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武侠世界に想いを馳せると空を舞える気がする

はじめに

今日は完全に趣味の話です。
僕がTikTokを観ていた時、たまたま流れてきたこの動画の歌に思わず聴き入ってしまいました。

この歌、【一笑江湖】は古くから中国ではポピュラーな曲だと思うのですが、最近なぜか中国のSNSなどで、この曲に合わせたダンスがバズっているようなのです。

しかし歌詞で描かれているのは、完全に中国伝統の「武侠小説」の世界観ですね。
そしてメロディも、またこれを歌っている歌手で女優の「韓晴」さんの歌唱方法も、中国の伝統的な文化を表現しています。

今の中国社会でなぜこれが受け入れられているのか?

少々謎ではありますが、長年香港映画を観、中華圏のポップミュージックが大好きだった僕にとって心の琴線が刺激され、思わず何度も繰り返し聴き入ってしまうような曲です。

そこで覚書としてこの【一笑江湖】という歌の歌詞と、そこで使われている「武侠小説的用語」の解説を書きます。

完全な趣味の世界ですが、もし少しでも面白いと思ってくださる方がいたら嬉しいです。


【一笑江湖】原詩

江湖一笑 浪滔滔
红尘尽忘了
俱往矣 何足言道
苍天一笑 笑不老
豪情却会了
对月饮 一杯寂寥

剑起江湖恩怨 拂袖罩明月
西风叶落花谢 枕刀剑难眠
汝为山河过客 却总长叹伤离别
鬓如霜 一杯浓烈

只身走过多少的岁月 看惯刀光照亮过黑夜
侠骨魔心如何来分辨 弹指一梦不过一瞬间
黄沙之中的残阳如血 多少魂魄在此地寂灭
这成败 有谁来了解

江湖一笑 浪滔滔
红尘尽忘了
俱往矣 何足言道
苍天一笑 笑不老
豪情却会了
对月饮 一杯寂寥

也曾横刀 向天笑
数过路迢迢
数不完 夕阳晚照
苍天一笑 乐逍遥
江湖人自扰
留不住 爱恨离潮

【一笑江湖】日本語訳

江湖に一笑、波は滔々
世俗の煩わしさはすべて忘れた
すべては過ぎ去り、語るに足りない
蒼天に一笑、笑いは老いない
豪情は理解された
月に向かって、一杯の寂寥を飲む

剣を振るい江湖の恩怨、袖を払って明月を覆う
西風に葉は落ち花は散り、刀剣を枕に眠るのは難しい
汝は山河の旅人、しかし別れを嘆き長く嘆息する
鬢は霜のごとく、一杯の烈酒

一人でどれだけの歳月を過ごし、刀の光が夜を照らすのを見慣れた
侠骨と魔心をどうやって区別するのか、一瞬の夢に過ぎない
黄砂の中の残陽は血のようで、ここでいくつの魂が寂滅したか
この成敗を誰が理解するのか

江湖に一笑、波は滔々
世俗の煩わしさはすべて忘れた
すべては過ぎ去り、語るに足りない
蒼天に一笑、笑いは老いない
豪情は理解された
月に向かって、一杯の寂寥を飲む

かつては刀を横にして天に笑った
道のりの長さを数えた
数え切れない夕陽の照り
蒼天に一笑、逍遥の楽しみ
江湖の人々は自ら煩わされ
止められない愛憎の潮流

歌詞にある「武侠用語」解説

この歌詞は武侠小説に見られるような武侠世界を描いています。
以下の点からその特徴がうかがえます。

  1. 江湖(ジアンフー)
    武侠小説でよく登場する用語で、侠客たちが活動する世界を指します。
    ここでは「江湖一笑 浪滔滔」として、江湖での一笑が波のように広がる様子を描いています。

  2. 剣と恩怨(剣起江湖恩怨)
    剣を持って江湖の恩怨を解決するというテーマも武侠小説において頻繁に見られます。

  3. 豪情(豪情却会了)
    武侠の世界では、義侠心や豪快な情熱が重要な要素として描かれます。
    ここでもその豪情が強調されています。

  4. 孤独と寂寥(对月饮 一杯寂寥)
    武侠小説の主人公はしばしば孤独な存在として描かれ、月に向かって一杯の寂寥を飲むというシーンはその象徴的な表現です。

  5. 侠骨と魔心(侠骨魔心如何来分辨)
    侠義の心と邪悪な心をどのように区別するかというテーマも武侠小説において深く探求されるテーマです。

  6. 戦いと別れ(汝为山河过客 却总长叹伤离别)
    戦いや旅路における別れの哀愁も武侠小説の重要な要素です。

この歌詞は、剣士の人生、戦い、別れ、孤独、そして時の流れを描いており、まさに古典的な武侠小説の世界観を表現しています。

最後に

このような武侠の世界は古くから中国では小説や漫画、そして映画の題材になり、文化として親しまれてきたようです。

僕は1980年台から90年台に香港映画界で巻き起こった「古装片(時代劇)」「武侠片」ブームの時にさまざまな作品に触れ、その魅力を知りました。

さらに2000年台に「アカデミー外国映画賞」を受賞した「グリーンディスティニー」にすっかり魅了されてしましました。

それまでは「主人公がクルクルと宙を舞う荒唐無稽な世界」という認識だったのが、長年の修練によって想像を絶する能力を身につけた達人のいる世界観であることを理解し、楽しめるようになったのです。

だからこの【一笑江湖】のような雄大な曲を聴くと、映画で観た武侠の世界に想いを馳せて、自分も空を飛べるような気がしてしまいます。

という多くの方にとっては全く感情移入できない趣味の話を書いてしまいました!





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