の夢を見るか? | 小島和明

海境異聞

  • 地図にない町と、なみのれない海 | 龍道幽 / 水原由紀

  • 世界劇場の窓 ― スピッツの詩世界 | 川

  • 『セザンヌ』生成する風景 | 今津祥

  • イデアの海原 | 小映

群島思索

  • 無題 | 川

  • new world | 小映

パンゲア日誌


「群島語」について

言葉の共同性をテーマとし、言語表現の新しい在り方を試みる文芸誌『群島語』
2023年11月に創刊号を発表。

今後の発売に関しては、X(Twitter)Instagram で更新していくので、よければ是非フォローお願いいたします!


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