読書感想文/勉強が面白くなる瞬間

本書の重要なポイントのひとつは、勉強という行為の目的を改めて考え、見直すことの重要性だ。その骨子は、外発的な目的を、内発的な目的に再設定することだと言える。

何らかの試験に合格するために、良い点数を取るために、誰かに勝つために、というような外発的な目的ではなく、自分の人生を豊かなものにする、大人になるための準備をする、昨日の自分より成長する、そういった内発的な目的を設定したときに、はじめて勉強が面白くなりはじめるのだと筆者は説く。

私が受験指導をしていた頃の経験に照らしても、入学試験に合格することや試験で良い成績を取ることが目的化している子供と、自分の成長そのものを楽しんでいる子供では、後者のほうが圧倒的に強いということは間違いない。カンニングや宿題の答えを写す行為の無意味さ(どちらも、本人が成長しない)をわざわざ説明しなければならないことは多々あったし、自発的に勉強している子供なんてごくわずかしかいないだろうということも想像がつくから、本書を必要とする読者はきっと多いことだろうと思う。

勉強をしなければならないと感じているが、しかし積極的に勉強に取り組むことができないでいる読者に対して、本書の内容はよく響くように思われる。

しかし、真に本書を必要とする読者に、届くのだろうかという疑問もある。なぜ学ぶのか?人生を豊かにするとは?煎じ詰めれば「どう生きたいのか」という抽象的な問いに対して自分なりの答えを出すためには、ある程度の準備と素養が必要とされるように思う。私の感覚では、その準備と素養を持ち合わせない人間の割合は、筆者が想像するよりもうんと多いのではないだろうかと感じられる。

抽象的かつ重大な問いを前にして頭の中が真っ白になってしまったかつての生徒の顔が浮かんでくる。何を問われているのかがわからず、何と答えれば正解なのか、この場を切り抜けられるのかと大人の顔色を探ってしまう人や、あるいは、そもそも勉強をしなければならないと感じていない人にこそ、本書を手にしてもらいたい。

というか、この本を読んでる時点でわりと上澄みなんじゃねえかなぁ、という身も蓋もないことを考えてしまった。

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