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エネルギッシュにいこう

年末のその日は雪予報だった。用事を済ませるため、ダウンに身を包み家を出る。ビュッと冷たい風が頬を打つ。私は足を早めた。
途中、格安ステーキ店の前で開店を待つ客がいた。まだ30分もあるのに、よほど肉好きなのだろう。
下を向いて歩き過ぎる。いきなり、肌色のものが目に飛び込んできた。えっ? 思わず振り返る。草履ばきのほぼ裸足。この寒いのになんと元気なことか。
それは、短く刈った白髪混じりの中年男性だった。真っ赤なナイロンジャケット姿で、テレビ電話だろうか、スマートフォンの画面に大声で話しかけている。周りの通行人たちは見て見ぬふり。
そのその服は似合っていないし、街中での大声はマナー違反だ。でも、少し羨ましく思った。自由奔放な振る舞いに、エネルギーを感じたのだ。
その源は、きっとステーキなのだろう。赤い血を滴らせ、むさぼり食う彼の姿を想像する。不思議と力が湧いてきた。よし、来年はたくさん肉を食べるぞ。そう誓うと、私はダウンの襟に顔をうずめて先を急いだ。

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