犬の話 ロン
6月の雨の激しい夜だった
母からロンがちょっと調子が悪くてもう2日ほど起き上がれない、という電話が入った。
ロンは私が中学3年生の時に我が家にやってきた柴犬とポメラニアンのミックスケ犬だ。私が26歳になるので今は12歳。 もう立派な老犬だ
ロンは家族みんなに愛された。特に私は溺愛し、24歳で結婚し家を出るまでまさに寝食を共にした。一緒のベッドで眠り、一緒におき、お散歩に行き、一緒にご飯を食べる。まさに家族のだれよりも長い時間を過ごしてきた。 私が家を出た後しばらくロンはショックで食が細くなっていたそうだが、私の代わりに兄という存在を改めて見直しべったりひっついて過ごしていた。
そんなロンが元気がないという話を聞いて翌日すぐに実家へ帰った。歳が歳だけに万が一を心配したのだった。
実家に帰るとロンは愛用のお布団の上で横たわっていた。私が帰ってきたのに気がついてはいたのだろう、一生懸命起き上がろう起き上がろうとしてこちらに顔を向け尻尾をかすかに振っている。
だが、起き上がれない。
もう起き上がるほどの体力もないのであろう。そんなロンに私は
「そのままでいいからじっとしとき」
と声をかけそばにより、優しく体をなでてやった。
頭から尻尾までゆっくり時間をかけて撫でてやりそしてお腹をゆっくり撫でてやった。ロンは目を閉じて気持ちよさそうにしていた。
夕食時ロンにも好物の半生タイプのドッグフードと竹輪を上げようとしたが、もうあまり食欲もないらしい。申し訳程度に少し食べただけで、また眠るように目を閉じてしまった。
元気な時は自分のご飯を秒速で食べた後、家族の周りをせわしなく回り、分け前を要求するのが常だったのに、今は横たわってじっとしている。落ち着いて食事をできるのだが、果てしなく悲しい。
夕食後、私はロンを抱きかかえて自室に戻った。ロン用の布団の上にバスタオルを敷き寝かせてやった。そしてロンを撫でてやりながらいろんなことを思い出し、ロンに話しかけてやった。
犬のくせに犬が苦手で、ドッグランでは逃げ回っていたこと。そのくせ、ランの周りにいる人間には愛想を振りまいていたこと。医者が嫌いで、連れて行った兄に3日間近寄らなかったこと。怒られると死んだふりをしていたこと。
すべてが懐かしい思い出だった。
夜が更け私も眠りについた。ロンもすやすや眠っているようだった。
ふいに目が覚めた。ロンの息遣いが荒い。
慌てて電気をつけロンのそばへ行くとロンは少しこっちをみてからまた必死で呼吸を始める。
思わず抱きしめ「ロン」と叫ぶ私。
そんな私を荒い息のままじっと見つめたロンの瞳の光がなくなっていく、そして呼吸も小さくなってついになくなってしまう。
「ロン!! ロン!!」
私は大声で泣いた。ロンは旅立ってしまった。まるで私が家に帰ってくるのを待っていたかのように、再開から永遠の別れまでわずか数時間の出来事だった。
私は号泣した。
そんな私に気付いて家族がやってきた。両親、そして兄。みんなで、魂が旅立ったロンの亡骸を優しく撫でてやった。
翌日、ペットの葬儀屋さんを探してロンの葬儀を執り行った。お棺の中にはたくさんの花と、ロンの好物だった竹輪とペットフードをこれでもかというくらい入れてあげた。そしてロンに「くれぐれも一人で食べないで、向こうでできたお友達にも分けてあげるように」と言い聞かせた。
ロンは犬のくせに犬嫌いだったので、友達がほとんどいなかった。向こうで一人でぽつんとしているのはどれだけか寂しかろうと思うので、それだけがすごく心配だったので、もので釣ってでも友達を作ってほしかったのだ。
ロンはお骨になり、県北にあるペットの共同墓地に埋葬されることになった。埋葬される日、私は兄と一緒にお墓にいった。兄は「冬場には雪が降る所やなあ、ロンは雪が好きやったからええかもしれんなあ」と一人つぶやいていた。私は、これでついにロンとも本当のお別れだとまた泣いた。向こうで友達ができるか心配しながら。
ロンが旅立ってから約2か月後、私はお盆の里帰りをした。そして夜不思議な夢を見た。
真夏なのになぜか駸々と雪が降る中遠くからロンが走ってくるのだ。
私は必死で「ロン!!ロン!!」と呼びかけるのだが、ロンはそばに来ない。傍らにいる、白い大きな犬とじゃれあい、まるで私の声など聞こえないように楽しく遊んでいる。
それでも「ロン!!ロン!!」と呼び続けると、ロンはこちらを向き尻尾を千切れんばかりに振り続け、白い大きな犬と去っていった。
何ともわけのわからない夢だったので、朝食の席で兄に話すと兄は、
「それは、お前、ロンが友達ができたって見せに来たんや、お前があんまり友達ができへんって心配するから、ロンが安心してくださいって友達を連れてきたんやな」
そうかそうだったのか。兄の言葉に妙に納得した私だった。ロンは向こうでちゃんと友達ができたのだ。
ちゃんと友達にも竹輪をあげたのかしら。
今度はそんなことが心配になる私だった。
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