大学生×☁️×🀄️ 番外編

「ノーレート雀荘」

雀荘なんてお金をかけるところでタバコも吸うし、お酒を飲む人だっている。

それが当時の麻雀をはじめて間もないなぐもの「雀荘」に対するイメージだった。だが、噂によるとそういった不健康要素を取り除いた「飲まない×吸わない×賭けない」の「ノーレート雀荘」なるものがあるというではないか。




大学終わりにそのノーレート雀荘に向かいながら、なぐもは心を躍らす。


行ったことがない雀荘に向かう道中はいつだってこんな気持ちだ。でもこの日はいつも以上に心を躍らせている理由があった。



「いらっしゃいませー、ご新規の方ですか?」

扉をあけるとワイシャツにネクタイをした眼鏡の従業員が声をかけてくれた。ルール説明も終わり、ちょうどタイミングよく自分が卓に入れるようだった。


そういえば、とわすれていたのを付け加えたかのように眼鏡の従業員は言う。


「ゲストプロの方との同卓は希望されますか?」


そう、今回なぐもが目的だったのはこれだったのだ。



麻雀にもプロがいるんだよ、と聞いた時、あってみたい、目の前で見てみたいと思った。

できることなら、叶うのならプロの人と一緒に麻雀を打ってみたいと。



初めて打つプロの人はどんな麻雀をうつのだろう、やっぱりなぐもなんかでは話にならないんだろうか。

そんな妄想を膨らましている内にゲストプロの方が回ってきた。



「はじめまして、本日ゲストプロの棗みいなです。よろしくお願いします。」

と綺麗なお辞儀をして、自己紹介する。


プロと言うだけあって強いし、何より姿勢がとても綺麗だ。あんな姿勢のキープは、猫背のなぐもには無理である。

だが、そんなものに見惚れている場合ではない。

現状は南4局のオーラス

親 棗さん:33000

モブA:30000

モブB:31200

なぐも:5800



そう、ダントツのラスなのである。倍満ツモでもひっくり返らない状況である。

(ただ、当時のなぐもは点数計算が怪しかった上に、少なくともオーラスの着順条件を麻雀打ちながら計算するというスペックはなかった。ゆえにとりあえずめちゃくちゃヤバイ状況という程度の認識しか持っていなかった)


やはり自分なんかではプロの人の足元にも及ばないのだ。棗さんだって両脇のモブABだって心の中では自分のことをわらってるに違いない。

だけど、それでも自分にできる上がりをしよう。




10巡目、もう終盤と言っても再支えないところで、なぐもは仕掛けを2つの入れていた。

4sチー56 s  白ポン白白    111s 67s東東


58s待ちの聴牌である。

しかし、捨て牌からみてもバレバレのソウズのホンイツだ。字牌やソウズも余ってるし、他家からも聴牌と見るのが普通だろう。




そんななか12巡目、5sが棗プロから打ち出される。


「さ、3900!あ、あれ?これは符ハネ……?」

この半荘はじめての上がりが嬉しかったのか、声を震わせてしまう。

「うん、そうだね。これは5200だね。」

と訂正してくれながら点棒を丁寧に俺の前に置く。

だが……





モブたちの視線が棗プロから打たれた5sから視線が離れない。後ろ見していた眼鏡の従業員も眼鏡をクイクイ押し上げながら、黙って見ている。


なにかこの上がりが問題あったのだろうか? 雀荘によると特殊なルールが採用されていてそれを守らなければいけないという話も聞く。

うーん……




いくら悩んでもスッキリしないが、とりあえず目的も達成したし、帰ることにした。





帰り道、雀荘での忘れ物を思い出し、来た道を折り返す。



その建物に到着し、小走りで階段を駆け上がる。




二階まで駆け上がり、目的地の雀荘がある3階まであと一歩……!





というところで俺は足を止めてしまう。



「棗さん、今日なんで刺さりにいったんですか」



どうやらその雀荘スタッフが店舗の外で話をしているようだった。

この声はルール説明をしてくれた眼鏡のスタッフだ。


それにしても刺さりにいったとはどういうことだろう。



「刺さりにいった……?どの半荘のこと?」


「ほら、いたじゃないですか。今日新規の人。結構初心者っぽくて緊張してたのかガチガチだった人。えーと、名前なんだっけ………そう!なぐもさん!」

「後ろで見てたんですけど、オーラスで南雲さんの仕掛けに対して5sメンツから抜いてて、あれーってなったんすよ!」


「あー、あの半荘か……」

まるで言葉を探すかのように少し溜めて再び口を開く。

「あの子、あの半荘一回も上がれてなかったんだよね。

フリー雀荘もそこまで経験あるわけじゃなかったみたいだし、せめて最後のオーラスくらい上がらせてあげたかったんだ。

麻雀のこと結構聞いてきて、すごく真剣なんだよ。だから彼にはこのまま麻雀好きでいてほしいなって思っちゃって」




なぐもはその時歯を食いしばって悔しがっていた。




その根源は棗プロ……ではなく、そんな風にに仕向けてしまった自分自身の麻雀にによわさに対してだった。




もっと、もっと強くなりたい。

そう思った事は何度もあるが、その原点はここだったのかもしれない。



今よりもっともっとたくさん勉強したら、いつか対等に麻雀できる日が来るのかな。

そんなことを考えながら、そこを後にした。






3年後にこのプロとオンレートフリーで再会するのだが、それはまた別の話。




おわり




















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