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六甲ミーツ・アート2020行ってきたよ!

2020年10月16日、六甲ミーツ・アート芸術散歩2020に行ってきた。その中から印象深かった作品をピックアップして語っていこうと思う。

コリー・フラー「Lighthouse」

 映画館、コンサート……わたしが受ける音はいつも特定の方向から発され、その音の場所が分かるようになっていた。一方でこの、風の塔の中でうなる音たちは一体どこから鳴っているのか。すべての方向から鳴っているようでもあり、またわたし自身が音で、わたしが音を発しているのかもしれないと思わせられる。音に包まれるとはこういう感覚なのだと初めて知った。混乱した世界の霧の中で、光を発し、人々の信号となるように作られたというこの作品。階段を昇っていくにしたがって、風が吹き抜け、音が地面と共に響き、自分が地に足をつけていることを強く感じさせられた。六甲ミーツ・アートでは、行く先の分からない世界情勢を受けて生まれた作品が、この作品のほかにもたくさんあった。

 階段を昇りきると、外の景色を一面に見渡せる場所へと出る。道しるべがここまで導いてくれた。この音とともに眺める日常の景色がとても気持ちよく思えた。


あとりえナカムラ「爽快な空気」

 鼻だ。鼻がある。

 この自然の中にぽつんと存在する異物。わたしはそこにある木や土や葉や空気と同じように風景ですよ、と言いたげな異物。しかもそれがただのオブジェクトではなく、鼻なのだ。ここは誰かの顔の中心なのだろうか。わたしは誰かの顔の上にいる?いつからわたしは小さくなってしまったのだろうか。そんな気にさせられる。

 この鼻が生まれた背景にはやはりコロナがあった。

 マスクの着用を余儀なくされる生活を経験している身には、空気をたくさん吸えそうなこの鼻が羨ましく思えます。そして新鮮な空気、この爽快さはどこからもたらされるのでしょうか。嗅覚以外の心のあり方も関係しているようです。

 そういえば最近鼻を見ていない。もはや顔とは目とマスクだけで構成されたものとなってしまった。マスクが表向きの顔になってしまったこの時代、いつか久々に鼻を目にしたとき、わたしは鼻を異物だと思ってしまうのだろうか。


河村哲生「死ぬのにもってこいの部屋」

 昔使われていたホテルの一室一室に作品が展示されるという試みが行われていた。どの部屋も、部屋自体が作品となっており、部屋ごとにものがたりが生まれていた。もとは同じホテルの部屋で、同じような空間であるのに、ものがたりが生まれることで部屋ごとの独特な空気が存在した。そんな作品部屋の中で、ホテルの一室という物語をそのまま利用したのが、この「死ぬのにもってこいの部屋」。

 「今日は死ぬのにもってこいの日だ」という一節からはじまる詩が、いくつもいくつも散らばっていて、「死ぬのにもってこいの日」に死なずに過ごした男がいた形跡が残されている。きっと何日もあった「死ぬのにもってこいの日」になぜ死ななかったのだろうか、と考えてしまう。死ぬのにもってこいの日をいつまでも観測したかったのだろうか。死は本当の目的ではない。

八木淳一「八木淳一の部屋」

 一方でこの部屋は死ぬのにもってこいだろうか。

 少し陰鬱さの漂う部屋。作者は、ゴッホのひまわりの絵がずっと頭に残っていて、ゴッホの最期の部屋とこのホテルの一室が重なったという。しかしそういった説明書きを読んだだけではこの部屋のものがたりはあまり見えてこない、とても不思議な空間だ。

 印象的な絵がたくさんあったが、その中でも印象的なこの絵。うっすらと「La Mort」という文字が浮かんでいる。なんて意味だろうね、と調べてみると「死」と出た。説明書き以外の唯一のことば、これはきっとこの部屋の住人が大切にしたかったものなのかな、と思った。

 死というものを考えるとき、それは死を考えているようで実際には生について議論しているのだ、とわたしは勝手に思っている。そんなわたしなので、なんとなく、この部屋からは生きることの激しさを感じた。「死ぬのにもってこいの部屋」の住人は、部屋にある程度満足していたのに対し、この人はこの部屋では落ち着きたくない、ここで最期は迎えたくない、なんとかしてこの空間から跳びだしていきたいという意志を感じる。ここでは終わりたくないという気持ちが、いろんなかたちで絵になり、絵でさまざまに試みてみるのだけど、どうしてもここから出ることができない。そんな絶望感が形になったのが、この「La Mort」なのだろうか。

 色づいた絵が少ない中で、ひまわりの絵が色づき、使い古された絵具たちが散らばっている。この人は絵具を何に使ったのだろうか、と考えさせられる。


全体を通しての感想!

 わたしは昔は芸術作品には微塵も興味がなくて、正直何がおもしろいのか分からなかった過去があるけど、今回の六甲ミーツ・アートでこれほどまでに楽しめたのはとてもよかったと思う。本当に楽しかった。はじめに展示されたものが完成ではなく、鑑賞者も表現者となって手を加えて徐々に変化していくような作品も多く、新しい世界を覗けたと思う。また、今回同じ大学の友人と観に行ったのだが、感じたことをいろいろと話し合うのがとてもおもしろかった。同じ作品を見ても感じることが違ったり、また二人とも「これはいいね!」と思うポイントが同じであったり。いや本当に楽しかった。

 アイスクリームもとてもおいしかった。