犬の話 かな

「もう我が家では犬は飼わない」

そう父は宣言した。                          愛犬が病に苦しみ虹の橋を渡ってすぐのことだった。

一番、可愛がっていた父の言葉に私たち家族は              「あい、わかった」                          と返事をし、もう犬を飼わない決意をしたのだった。

ところが数か月たったあたりから父の様子がおかしくなってきた。

もともと一日中、犬と一緒に遊びに行くかTVを見ているかのどちらかであったのが、愛犬がいなくなり、一日中TVを見ているだけになったのだからそれも当然か。

しかし3か月を過ぎたあたりからため息が多くなり、ついには、母が水槽で飼っている金魚に名前を付け出し、水槽をたたいては、「金魚は名前を呼んでも振り向きもせん」と怒り始めるに至って、見るに見かねた。

そこで兄妹で相談し、父に新しい家族として犬をプレゼントすることにした。

あるいは拒否されるかもしれぬと思いつつ、父に希望を聞くと、即座に、ラブラドールの女の子という返事が返ってきた。

なんのことはない飼う気満々である。

それから私たちはペットショップ行脚が始まった。            動物愛護センターから引き取ることも考えたがいかんせん遠いのだ。

やむを得ず、ブリーダーも探したが近隣には見当たらずやむを得ず、ペットショップと相なった。

ところがである、ラブラドールはいるけれども、女の子、はなかなかいないのである。なので父に男の子はダメなのかと聞くと、男の子はキャンキャンうるさいからダメだというのである。

ぶつぶつ文句をいいながら兄妹のペットショップ巡りは続き、5軒目のお店で茶色のラブの女の子を発見。

ただこの女の子とにかく悪いのである。

パグの男の子の持っているぬいぐるみを殴って奪い、飽きるとコーギーの女の子が持っているボールを殴って奪い、のどが渇くと、ミニチュアダックスの男の子が飲んでいるにもかかわらず、殴ってどかせ水をのむという悪行を繰り返すのである。

あまりにも悪いので躊躇したのだが、お店の方に許可を取って動画を取って父に見せると「この子でよい」

...というのでその子を我が家に迎えることにした。

父の命名で名前は「かな」に決定。

かなと家族の生活が始まるのである。

ところがというより予想通りであるが、この犬とにかく悪いのである。   早期に母親から引き離されてペットショップに連れていかれたのでしょうがないとは思うが、躾がとにかく大変。

まず自分が何事にも中心で注目されていないとだめならしく、皆が注目していないと、なにかやらかす。そして30分たりともお留守番ができない。

一人にすると、とにかくなにかやらかす、ある日帰宅すると、ダイニングのテーブルの上で、飾っていた椿を口にくわえ尻尾を振っていた。       またある日は、ダイニングへの入り口にかけてあった暖簾にぶら下がってくるくる回っているのである。遊んでいるのかと思えば歯がひっかかってとれなくなっていただけであったのだが...。

ある日など、父と遊びたがったのだが、父が昼寝をしてしまったので、腹を立て父の顔の上にまたがりウンチをするという悪行ぶりを発揮し、さすがに甘々の父も怒るかと思ったが、顔を洗いながら、「そうかそんなにわしとあそびたいか」と満面の笑みであったの父も相当の犬バカである。

そんな甘々な犬バカ親父と悪犬かなの生活は円満に続いていくのであるが、一つ問題があった。

父が甘すぎて何でもかんでもかながほしがるものを与えてしまうことだった。

朝ごはんで食べている食パン、昼に食べている菓子パン、果ては夕食のおかずに至るまで、何でもかんでもほしがる、かなに何でもかんでも与えてしまうのである。

あるときには、お昼に自分が食べるあんパンをかながほしがったので、無造作に半分ちぎってやっていたのをみてびっくりした。

さすがに父に注意したのだが、ほしがるからええやろう的返事でさらに同意を求められたかなも知った風に「わん」と答えるものだから始末に悪い。

そんな甘々に育てられたかなは順調に成長していくのだが、だんだん体形がおかしくなっていくのである。

普通のラブラドールは大きいが、お腹周りはシュッとしていて手足が長いのだが、かなはちょっと違う。                       こう何と言おうか、太りすぎて体が四角いのだ。             正面から見ても長方形だし、横から見ても長方形。

そういわば牛のような体系なのだ。

いわゆるでぶである。                         ついにはでぶになりすぎて市販の胴輪をつけると茶色い色も相まってほど良く燻された焼き豚のようになってしまうため特注の胴輪を注文する羽目になってしまった。

そんなある日、父とかなと一緒に夕方の散歩に出かけた、暑い日だったので、近所の公園で涼みながら遊んでいた。

どうもこのかなという犬は変わった犬でボール遊びをしていても、興味はほどなくボールから投げる手や、蹴る足のほうへ行ってしまう。        この日も、父が投げるボールよりも手に興味をしめし、一人と一匹でふがふがやっていると、小学生の高学年らしきお子たちがサッカーボールを持ってやってきた。

ふいにその中の一人の子が、                      「僕たち今からサッカーの練習をするのですが構いませんか?」

とたずねてきた。

なんと礼儀正しいお子であろうか、こんな子たちがいれば日本のサッカーの未来も明るいであろうと思いつつ

「あいや、我々ももう帰るところである。君たちは練習に励み日本のサッカーの未来に寄与してくれ給え」

と述べると男の子たちは、一斉に                    「ありがとうございます」                       とこたえ、一人の男の子がかなに歩み寄り頭を撫でながら、

「大きい犬ですね」とたずねてきた

そして衝撃の一言を放つのである。

「土佐犬ですか?」

と。

かなは肥満がたたり頬もダルダルでしまりというものがなくしかもチョコラブであるので見ようによっては土佐犬に見えないこともない。

私は爆笑し「これはただの肥満したラブラドールという犬種である」と伝えた。

ただ、父は痛くショックを受けたようで、翌日からかなにあげるアンパンが半分から四分の一に減っていたのである。





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