おにいちゃんとぶーちゃん

たーにんぐぽいんと その2

ゴールってなんだろう? 

なんにでも終わりは来るけど、終わりは「終了」じゃなくて、必ず次がある。永遠に続くゲームのように「クリア」したら次のステージ。目標を達成したら次の難関・・・・

小学校の高学年、急に女の子から少女に成長していくまわりについていけなくなったわたしは、したたか浮いた。幼少期はまわりとは違って背も伸びなければ体重も標準ではなかった。なのにこの頃から、体だけが女になろうとしていて、実に気持ちの悪い生き物のような気がしていた。背の小さい自分なのに、まわりと違う自分はどこかおかしいのだと思っていた。「個性」とか「個体差」という言葉を知らなかった
なにかが少しずつ、自分を置いて行くように回り始めているような気になっていた

中学に入るとまた一変、手のひらを返したように、校庭で一緒に遊んでいた女子たちはしずしずと教室の隅に固まり、そんな様子をよからぬものを見つけたように眺める男子。小学校とは空気がまるで違う、わたしにはその光景が異様に映った。気持ち悪い空気が漂っていた。ここにいてはいけない違和感、胃のあたりがシクシクとし始めたのもこの頃か
それまで仲良しだった年上の友人を、制服を着た途端に「先輩」と呼び敬語を使わなければならなくなった。急に大人扱いされるようで窮屈だったし、ついていけてないわたしは当然うまく話せないから口数が減った。そしてこちらも必然的に「部活動」というシステムの勝手が解らず、上下関係に馴染めるはずもなく、夏休み明けには帰宅部になった

なんでみんな、そんなに楽しそう…なの?

一見、みんなはなにも変わってないように見えた。実際それほど変わってもいなかったのかもしれないし、当たり前の変化を遂げていただけなのかもしれない。だけどそれまで自分の浸かっていた「無邪気」な世界だけがすべてだったわたしは、気持ちが追いつかずに新しいものに順応していく術がなかった。術どころか、それを導き出す知恵がなかった。「無邪気」な世界には当然のことながら、上下関係も男女関係もなかった。そのうち「彼氏」とか「彼女」という言葉も飛び交うようになってきた。好きだとか嫌いだとか、そういう感情は理解できても「つき合う」という行為等々、意味が解らなかった。なぜ急に!? ただただわたしは子どもだった

『つき合う』ってなに!?

今の時代の子どもたちはどうなのかは知らないが、小学校から1,2年しか経っていないのに、なぜ急にそんな風に異性を見る視点が変わるのか。なぜそれまで「ちゃん」付けで呼び合っていた年上のお姉さんはわたしを異様なものでも見るような目で見、急によそよそしくなっていくのか。なぜ仲の良かった近所のお兄ちゃんが急に目つきが悪くなって、わたしを知らないひとを見るような目で見るのか。まわりはなにも変わっていないようなのに、わたしだけ違うところにいるみたいだった
空気が読めない。息苦しい。いつの頃からか「助けて」が心の中の口癖になていった

気づけば近所のスーパーにひとりで出掛けることすらできなくなっていた…なにをするにも人の目が気になり、なにをするにも自分は間違っているような気がする。まわりと同じことをしているはずなのに、同じように見えない、自分だけ違う気がする。授業にもついていけなくなり、登校拒否にこそならなかったが、授業中はひたすら小説を書くようになった
そのうち「学校」が終われば「大人」になれば、こんな思いはしなくていいんだ…と思うようになった。日々生きていく中で勝手に大きく育っていく身体のように、成長が環境を変えてくれるものと信じて疑わなかった。単純に月曜日が来ても早起きしなくてもいい日がやって来るんだと思っていた。でも「学校」の先には「会社」や「仕事」という「社会」があった。さらにその先には朝一番に起きなければいけない「お母さん」という壁もあった

おとなになれない


わたしはただただ子どもだった。いつま経っても頭の中が「無邪気」なまま…女になっていくからだとは別に、まわりの女子のような変貌を遂げることはできなかった
そう。いつまで経っても「無邪気」から抜け出せなかった。わたしは、いつになったら「大人」になれるのか、途方に暮れた。時間が来れば自動的に「大人」になれるんじゃないの? 体は大きくなっているのに、なぜまわりと同じようになじめないの? わたしだってまわりの友だちのように自然に順応できるものじゃないの!? なにこれ、なにこれ、なにこれ~~~~~

高校は「女子高」だった。当然男子がいない「女子校」は、当時のわたしにとっては少しだけ居心地のいい場所になった。しかし「女子校」はますますわたしの成長を妨げたようだ

そのうち「男性不振」になったようだ。周りはどんどん「女」を有効活用し「彼氏」という肩書の男子との付き合いを優先していった。友だちはみな「化粧」や「髪型」でいろんないい香りをさせていくのに対し、隣にいる人たちは汗臭さが整髪料の匂いに変わっただけの男子だった
わたしとて決して「男」が嫌いなわけではなかった。それなりに「彼氏」という肩書の特別な男子を身に着けたいと思っていた。でもその先にある「つき合う」というカテゴリーに足を入れることがなかなか出来なかった

そのうち自分は「一生結婚できない」と思うようになり、ますますそういうピンク色の世界から遠ざかって行った。それと同時進行に、わたしの妄想はファンタジー一色に変わった。現実に生きていない生き物や、お花畑が脳を支配した。今の言葉を借りて言うのなら「オタク」とか「腐女子」とかそういう人種だったに違いない
なにをそんなに構えていたのか、なにをそんなに恐れていたのか、なにをそんなに難しく考えていたのか、今となってはどれもどうでもいいことだったけれど、あの頃のわたしにはまだまだ「夏の扉」を開ける勇気がなかった

しばらくはそのまま「大人」の皮を被った。「女」という着ぐるみを着た子どものようだった。なぜそれほどまでに成長が著しく遅れたのか、考えても解らないけれど、あの頃の自分に会えるなら、事細かに説明してあげたいほどにわたしは、無垢すぎる少女だったのだ

高校の頃、担任の先生に「もっと大人になりなさい」と言われたことを覚えている。今ならそれがどういうことか理解ができる。でも、だからと言って今のわたしが、自分の求めていた「大人」になれているのかと言えば、そうではない。未だに謎だ。未だ「大人」になれている気がしない。「大人」になることがこれほど難しいこととは思わなかった


いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです