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タスマニア 時を旅する そのニ

気が抜けないないドライブ…あわれワラビー

 どこかを周遊する場合、何となく時計と反対回りが一般的なのだろうか。「地球の歩き方」もそのような掲載順となっている。タスマニアの場合、島の南にあるホバートからきれいな海岸で知られる東海岸へ、さらに北に上がって西海岸または中部の国立公園へという流れだ。
 そこでヨシオだ。
 そのころゴールドコーストで妻のキョウコやヒロコ・ユウジの娘夫婦と、知り合いのオーストラリア人らがちょっとしたパーティーを開き、「ところでヨシオは?」となったそうだ。「今、タスマニアへ行ってます」とヒロコが応えると、変な間を置いて大爆笑になったという。
 そこまで笑うか…。
 そこでヨシオだ。「ならばまず西海岸から攻めてやろう」
 タスマニアの西海岸は、日本からするとかなりレアな観光地だ。実際、大半の旅行者はメルボルンからのシニア層だった。
 ホバートでレンタカーに乗り、スマホと車をUSBでつなぐと車のディスプレイでGoogleマップがナビとして使える。

Googleマップは便利なツールだが、時折とんちんかんな案内をすることもあるので、紙の地図や現地の案内板などを頭に入れておいた方が安心

 「280キロ道なりです」。
 この音声案内にヨシオは、エッとなった。ホバートで西海岸の街・ストローンのホテルを入力したときだった。日本なら大阪から名古屋を超えて浜松あたりまで「道なり」か。
 原野や砂漠が多い豪州大陸とは異なり、タスマニアの道は多彩だ。平坦かと思えば山あり峠あり。制限速度は日本ではせいぜい60キロ程度の片道一車線道路でも、当地では大体100キロ。それが突然45キロのカーブになったりで、何せ道路コンディションの変化が極端なのだ。慣れないヨシオはかなり戸惑った。
 しかも現地のドライバーは律儀に制限速度を守る。ゆっくり景色を見ながら走りたいヨシオだったが、スピードを落とすと、たちまちピッタリ後続車が付く。片側一車線のカーブが多く、追い越し可の車線が少ない。ドライバーの表情から、あおり運転の雰囲気は感じないものの疲れるのだ。
 それが巨大なトラックの場合、スピルバーグ監督「激突」の世界(半世紀前の映画です)。

至る所に動物たちの無残な姿が転がっていた。制限速度を落とすなり動物が道をくぐる通路を設けてやるなり、野生動物と共存する手立てはあると思うのだが

 しかも、目の前にワラビーがピョンピョンと飛び出したり、跳ねられた死体が道の真ん中にあったりして、ヨシオにとっては気の抜けないドライブとなった。
 元々はワラビーやウォンバットの天国だった原野だ。人間が道路を造り、動物たちにしてみれば自分らの庭に突然、時速100キロの鉄の塊がのべつ幕なくぶっ飛んでいるだけなのだ。数トンの凶器が昼夜を問わず。

バス停なのか休憩のベンチなのか。牧場にたたずむ

廃線の哀愁…草に埋もれた駅

 タスマニアを走っていると時折「TRAIN STOP」という標識に出くわす。オーストラリア大陸にも鉄路はあるにはあるが、徹底した車社会だけに鉄道はケアンズで有名な観光路線か、広大な砂漠を貫く「ザ・ガン」などの超豪華列車に限られている。

標識は風雪に削られ、古びて苔さえ生えていた 

 しかし、どう見ても現役で使われている様子はない。ヨシオがネットで調べると、かつては木材運搬用の線路などがあったものの廃線になっているものがほとんどだという。ただ、西海岸には観光用の線路は一部に生きてはいるし、島の中南部で一度だけ特異な鉄道車両が視界をよぎったことはあったが、ヨシオは写真を撮り損ねた。タスマニアの鉄路は謎が多いように思われる。

 

 ホバートからストローンへの道中、ヨシオは廃線を踏み越えた道端に車を寄せた。線路の横にかつての駅はあった。プラットホームはボコボコに割れ草生していた。
 朽ち果てた枕木にさび付いたレールが載っていた。

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!