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タスマニア 時を旅する その四

クレイドル山…絶景のいたずら

 クレイドル山はタスマニア観光の定番だ。日本でいえばホバートが東京か京都とすれば、富士山のようなもの。この後に訪れる流刑地ポートアーサーは広島、長崎となるのかもしれない。

道中、七面鳥?の一家と出くわす。後の道路の看板は西海岸の小さな街ジーアンの表示

 西海岸のストローンからクレイドル山へ。山と川が入り込んだこの地域の道路も変化に富んでいて、ヨシオは退屈する暇もなかった。
 特に雨上がりの朝、靄が湧き立つ山並みの光景にヨシオは何度も車を路肩に寄せてはカメラのシャッターを切った。交通量が少なく後続車がほとんどないことにも助けられた。

にわか雨に洗われた木々は、晴れ間の陽光に輝く

 実はヨシオは以前から股関節に問題を抱えている。だからできるだけ歩きは避けたかった。クレイドル山は本来トレッキングの聖地のような観光地だ。山歩きをしないなら何をしに行くのか、と言われそうなところである。
 「地球の歩き方2023~24 オーストラリア」のクレイドル山の説明には「車をもっている場合は主要なウオーキングトラックのベースとなる駐車場まで行ける」と書いてあった。
 しかし観光客はシャトルバスでしか入園できなかった。でもまあバスは15分ごとに走っているので、不自由しないものの大観光地とあって、ビジターセンター駐車場はだだっ広く、込んでいて端に車を置いたら、バス停までそれなりの歩きは覚悟しなければならない。

ユーカリの巨木が倒れ、朽ちては森が育つ
ゴードン川を赤く染めるボタングラス。クレイドル山一帯はボタングラスの草原とユーカリの森だ。草の先に焦げ茶色の金平糖のような花?が付いていて、そのタンニンが赤色の元というのだが、これだけで海の色がかわるだろうか

 ヨシオはクレイドル山に2泊3日滞在したが、晴れは到着した午後だけだった。翌日は終日霧雨。3日目の朝になってやっと雲が切れ始めた。
 青空と白い雲が走るこの国立公園は目が覚めるほど美しい。ギザギザの稜線の下に濃いブルーの湖が横たわる。表現は難しいが、ヨセミテと奥入瀬と日本平を合わせたような、と言えばいいのか。
 入山名簿の国籍は欧米からアジアまで全世界だった。
 トレッキングは山道を攻める上級者ルートからホテル周辺の平坦なコースまで選り取り見取りで、さすがに配慮された観光地だった。ヨシオは脚への不安から平坦な木道を10分ほど歩く程度のコースをいくつか歩いた。

「風の谷のナウシカ」腐海の世界を思い起こす
ゴードン川の密林が緑の苔の世界とすれば、クレイドル山一帯は白い苔が縦横に広がっている。朽ちた木々は苔に包まれその養分を土に返す
無風の朝、霧雨がしずくとなって蜘蛛の巣を飾っていた
ボタングラスにもしずくが

 晴れるに越したことはないが、くもりや雨もまた一興である。遠くが霞めば視線は手前に向くからだ。さらに雨上がりという楽しみが待っている。

分厚い苔に覆われた枝
苔むす原生林に小川が流れる
いずれもペッパーズ・クレイドル・マウンテン・ロッジ周辺。川沿いの穏やかな木道が原生林へと誘う

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!