2023年4月の短歌
いろんな虫が飛び始めた。
緑が増してきた。
───────
[4月1日]
朝焼けのポストカードを手渡した 旅立つ君の健闘祈る
小さい四角の透明の窓ガラスをなぞれば木漏れ日が差した
『今年こそ!』希望を胸に輝かす また新たな日々が動き出す
[4月2日]
カーテンを中途半端に開けといて、朝の光に起こしてもらう
いつまでもそばにいるのはきみがいい わたしを包んでタオルケット
林檎の味で一服してる君の姿はいっそ好きが溢れる
[4月3日]
あえてセルフプレジャーと言い換えたり いや職場でする話じゃねえ
何着てこ、服はあるのに服がない、ただかわいいと思われたいよ
『星に手が届きそうだ』と君は言う 僕の手は君には届かない
[4月4日]
琴線に触れることが出来ないわたしはあなたに選ばれたかった
[4月5日]
気づいちゃった 多分だけどわたし月の3分の2腹壊してる
甘くて濃ゆくて喉にくるカルピスの原液みたいな恋をした
もう深夜だけど秘密の散歩に出よう宿泊するためだけの街
[4月6日]
ちりとりからコロコロ逃げるホコリ清掃員さんまだ気づかない
夜に光を浴びた桜を君は誰かと分かち合ったのかなあ
あなたが過ごしてきた、わたしが知らない年月を愛おしく思う
[4月7日]
真夜中にポストまで散歩 書きたての手紙をすぐに届けたくて
きっと花を集めて束にして贈るみたいに手紙を書いている
[4月8日]
雨の日はチャコールグレーの空がいい グラデーションも濃いめがいい
テレビに映るアイドルに似たあのこ お嫁に行って、遠くに行った
[4月9日]
荒れ狂う雨風浴びてはしゃいでる 大人になろうが変わんない
ごうごうと泣き喚いてる風の音わくわくしてるきっと死ぬまで
くしゃみするときの声だけ若返る、うちのじいさん謎の声帯
昼飯食いたいのに起きる気がない ふとんの住人におれはなる
[4月10日]
白い服着てるときに限ってミートソースパスタ食べたいわたし
きまぐれなやさしさだとしてもうれしいよ 生きる気力が湧いたから
[4月11日]
きみと出会えたこともうれしかったこともすべて忘れてしまいたい
[4月12日]
わたしがゴッホだったら去年死んでたな あいつの分まで生きるか
[4月13日]
すきな人のすきな人になるという奇跡をいつか起こしてみたい
わたしはえらい 洗濯も買い物もトイレ掃除まで出来た えらい
[4月14日]
この手紙の中に君を住まわせるわけにはいかないんだ、みの虫
[4月15日]
「美人さんだから自信持って」とはげましてくれたあの人は女神
財布を持たずに出掛けることもある ついつい朝は慌てちゃうから
いいことわるいことなんでもないこと、ぜんぶミキサーにかけてやった
空から透明の糸が降ってくる さめざめと歯に痛みをくれる
[4月16日]
明日は休みだから調子に乗って買い物しすぎ・わくわくしすぎ
手紙の下書きやったとて勝手に暴走しはじめるこの右手
[4月17日]
楽しみな予定をくれてありがとう 夏の盛りまで生き延びよう
[4月18日]
きみを知っていく、カットしたショートケーキの端っこ かじるみたいに
日曜の午後、甥っ子たちとお買い物 あとどれだけ遊べるかな
[4月19日]
耐えきれず溢れた、きみの楽しげな少し高くまるい笑い声
[4月20日]
職場の大きな額縁の今日の中身は白い空と遊ぶ鳥
「クリームソーダをつくろうよ」みんなで計画立てる休憩後です
[4月21日]
タンザナイトを人間にしてみたらあなたになるのかもしれないね
夢の世界が引き留めるから、スヌーズなんかじゃ間に合わないんだよ
[4月22日]
ちょっと働いて、それなりにお金もらって、ほどほどに休みたい
彼女のカバンは大切な人たちからの贈りものであふれてる
二ヶ月先の予約もいま取りたい 思い立ったが吉日すぎる
[4月23日]
明日の服が決まらない、きっと明日になっても決まらない、やばい
ごぼごぼと腹のなかから音がする そろそろトイレとズッ友だわ
軽トラが駆けてトラクターは水のなか泳いでる 夏の準備だ
[4月24日]
ふたつ向こうの電車のドアが閉まり旅立っていく いってらっしゃい
『なんかあったら電話すればいいし』姉の声が温かく響いた
[4月25日]
テレビから流れる推しの声遠く わたし専用子守歌かも
[4月26日]
いいことわるいことなんでもないこと、ぜんぶミキサーにかけてやった
[4月27日]
白いもやのフィルターが街を隠す そして夜が来てみんな消える
[4月29日]
うれしさとせつなさ連れてやって来る、季節みたいなあなたの手紙
あなたの髪の毛に触っても笑ってもらえる人間になりたい
かわいい服を着るし好きなメイクもするしうまい飯もめっちゃ食う
[4月30日]
何回も時計を見てはそわそわしてる もうすぐライブが始まる
───────