【小説】異世界チート記【日記風】③(完結)

※前回の続きです。


89日目
 ガキを新我が家に移した。元の我が家の方のスクリプトは全部削除しておいたから、あの場所はただの廃墟に戻った。はずだ。

 さて、新我が家は空間の限界を気にする必要が無くなったから、広々としている。
 1階にはガキ用の風呂とトイレ、2階への階段、ガキの部屋、食堂兼倉庫がある。2階には俺の部屋と俺用の風呂とトイレがある。
 必要無いだろうが、チーズトーストの時みたく、感化されて入りたい食いたいがあるかもしれん。その時用のものだ。

 建築は基本的にはオブジェクト召喚でなんとかなった。風呂もトイレも構造とセットで存在してたから、それを流用した形だ。仕組みは知らん。使えるから別にそこはどうでもいい。
 えてしてゲームの"そういうの"は大体そんなもんだ。…そういえばトイレがしっかり作られてるゲームは良ゲーなんていう謎の法則もあったな。もうそれも随分昔の事のように感じられるが。

 さて、例の幽霊は折檻部屋に入れたままだが、あそこもガキがしでかした時に使おうと思っている。
 だから、空ける必要があるんだが。

 どうすっかな。アレ。
 罰の結果、偽データ被った俺が部屋に入ると怯えて首を横に振るようになったが。
 ……そろそろ外に放り出してもいいか。反抗心はくじけたろうし。

 そう思って、部屋から出した瞬間。
 たまたまそこにいたのか、ガキが目を見開いてその場から跳び退った。
 もう長い間聞いていない唸り声でこっちを威嚇し始める。
 すると一転、幽霊も騒ぎ出した。

「あれっ!?わしの体!わしの身体返し……っ!?」

 だが、すかさずわきの下に手を入れると幽霊の方は硬直した。
 流石にまだ記憶に新しいか。イヤイヤと首を振り始めたな?
 一方のガキはまだ唸り続けている。何か因縁がありそうだが…。

 別にどうでもいいな。そう思って放り出した。
 もうすすり泣きは気にならなくなるだろう。だって空間違うし。

89日目
 昨日からガキがうるさい。唸り声は止んだが、頻りにあの幽霊のことを聞いてくるようになった。
 こいつにはそもそも見えてないはずなんだが……妙に野性っぽいしそういう勘か何かか?
 曰く、居なくなったか、曰く、来ないか、そればっかりだ。

 いい加減うんざりして外に散歩に出かけようとすると、また裏からすすり泣きが聞こえる。
 マジかよ。クソが。

 このままでは放置していても終わらない予感がしたから、仕方なく関わることにする。となると、もう無敵化して1から10まで話を聞いてさっさと解決するのがいい。
 もうこの件で1秒も平穏を脅かされたくない。

 えーと、ココから先は音声ログと思考ログを残すようにしよう。
 どうせ長くなるからな。音声ログ参照して日記書くのも辛いし。

 で、裏に回るも幽霊がこっちに気付かないので、近くまで寄ってみる。
 すると、こんなことを呟いていた。

「わしの体ぁ…わしの体返してぇ…お願いぃ…わしの体ぁ…」

 延々とコレだ。
 もういい加減俺も分かってる。こいつの体がガキの体なんだってことは。
 だがそうなると、ガキに入ってるのは誰なんだ?
 それを聞くために、そいつに声を掛けることにした。

「わひっ!?えっ!?あっ!!もうイヤじゃあ!!くすぐらないでぇ!!」

 案の定、遁走されかけたが、やつの背後を進入禁止エリアにしておいたので、無様に壁にぶち当たり、今度はそれにビタ付きし始めた。それを見つつ、やつの横と背後も進入禁止エリアに変えて閉じ込める。
 いわゆる透明の壁だから気付かないんだろうが……これで袋のネズミだ。

「お前は何なんだ?状況を説明しろ。簡潔にな」
「わ、わしっ、わしは…わしはぁ……」
「簡潔の言葉の意味が分からないか?」
「わ、分かっておるぅ!!じゃから!くすぐりは…!!」

 元々放り出すつもりでやってたからか、ちょっとやり過ぎたようだ。
 くすぐりに怯えすぎて言葉もまともに話せなくなったか。
 ……うーん。

「分かった。もうくすぐりはしない。約束しよう」
「信用できんっ!おぬしはそう言う目をしておるっ!!」

 中々良く分かっている。おイタをすれば即刻くすぐろうと思ってた所だ。
 だが、それじゃあ話が進まない。

「じゃからっ……この書類にサインしてもらおうっ!」

 すると幽霊が一際薄くなったかと思うと同時に1枚の薄青く光る羊皮紙が出現した。
 羊皮紙には読めない文字が書いてある。

「これなんて書いてあるんだ?読め」
「そんな時間は無いっ!はよぅサインするのじゃ!」
「その手には乗らない。ところでお前消えるのか?」
「じゃからサインをせぇと…っ!?」

 それなら消えないならいいんだろうと、その幽霊のMPを上限MAXまで上げた。

「そ、そうじゃった。こいつっ…!くっ」
「これで消えないだろ?ほら。読め。嘘ついたらくすぐりだ」
「わ、分かった!分かったからぁ!!」

 やけくそになった幽霊は光る羊皮紙をビリビリに破いて霧散させると、ようやく全部を話し始めた。
 が、長かったので割愛する。

 どうやら、こいつは別大陸の悪役で、散々悪いことをした結果、その大陸の英雄にボコされて、這う這うの体でこっちの大陸に逃げ延びた、と。
 ところが、こっちの大陸にその英雄の仲間がおり、後詰め封印されそうになって猫に憑依して逃げ出し、その先で俺に捕獲された。らしい。
 これでゆっくり療養出来る、と思ったのもつかの間。俺がギルドの依頼に協力した結果、老い先短いおばあちゃんの元へ。
 そこから逃走→捕獲を繰り返した結果、猫の体が逝き幽体化。
 ここまでくると当たって砕けろ精神で体の痕跡を探した末に我が家へと辿り着くも、何故か中に入れずすすり泣いていた、のが数日前のことらしい。

 長いわ。

「で?」
「おぬしがたずねたんじゃろがい!!」
「くすぐられたいようだな?」
「すまんかった!!…や、止めてくれぇ!くすぐりだけはぁ!!」
「……で、何でその悪者に体を与えなきゃならんのか」
「そっ……それはぁ……」

 どうやらそこまで考えてなかったようだ。
 当たって砕けろ精神で当たって砕けたわけだもんな。
 だが、俺が穏健派だったお陰でまだ生き残っている、と。
 控え目に言って感謝されるべきでは?

「ありがとうは?」
「な、なんじゃって?」
「生かして下さりありがとうございます。は?」
「んなぁ!?なんじゃってそんな「くすぐ」生かして下さりありがとうございますぅ!!」

 うん。よろしい。
 ……さてと、こんなコントをしてる場合じゃないんだが。
 体、体ねぇ……あっ。そうか。出来なくはない、か。

「……あのぉ」
「いいぞ。用意してやれなくはない」
「……えっ?」
「ちょっと待ってろ」

 硬直する幽霊を背にウチに引っ込み、ガキのIDを参照して、データをコピーする。
 外に出て、それを空きIDにペーストして召喚。俺の精神衛生上、睡眠のデバフを掛けておく。

「ほらこれ」
「な、なんじゃ?急にどうしたんじゃ…?」
「いらんのか?」
「いる!……じゃが、さっきまで抵抗しておったのに」

 そう言って幽霊は俺を見上げてきた。

「気が変わった。渡した方がさっさと済みそうだったし」
「……まさか罠か?」
「さっさと済ませたいのに罠仕掛けるわけ…はぁ、もういい」
「いやいやいや!分かった!もらう!もらうからぁ!!」

 最初からそうすればいいんだ全く。
 そして、その言葉の直後。
 そのコピーが消し飛んだ。
 その風圧?で幽霊が情けない声を上げて吹き飛んでいく。

 ここでまさかの第三勢力。思わずため息が出た。
 無敵化していた俺と非破壊オブジェクト化してあったウチの前の地面はともかく、何のバフもかけていなかったコピーは跡形もなく消えていた。一体どんな威力の攻撃だよ。おかしいだろ。

「……私のストームジャベリンを受けて無傷とは恐れ入る」

 駆け寄ってきたローブを身に着けた如何にも魔術師然としたやつが、数歩先で立ち止まった。
 表情はフードで隠れて見えないが、今にもなんか出そうな輝きを放っている長杖をこっちに向けている以上、友好的ではないはずだ。

 この場にいるだけでややこしくなりそうな吹き飛んだ幽霊は、ノールックでID検索からの特定後、ウチの監禁部屋に転移させておく。
 これでひとまず、幽霊がアレにいらんことをするという最悪にめんどくさい展開は回避できた。最後まで面倒なやつだなアイツは。

「俺に何か?」
「……フェン・ルーン・ゼクトスとはどういった間柄だ」
「…誰だって?」
「とぼけるな。お前が抱えていた魔王の名だ。知らぬとは言わせぬ」

 あの幽霊ってそんな仰々しい名前だったのか。しかも魔王。まぁ、どうでもいいが、それより。

「そいつ、まだ生きてるが」
「なんだと!?今しがた吹き飛ばしたはずだ!二度は無い!!」
「あんた、あれがどうやって逃げたのか、もう忘れたのか?」
「っ! ど、どこだ!?どこにいる!!」

 先ほどの本人による話にも出てきたが、たぶんこいつは別大陸の英雄の仲間なんだろう。これで人違いだったら笑えるが、この慌てようを見る限りではそれは無さそうだ。
 こいつもアレと同じで痕跡を辿ってきたとかそういうクチなんだろうが。
 お前ら犬か何かか?痕跡ってそんなにあるもんなんだろうか。分からん。

 余裕ぶっこいてたスかしたローブ何某は一転、泡を食って俺に掴みかかってきた。
 その勢いでフードが後ろに少しずれて、その内容物が露わになる。
 ……ふむ。中々の美人だが、目の下にはクマがあり、肌荒れも見受けられる。-15点。

「あれは滅ぼさねばならない!放置すると未曽有の大災害を呼び寄せるぞ!!」

 ここで『それはない。あれは俺の支配下にある』とか言ってもいいんだが。俺はそれよりも、別の事が気になり始めていた。幽霊は正直どうだっていい。ただ、その幽霊の体には本体ではない何かが入っていた。
 それがずっと俺の中で引っかかっている。
 見当がついてないわけでは無いが。それはそれとして、証明が欲しい所ではある。

 で、こいつはガキとは言え人間の体一つを余裕で消し飛ばす程度には高位の魔術師だ。
 これは俺のメタ読みだが、往々にしてそういう人種は賢いもんだ。
 さすがに、俺がチートで読み取ったガキの内部情報を解析できるようなレベルの天才ではないだろうが、それなりの手段でガキの状態を診断できる秀才……ではあるかもしれない、と見た。

「2つ、条件を満たせば引き渡してもいい」
「なにっ……無条件で、とはいかないか?」
「一応、アレは俺の所有物でね」
「……分かった。条件を聞こう」

 幸い相手は馬鹿じゃなかったらしく、手を放し一言詫びを入れ一歩退いた。

「一つ目。あんたにその…ナントカって魔王の体に対面してもらう。その際の攻撃の一切は禁止する。その体への攻撃は俺への敵対行為とみなし、交渉不成立とする」
「待て。魔王の体、と言ったか?どういう意味だ」
「少なくとも、それは魔王じゃないってことだ……説明が難しい。見れば分かる」

 怪訝な表情のローブ何某を無視して二つ目だ。

「二つ目。魔王の能力は軒並み封印した。これ以上の罰は無いだろう。だから、お前が引き取り、冒険者として働かせろ。そいつが自立できるようになった段階で、二つ目の条件は破棄する。但し、その後も元魔王に危害を加えることは禁ずる」
「…はぁ?」

 どうせ、平和ボケした俺はあの不運な幽霊を放り出せはしないだろう。
 あのガキすら放り出せないんだからな。
 ただ、特大の爆弾ではある。魔王とか願い下げだ。

 だから、アレの世話をしたくなかったが。
 こいつがそれをやってくれるなら万々歳だ。
 俺はアレを笑って送り出せる。素晴らしきかな。

 冒険者を選んだ理由は特に無い。
 それが丁度良さそうだったからそうしただけだ。
 異世界なら冒険者でOK、みたいな。そういう次元の話だな。

 ローブ何某は暫く頭を抱えてブツブツと独り言をつぶやきつつ悩んでいたが、しばらく後に顔を上げると、こんな提案をしてきた。

「まず、1つ目を履行してから判断しても良いだろうか」
「なるほど。こちらも支障は無い。いいだろう」
「有難い。よろしく頼む」

 見れば分かると言った手前、これを断るのは理不尽だろう。
 そういうわけで、最初にウチのガキを見せることにした。

 まず、ローブ何某を置いてガキの元へ転移し、ガキに無敵化を施す。
 何かあってからでは遅いからだ。あれでまだ信用には値しない。

 次に、一時的にローブ何某の通行を許可して扉をくぐらせる。

「んなぁっ!?」
「うるさい。奥まで行け」

 驚くのは勝手だが、声がでかい。
 目を皿のようにして何の変哲もない我が家を観察するローブ何某を急かして、ガキの部屋へと向かう。
 まず、俺が入り、次にローブ何某を入れた。

 ガキはすかさず俺の後ろへと回り込む。が。そのわきの下に手を入れ、俺の前へ持ってくる。
 いつもより落ち着きが無いが、仕方ないだろう。
 拾った時以来、裏で襲われた時にしか人間を見てないからな。

 ローブ何某は、俺に掴まれて少し暴れた後に諦めて大人しくなったガキをまじまじと見つめている。
 危害を加えないという約束は守られそうだ。杖は背後の壁に立てかけられている。こいつが杖無しでも魔法が使える、とかが無ければ、だが。

「驚いた。このようなことがあるとは…」
「これの中身が魔王でないというなら、何なんだ?」
「ふむ……そうだな。一つ、魔法を行使する許可を頂きたい」
「内容にもよるが、どういう魔法だ?」

 そいつの説明によれば、肉体の魔力気質を微細なマナ波で揺らし…云々。
 要はアナライズ的な魔法で魂の情報を引き出すことが可能、ということのようだ。
 そのために、ガキに掛けていた無敵化は一時的に無効にしなければならなかった。念のため、HPを最大値で固定化したから、即死は無いだろうが。

 それでも一応、危害を加えないことを念押しした上で許可を出すと、早速それを始めた。
 正確には魔法ではないらしいが、正体が分かればどうでもいいことだ。

 ローブ何某は瞑目して1度、深呼吸すると、その手から逃れようと身を捩るガキの胸に手を置いた。
 目を僅かに開き、全身に手のひらを滑らせてゆく。
 その手が胸元まで戻ると、大きくため息を吐いた。

 その後も、難しい顔つきでしばらく瞑目していたが、目を開くとすっと神妙な表情で目を合わせてきた。

「猫だ」
「何だって?」
「これに入っているのは猫だ」

 一応、なんとなく分かってはいた。
 アレが逃亡中に猫に憑依したということは、その猫の中身が人間の体に入ってもなんらおかしくは無い。
 いわゆる入れ替わり、というやつだ。

 ただ、それはそれとして思わず聞き返したくなる内容ではある。
 だって、猫だぞ猫。人間に入ってるのが猫だってよ。

「だが、厳密には猫ではない」
「…は?」
「人間の体に猫の精神が入ることはまず無い。だが、実際には入ってしまった。このことによって、猫の精神が人間のそれのように変質している」

 ところが、真相はちょっと違うようだ。
 猫に違いないが、つまり、人間のようになった猫ということか?
 まぁ、確かに、猫は人語を理解しな……あっ。そういえば、人語を話せるようにしたんだったか。
 それによって、より人間に近付いた説はあるな。

「なるほど。納得した」
「……それでいいのか?」
「ああ。……そういえば、お前はいいのか?」
「何がだ?」

 俺はともかく、こいつは魔王を追っていて、中身が猫とはいえ、魔王の体を見つけたわけだ。
 その体をどうするのか、興味があったが。

「どうもしない。そもこの場を創ることが出来る者が管理しているのだ。
 これ以上のことはない」
「……はぁ」

 ローブ何某はやけにキラキラした目で俺を見つめたが、何を求めているんだこいつは。

「で、二つ目の条件は?」
「受け入れるとも」

 何故か快諾したので、ローブ何某を食堂のテーブルで待機させ、監禁部屋へと向かった。

 そこでは幽霊が部屋の端で蹲っていた。
 俺が声を掛けると、ビビクゥッという感じで大きく震えた。

「おい」
「はいぃ!!くすぐりだけは勘弁してくださいぃ!!」
「よし、場所を移す」

 トラウマが深くて話にならなさそうだったので、ウチの扉前take2だ。
 ローブ何某はウチの食堂にいるので、もう邪魔が入ることも無いはずだ。
 幽霊は転移にもビビリ散らかしていたが、転移先が何処かが分かるとローブ何某が居た方を凝視して、そこに何もいないことが分かるとひとまず落ち着いたようだった。

「さっきの話の続きだ。これをやる」

 二度目のコピペで、睡眠状態のガキの体が出現した。
 えっ?という顔で幽霊は俺を見る。何なんだ。

「いらんのか?」
「いるっ!いるんじゃが……イミューテは?」
「誰だそれ」
「さっき見たじゃろう!あの高慢ちきハイプリーストじゃ!!」

 幽霊はハッとした様子で口を押え、機嫌を伺うように俺を見る。
 そう言えば名前も職業も聞いてなかったな。まぁ心底どうでもいいが。

「もういない。見れば分かるだろ」

 そう言ったが、幽霊は一切信用ならないという目で俺を見た。
 その判断は正しいが、それはそれだ。

「分かった。それなら取引をしよう」
「取引じゃと……わしをはめるつもりか?」
「はめられて文句言える立場に無いだろお前。さっき俺に何しようとしたかもう忘れたのか?」
「ぐっ…」

 カウンター食らって押し黙ったところで、話の続きだ。
 こいつには同伴を付けた状態でAランク冒険者になってもらう。
 それまで、肉体は貸しで、Aランクになった暁には完全にこいつのものになる。
 そう話したが、幽霊はさらに表情を険しくした。

「簡単すぎるのじゃ。絶対に何かデメリットが」
「制限時間は10秒。10秒たったらこれを消す。10、9、8…」

 コピーを指差してカウントを始めると、幽霊は分かりやすく動揺した後に、ぎゅっと目を瞑ると肉体へと入り込んだ。代わりにはじき出されたコピーの幽霊?をすかさず処分する。
 コピーはあくまでコピー。オリジナルはあるからこれは必要無い。

「はっはぁ!わしを拘束せんかったのが運のつ……き…」

 跳び起きて、俺を指差し勝ち誇った表情をしていた元幽霊は手をわきわきさせて近付く俺を見て青ざめた。
 ガキのコピーである以上、性能はガキのそれと同じだ。
 もうかなり前のことなんでよく覚えてないんだが、たぶん病気治療とかの時に軒並み消して一新した結果、スキルやら魔法やらもまとめて消えたんだろう。ドンマイ。

 懸念していた元の魂が入ったことによる影響も、『ガキの中身は猫』判断で解消済みだ。唸りはしたが、動きは人間の域を超えず、引っかきもしてこなかった。
 つまり、引継ぎは人格と記憶だけ。
 スキルと魔法は肉体のデータってこった。
 なお、ログ遡れば復元することも出来るだろうが、そこまでやる義理は無い。

「ゆ、ゆるして…」
「冒険者に」
「なるっ!なるのじゃ!!」

 これで問題は解決した。あとは引き合わせるだけだ。

 その後、妙に聞き訳が良くなったローブ何某に拘束されてこの世の終わりみたいな顔で連行されていく元魔王を見送った俺は、久しぶりにゆっくり寝……ようとして手元が少し寂しかったので、ガキと一緒に寝てやった。

 が、やっぱり暑苦しかった。なんで子どもってこんな体温がたけーんだ。
 ……いや、待てよ?そうか。チートで体感を適温にすればいいのか。

 快眠だった。
 でも、たまにでいいな。うん。

終わり


※一区切りついたので終わります。修行の身ですので習作ということでご容赦下さい。お読みいただきありがとうございました。
※実際はもう少し続きますが、そのもう少しがどれぐらいなのか想定出来ないため、書けたタイミングで投稿します。

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