コミュニティからの脱却と接続を繰り返す

先週末の日本フランス語教育学会で久しぶりに東京を訪れた。土日に遠方への一泊旅行となり、月曜日から普通に授業をしていたので、なかなかハードなスケジュールだった。

学会発表の内容は、僕らが作っているフランス語オンラインコミュニティの活動と成果の分析である。

コロナ禍で見舞われたのは、遠方のコミュニティの切断だった。2019年までは毎月のように県外出張をしてプロジェクトを回していたが、コロナではそれが禁じられる。そこでオンラインコミュニティによる新規コミュニティの構築を行っていった。僕らの研究は、自分たちがオンライン上にコミュニティを構築したという経験に基づく教育展開だ。

オンラインに加え、県外出張ができない状況において僕が選択したのは、東大阪への埋没である。スポーツや福祉を中継とする地域コミュニティの構築により、オンラインコミュニティとの両輪が出来上がる。喪失したコミュニティは新たなコミュニティへと生まれ変わり、そこに対面文化の復活が重ねられる。

ゲンズブール主演の『午前4時にパリの夜は明ける』は、1980年代を舞台として、家族のコミュニティを喪失した女性による新たなコミュニティの探究の物語である。家庭に埋没していた主人公・エリザベートが、離婚により家族と切り離され、社会への再接続を試みる。主人公の理想とするロールモデルはラジオDJのヴァンダであろうが、社会活動に専心して家の外にコミュニティを作り上げる娘のジュディットがオルタナティヴな価値を表象する。対して弱々しいながらもラジオ局のコミュニティを獲得したエリザベートの前に現れるのは、社会から孤立した家出少女のタルラである。タルラはエリザベートが変容しなかった場合のシミュレーションとして家族の周囲を浮遊し、息子のマチアスを惹きつけていく。タルラは結局エリザベートのコミュニティに組み入れられることはなく、他の世界へと接続する。家族の崩壊は「再生」ではなく、構成員が外部へと拡散し、新たなコミュニティを獲得することにより漸進していく。

世界がコロナ前に戻ることはない。我々は他者との距離を気にしながら、感染症を含む新たな世界へと拡散を繰り返す。対面への舵取りにより、コロナ前を取り戻したという印象は錯覚に過ぎない。あまりにも容易く空間を超えるツールを手にした我々の目の前で、現実は止めどなく拡張する。この現実に背を向けた瞬間に、我々はコミュニティを喪失したタルラの引力に捕まってしまう。そして社会に逆行し、2019年のまま膠着したノスタルジックなコミュニティは、我々の近くを衛星のように回っている。目の前の他者との「分断」を見ない振りをして「対面」への回帰が行われる現状に居心地の悪さを感じざるを得ない。

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