クルオナ
昨日の夕方、劇団員のポンちひ郎が俺の家に飛び込んで来るなりこう言った
「ぐみ沢さん、“クルオナ”って知ってますか?」
いや知らん、知らんしその前に何の連絡も無く突然来るな、頭から窓ガラスブチ破って入って来たからスゲー迷惑、そう思いながらも俺はコイツより5つも年上だし知識の面では絶対に勝っておきたい
「知っているよ」
言ってしまった、しかも「知ってるよ」でいいのに普段言わない「知っているよ」の方を言ってしまった、人は嘘をつく時こういう所に出るのかもしれない。さて、次はどう来る?
「え、もしかしてもう握りました?」
握る???なにそれ???
「握っ…た」
「え!もう握ったんですか!?何回握りました?」
何回???何回も握る物なのか?おむすびかな?
「さん…」
「え…?」
「じゅ…」
「お…」
「うはっかい、38回だね」
「すげー!!!一度でですか!!?」
「うん、一度で」
「大丈夫ですか!!?」
あぶねー…この反応を見るとおむすびではないな。適当にあしらって後で調べよう。「大丈夫ですか?」と聞いてくるところを見ると恐らく何回も握る事によって自身に何らかの影響を与えるものだろう、ややもすれば人間の五感的感覚に準ずるなにかかはたまた…まだ拭えない部分が多いな、これはどうだ?
「ポンだったら何回くらい握れる?」
「一度でですか?」
「一度で」
「それは連続してって事…?」
「そう連続して」
「最初はパーで?」
「パーで」
「握る時は…」
「グーで」
「触るっていう事ですよね?」
うるせーな!!!!!握ってんだから触るだろボケッ!!!早く答えろよ!!!!!
「そう」
「いや〜…………無理ですね」
無理なんかい!!!!!!!!!!!!!
なんだ?全然分からんぞ?????
「ああそう、俺は38回握ってるけどその点についてはどう思った?」
「男らしいなと思いました、それってその…“ブツ”はどのくらいの強さで握るんですか」
“ブツ”???
「あ〜、まあ強めに…」
「やっぱり、そうですよね強めじゃないと感じないというか意味ないですもんね…」
まさか…
「ポンはさ、それ握ったらどう感じると思う?」
「僕はぁ……気持ち良さそうかなと」
「ああ、そう」
間違いないっっっ!!!
“狂い咲きオナニー”の略だ!!!
毎晩やってまあ〜〜〜っす!!!!!!!
プロファイリング完、圧勝。すまんな。
いやしかしポンちひ郎よ、おめでとう。これが君の信じた劇団ジェット花子の主宰ぐみ沢のマジカル頭脳パワーだ、これからもよろしく。
では、ウイニングランと行きますか
「え ていうかさ、ポンはまだやってないの?笑」
「そうなんすよ、金無くて」
「金って 笑 今の時代タダで出来るっしょ 笑」
「え!どこで出来るんですか!?」
「いや家だろ 笑」
「もらって来たんですか!?」
「え?笑」
「どこに居るんですか!?」
「どこって 笑 ここ(股間)?笑」
「なんでですか!そんなとこ入れたら死んじゃいますよ!!!」
「そうだな 笑」
「笑い事じゃないですよ!!!」
「笑」
あれれれれ???なんか変だぞ?????
居るとか死ぬとかってなに???っていうか
“狂い咲きオナニー”ってなに??????
オナニーに“狂い咲き”付けるか??そもそも“狂い咲き”ってどういう意味???
いやいやいやそんな事考えてる場合じゃない、スマホで調べるか?いや今この状況でスマホなんか手にしたら不自然過ぎる、コイツでも知ってる“クルオナ”というやつを俺が知らない事がバレでもしたらまずい、ましてやあたかも知ってるような振る舞いで、そして一時はマウントを取っているかのような口振りで接してしまった以上後戻りは出来ない、なぜなら不信感しか残らない結末が容易に想像できる、即ちそれは劇団主宰としての死。
冷静になれ、冷静になれば必ず答えへの道のりは…
そうだ、金が無いって言ってたな、という事は結構高価なものだ、あと股間に入れたら死ぬって言ってた…っていう事は……
【チワワ??????】
この線で行ってみるか…?いやいや流石に股間に入れたら死ぬ=チワワは精度が悪過ぎるような気もするな、でも確かコイツ犬好きだったから無くは無いはずだ……
「チワワって可愛いもんな」
「え なんでチワワ???」
【チワワじゃないな】
ちょっとチワワの発音濁せば良かったクソ、もしチワワの話してたなら絶対聞き取れてたはずだしクソ、でもでもでもアレだ、チワワの線は消えたわけだから他を当たればいいわけで、股間に入れたら死ぬ生き物を順番に言っていけば
【万あるぞこれ】
ダメだ、そんなもん万あるぞ、あああ〜〜〜〜〜マジでピンチじゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!どうしよう謝るか?いやダメダメダメ!バカだと思われる!劇団の主宰はバカだと思われるのが1番嫌いなの〜〜〜〜〜〜〜!もうダメだ!あああ〜〜〜ダメだ〜〜〜〜ウンチ漏れる〜〜〜〜〜〜〜〜!
「ぐみ沢さん!」
「はいっっっ!!!!!!!?????」
「うるさっ」
「あ おおすまん、どうした」
「早く出してください!氷水に入れないと!」
「氷水?」
「そうですよ!すぐ元の環境に戻さないと!」
「クルオナ?」
「はい!!!」
「え ちょっと待って」
「無理矢理取りますよ!?」
「いやマジで待ってって!」
「なんなんすか!!!!!!!」
「もしかして!!!!!!!!!!!!!」
【それ、クリオネじゃね?】
遅かった。ポンちひ郎は度々言葉を言い間違える、そんな事は長い付き合いの中で分かっているはずだった
その後、元自衛隊員である彼の腕力に屈し局部をひねり出され涙ながらに横たわる俺に向かって
「もう…完全に溶けきってんじゃねーっすか……」
と、言い残し失意の顔で帰って行った「なんで最初に握ったか聞いたの?」と思いながらクリオネが人肌で溶けるのか調べようとスマホ片手にゆっくり仰向けになる最中ポンの入ってきた窓に目を遣ると、もう元に戻れない事を知りながら夕陽に照らされ懸命に輝くガラスの先が、今の自分と重なって少し眩しかった。
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