犬の話 かな その2
かなは茶色のラブラドールレトリバーの女の子。 ちなみに一応血統書らしきものはついているのだが、そんなものはあてにはならず、今や立派な長方形のデブ犬に成長。
さらには、あまりにも無鉄砲かつ暴れん坊ぶりに母からは悪犬と呼ばれている。
そんな悪犬の年末の一コマ
昼頃、母から、任務が下る。 「大掃除をするのできっと邪魔しかしない、悪犬を連れて、夕方までどこかであそんで来い。」という指令だ。
私はほいほいとかなを車に乗せてお出かけ。 この悪犬は車が大好きで、車に乗っているときはすごくいい子にしているのだ。
しばらく、ぶぃ~んとはしり、とある川辺の野原へ。
野原が続きその先には石がごろごろしている河原がありその先にはそこそこ大きな川が流れている。
かなは、ひとしきりあたりを嗅ぎまわった後は、野原を疾走し、草むらの中から流木だろうか、おおきな枝を拾ってきて振り回している。
そんな、疾走している姿や枝相手に奮闘している姿を見ると、「おぉ、やはりレトリバーなんだな」とただの犬バカかもしれないが、感心するのである。
ひとしきり走り回り暴れまわると飽きたのか、今度は川のほうへとぼとぼと歩きだす。
そしてこのくそ寒い中、川へ侵入し始めたのである。
しばらく、川辺でばちゃばちゃやっていたもののだんだん興奮し始めてこともあろうにだんだん、川中へ向かって歩みを始めていくのである。
ここにいたっても、呑気で、愚かな犬バカの私は、 「おぉ、さすがレトリバーよのぅ、この寒いのに水と戯れるとは血は争えぬものよのぅ。」 …と河原で高みの見物をしていたのである。
しばらく、ばちゃばちゃやっていた…と思っていたのが実は泳いでいるようだと気がついたのは、さらにしばらくしてからで、さらにそれがおぼれているのではないかと気づき始めたのはさらに数分ののちのことであった。
こともあろうにかなはこのくそ寒い中、川へ自ら突入し、川中へ進み、足が届かなかくなって泳ぎ始めたはいいが、きちんと泳げずおぼれ始めたらしい。
ここに至って、やっと事態を把握したおまぬけな犬バカの私は、意を決して川に突入。 かながおぼれている地点まで何とかたどり着き無事に救出。 …といったところで私にとっては腰の高さまでもない水位なので大した苦労でもないのであるが。
かなはしっかり水を飲んだらしくげほげほ言っていたがしばらくすると落着き、体を2~3度、ブルブルっとさせると何事もなかったように車へ歩を進め始めたのである。
こっちはズボンも下着もびちょびちょになりしゃがんでズボンのすそを必死で絞っているのに、まったくもって意に会する様子もない。
ちょっとムカついてきたので、そばにより、バシッとおなかに拳骨をくれてやったのだが、鼻で「ふん!!」といなしてまたさっさと歩き始める。 何やらむなしくなってきたので、私もとぼとぼと車へ帰り、びちょぬれの一人と一頭は帰路へついたのである。
家につき、びちょびちょの一人と一頭は玄関を開け、 「おぉい、だれかバスタオルを二枚ほど持ってきてくれぬか!!」 と叫ぶと、母がバスタオルを数枚持って玄関にやってきた。
母はびちょぬれの一人と一頭を見るなり、 「あんたたちはこのくそ寒い中どこで潮干狩りをしてきたんだい?」
と怒っているとも笑っているとも取れる顔で出迎えてくれた。 そしてぶつぶつ文句も言いながら、私が体をふいている間に、かなをごしごしとふき一言。
「かなと一緒にお風呂にはいりなさい!!」
かくして私とかなは一緒に入浴。 川は好きなくせにお風呂はきらいなかなは結局お風呂ではお湯を浴びたくないと大暴れをし、いい加減腹が立ってきた私と、大立ち回りを演じ、挙句の果てには浴室から脱走し、大掃除の終わった家中を駆け回り、激怒した母親に室内にもかかわらず、リードにつながれ床柱に結ばれるという悲しい大晦日を過ごしたのである。
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