寒さの目安
皇帝ダリアという花をご存知だろうか?
俗に木立《きだち・こだち》ダリアと呼ばれるこの花は、ダリアの仲間なのだが、二階建ての屋根を超えるほどに成長する、実に背の高い植物なのである
こちらに越してきて、植物に興味のないわたしが「綺麗だなぁ」と思った唯一の花だった。それはわたしの母親も同じで、母は「種が欲しい」といった。でも、このお花、寒いところでは花が咲く前にどうにかなってしまう可能性があり…というのも、霜に弱いのだそうで、霜にあたるとまっくろけになってしまうのだ!
わたしの実家は知る人ぞ知る東北地方。多分、この花を育てるには無理がある
種…と言われたが、こちらは多年草で、ある程度になったら伐採して太鼓のバチのようなものをまた土に刺しておけばいいらしい。いいらしいというのは、わたしはやったことがないので、人に聞いた話
そんなわけで、わたしは義母から棒切れのようなものを手渡され、いそいそと母の元に運んだ
最初の年は育たず、次の年は玄関先で霜にやられ、その次の年は玄関の中で育ちすぎて、花が咲く前に天井に阻まれて折れた…
ほらね、だから無理なのよ
秋口か、初冬の頃、ぐんぐん伸びた背の高い植物が近所のそこかしこで見られるようになる。12月になってもまだ咲いていた。そんな姿を見ていると「この辺はまだそこまで寒くないんだな」と思う
街を歩く人達はコートを羽織り、マフラーをしているが、わたしは関東圏に越してきてからそういった防寒着を着たこともなければ買ったこともない。熱くて着ていられないのだ
周りから見れば「おかしな人」に映るだろうけれど、真冬にダラダラと汗をかいて恥ずかしい思いをするか、おかしな人と思われてもコートを着ずに快適に歩くか、と言われたらやっぱり後者を選ぶ
数年前、まだウイルスが猛威を振るう前の頃、実家近くで床屋さんをやっている友達のところに顔剃りに出掛けると、なんと! 店の中にあの「皇帝ダリア」が咲いていた!?
「お客さんに貰った」と言っていたけれど、なるほど、お店なら天井も高いし、いつも一定の温度で快適なわけだから、そこで咲いてもおかしくないのだ
「母親が好きな花」なの…というと「そうなんだってね、株分けしようかって言ったんだけど…」断られたと。それはそれはさぞ悔しかったことだろうとわたしは思った。でも、その店に行けば鑑賞できるのだから、自分の家の庭でまっくろにしてガッカリするよりはマシだろうと思った
わたしも一度だけ、まっくろになった姿を見たことがある
いつも行っているドライブスルーのあるスタバの近くに、広~い畑があって、毎年道路沿いにそって皇帝ダリアが植えられていた。きちんと囲って、倒れないように大事に育てられていて、毎年それを観るのが楽しみだった
ある冬、いつもより寒さが早くやってきた年だったのだと思う。焼け焦げたみたいにまっくろに変わり果てた皇帝ダリアを見た。とても切ない気持ちになった。その年以降、その畑に皇帝ダリアを見ることはなかった。だから、毎年、まっくろになる前に伐採して、毎年接ぎ木していたんだなぁと思った
それからその畑は、整地され、駐車場になった。これも時代か
さて、我が家のご近所さまのお庭に咲いていた皇帝ダリアも、少し前に姿が見えなくなった。ここ最近の寒さで、霜が降ったらしいことを知る。「あぁ冬が来たんだな」と思う。これがわたしの寒さの目安
だから最近は、ちょっと厚地のニット素材のカーディガンを羽織るようになった。ニットでもまぁまぁ他の人からすれば寒そうに見えるかもしれない。でもまさか、ニットの中が半袖だとは思わないだろう。脱ぐこともないし。まぁ、そんな今日この頃です(˶ᐢᗜᐢ˶)