おすすめの1冊

今回は私が「これは読んで良かった」と思う本を紹介したい(第二回目)。

何冊も紹介するのは単純にめんどくさいし、肝心のおすすめ感も出ないため却下。これだけは!という本のみを紹介する。

気が向いたらまたやるかもしれないけど、今回はあくまでも1冊に限定させて頂きたい。

おすすめの1冊|『生物から見た世界』


今回紹介するのは『生物から見た世界』。

本書は生物の見ている世界を科学的な見地から覗き込もうと試みた一冊である。

この本の特筆すべき点はやはり「環世界」だろう。

全ての生物は各々が持つ感覚器官によって世界を認識しているため、全ての生物に共通の客観的な世界は存在せず、あるのは各々が主体的に構築する独自の世界だけ。著者はそれを「環世界」と呼んだ。

難しく書いたが要は蟻には蟻の、蜘蛛には蜘蛛の、人間には人間の世界があるということ。

「環世界」とは?

「環世界」をもう少し詳しく説明するために、ダニを例に取ってみたい。

ダニという虫はターゲットとなる哺乳類の皮脂腺から分泌される酪酸の刺激を頼りに、枝から落下することでターゲットに接近する(その際にダニは嗅覚標識を頼りにしている)。

ターゲットの上に無事着地できたダニは続いてターゲットの皮膚を目指す。ターゲットの毛を掻き分け、皮膚へと進んでいくのだ(その際にダニは触覚標識を頼りにしている)。

ようやく皮膚にたどり着いたダニは、餌であるターゲットの血液をたらふく吸い込み、産卵の準備に入る(その際にダニは温度の触覚標識を頼りにしている)。

そして遺伝子を次世代に託したダニは、その生涯を終えてしまうのである。

以上のことから、ダニは子孫を残すために三つの知覚標識を頼りにしていることが分かると思う。人間の諸活動と比べるとかなりお粗末に感じられるだろうが、その点は心配不要である。ダニはそれだけで十分やっていけるからだ。

またダニは捕食対象が長期間現れずとも、飲まず食わずで生存できるという特性を持つ。中には8年間絶食した個体もいる。そしてこのことから実は時間という概念に関しても、他の生物は人間とは異なる領域で生きていることが説明できてしまう。

ここまでをまとめると、要するに環世界とは、

主体となる生物が知覚する標識や行う作用(今回は説明を省いた)をもとに構築された世界であり、それぞれが作り出した世界は他の生物とは全く異なるということなのだ。

「生物から見た世界」の何が凄い?

あまり正確に伝えられた自信はないが、とりあえず「環世界」という概念を理解して頂けたという前提で話を進めていきたい。

その上で本書の凄さを語るなら、この「環世界」という概念を科学的に証明できたという点に尽きると思う。

「環世界」の存在を知れば人間中心主義や自己絶対性からの脱却が容易になる。人間や自己の認識は私たちだけのものであり、他の生物には当てはまらない。

その事実を知っておくだけでも私たち人間が無意識に抱えている思い上がりや自惚れはグッと少なくなるだろう。すると、自分の認識を絶対視することや、それを他者(他人、他の生物、自然)に押し付けようとする衝動も自然と抑えられるのではないだろうか。そうすることで初めて他者側の世界を想像する余裕や客観性を獲得できるのだと思う。

本書はそんな人間中心主義・自己絶対性に対する挑戦状を叩きつけた一冊だと解釈している。

いずれにしても読んでおいて損はないと言える。




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