すてきなおばあちゃん

「色んなところに行ってるのね。
私も世界各国を旅したのよ。」

80を越えているという彼女は
シールだらけの私のキャリーバッグを見て
そう話しかけてきた。
にっこり笑った顔がとても愛らしかった。

彼女は私と同じ県内に住んでいるという。
ご主人も健在で、若い頃からとにかく
あちこちの国に行ったのだとか。
欧米はもちろん、アフリカ、中南米、
オーストラリア大陸、
国内では小さな離島に至るまで、
旅をするのは80歳までと夫婦で決め、
大小関係なく地域を観てきたそうだ。

あそこの国はよかった。
あっちはちょっと危なかった。
あの国にはこんなものがあった。

彼女の目にはきっと今も鮮明に
その情景が浮かんでいるのだろう。
話してくれるその表情は
とても生き生きとしていた。

彼女はこれから岡山に行くと言った。
姉の墓参りに行くのだと。

私は分かっていなかった。
彼女の姉が昨年の豪雨被害で亡くなったことを。

何の配慮もせず被害状況を
聞いてしまったことを後悔した。
しかし、彼女はあっけらかんとしていた。
姉は高齢な上に足も悪かったから仕方がなかったと。
そして彼女はこうも言った。

「私は、もう若いときから色んなところに
行かせてもらって色んな経験をしたから
いつお迎えがきても後悔はないわ。」

少量のお菓子と人懐っこい笑顔を残して
彼女は予定通り岡山で降りていった。


今まで数えきれないほど
公共の交通機関を利用してきたけど
こんなに印象に残る出会いが
あっただろうか。

遠い将来、彼女のように
自分の人生について想えるようになっていたい。
そう感じる、新幹線のひとこまなのであった。

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