見出し画像

ぼくとリバプールとクロップ

僕がリバプールを応援しだしたきっかけは二つあります。一つ目はジェラードの退団です。彼は2015年にリバプールを退団しました。当時ヨーロッパのフットボールを見始めた私は、応援したいチームを探していました。メッ信な私はバルセロナに魅せられましたが、毎試合追いたいほどバルセロナを愛することはできませんでした(良かった)。エジル信者でもある私は、アーセナルにも魅せられました。なぜアーセナルのサポーターにならなかったのか今ではその理由を思い出せませんが(良かった)、決定的な理由を欠いていたことは間違いありません。

ジェラードという偉大な選手がいることは知っていました。彼のようなミドルが打ちたいと練習していた中学生時代もありました。2015年といえば私が中学3年生の年です。ジェラードのプレーをリアルタイムで観ることはありませんでしたが、Youtubeに上がっているプレー集でその凄みは十分感じていました。

そんなレジェンドがフットボーラー人生を捧げる「リバプール」というチームはどんなチームなんだろう。一度観てみよう。ということで15-16シーズンの開幕戦を見てみることにしました。相手はストーク。試合内容は全く覚えていませんが、忘れもしません86分。10番を着けた選手がエリア外から1人で運んで行って理不尽ミドルをぶち込みました。コウチーニョでした。このゴールを見てリバプールを応援することになりました。これがリバプールを応援することになったきっかけの二つ目です。

ジェラードの退団とコウチーニョのミドル。僕とリバプールの出会いに、クロップは関わっていませんでした。当時の監督はブレンダン・ロジャーズでした。やりたいサッカーとメンツが噛み合っていない、そんなチームでした。結果低迷し、解任され、クロップがやってきました。

クロップの初戦はスパーズ戦でした。当時のスタメンを調べてみました。キーパーはミニョレ。ミスとビッグセーブが多い、クロップのリバプールを象徴するような選手でした。DFラインは左からアルベルト・モレノ、ママドゥ・サコー、シュクルテル、クライン。どの選手も守備面が不安ですが、攻撃面と気持ちだけはあって見ていて楽しい面々でした。中盤はダブルボランチにエムレ・チャンとルーカス・レイヴァ。運動量があり、ダイナミックなプレーを特徴とするチャンと、いぶし銀のルーカス。タイプは違えど、補完しあって安定感のある2人です。二列目にララーナ、コウチーニョ、ミルナー。どの選手も運動量があって、流動的にプレーする3人は見ていて本当に楽しかった。今のブライトンのメンバーでもおかしくないラインナップですね。この走り回る中盤がクロップのサッカーを支えていました。最前線にオリギ。クロップがドルトムント時代に獲得を熱望していたそうです。サイズと身体能力が優れていて、シュートがとにかく上手い。晩年はラッキーボーイな面を見せ、長くクロップを支えていくことになる選手です。

結果はスコアレスドローでしたが、内容では圧倒していたのを思い出します。常に走り回り、最終ラインは高く設定し、ボールを奪ったらとにかく前へ。チャンスが多く、エネルギーに溢れ、見ていて本当に楽しかった。私はこの時のリバプールが大好きです。今でもその幻影を追いかけています。僕にとってのリバプールは、サラー、ボビー、マネのフロントスリーでもなく、VVDとアリソンでもなく、南野と遠藤でもなく、ララーナ、コウチーニョ、ミルナーなんです。

このシーズンはリーグ8位に終わり、ELも決勝で敗れ、成績としては悪いといえます。でも来シーズンからが本当に楽しみで、希望しかなかったのを覚えています。その希望は、サディオ・マネの加入によって現実となりました。

16-17シーズン。クロップ政権初の夏の移籍市場では、マネ、ワイナルドゥム(ジニ)、マティプ、カリウスらをチームに迎え、クロップの望む人員整理が進みました。開幕戦はアーセナル。コウチーニョのFK弾やマネの独力ゴラッソなど、チームのスターたちが輝き、4-3で撃ち合いを制しました。マネが縦への推進力を活性化し、ジニが中盤で走り回り、マティプがDFラインに落ち着きをもたらしました。上々の滑り出しを見せたリバプールですが、翌年1月にAFCONのためマネが離脱。そこから調子を落とし始め、ギリギリでリーグ4位に滑り込み。翌シーズンのCLでの快進撃につながりました。

17-18シーズン。ここから本格的にリバプールが欧州を代表するチームに成長していきます。夏にサラー、ロバートソン、チェンバレンを迎えました。サラーはただ速いだけの選手だと思っていたのですが、開幕戦でいきなりゴールを決めると、あれよあれよとプレミアで32ゴールを記録し、プレミアリーグ1シーズンの得点記録を樹立。リバプールでスコアラーへと変貌を遂げました。ロバートソンは半年ほどかけてスタメンに定着しました。抜群のクロスと攻撃参加のタイミング、豊富な運動量でチームに不可欠の存在となりました。チェンバレンは中盤でプレーしたかったらしく、その望みをリバプールで叶えました。サイドでやっていた選手だけにスピードとタフネスがあり、得点力もありました。プレミアとCL両方のシティ戦で放ったミドルは今でも記憶に焼き付いています。チェンボはCL準決勝のローマ戦で負傷し長期離脱を強いられ、その後本来のパフォーマンスを取り戻すことはありませんでした。あの怪我がなければ、ソボスライを獲得する必要はなかったかもしれません。それほど才能に溢れた選手でした。

このシーズンは語ることが多く、クロップのリバプールを象徴するようなシーズンです。冬にはコウチーニョが夢のバルセロナへと旅立っていきました。移籍金はなんと約218億円。この移籍金の半分ほどでVVDを獲得しました。クロップ政権最大のビッグディールでした。よってコウチーニョとサラーの共演は半年で終幕となりました。サラー、フィルミーノ、マネのフロントスリーを生かすため、中盤はボールハントが得意な選手が優先され、コウチーニョの重要性が下がっていたことも移籍の要因の一つです。ですが、コウチーニョを含めた4人が同時にプレーしたときの破壊力は凄まじいものがありました。

プレミアでは4位に終わりましたが、CLではアリソン擁するローマを準決勝で下し、決勝まで進みました。相手は2連覇中のレアル・マドリー。もちろん挑戦者として挑みましたが、出だしは悪くなく、可能性を感じる試合展開ではありましたが、相手のキャプテンに柔道が許可されていては勝ち目はありませんでした。カリウスの痛恨のミスも重なり、あっけなく負けてしまいました。のちにカリウスは脳震盪状態だったという記事も見かけましたが、どこまで正しいかはわかりません。ただ一つわかったのは、素晴らしいチームでしたが欧州を勝ち取るようなスカッドではなかったということです。そういえばアーノルドがチームに定着しだしたのもこのシーズンでした。

18-19シーズン。夏にアリソン、シャキリ、ケイタ、ファビーニョを加え、スカッドに厚みが増しました。特にアリソン、VVD、ファビーニョが守るゴールは固く、安定した守備力を獲得しました。プレミアはわずか1敗。これで優勝できない方がおかしい。リーグ優勝はおあずけとなりましたが、確実にチームとして自信と実力をつけたシーズンでした。CLではバイエルン、ポルトを順当に破り、準決勝はバルセロナ。1stレグではメッシのFK弾を含めた2点、スアレスの1点を喰らって0-3。ああ、これが欧州か、と思わされた試合でした。この試合は実家で友達と泊まりがけで見ていました。メッシのFK弾を前に、この距離は絶対入らんやろ、と友達に言ったのを覚えています。メッシに絶対はありません。

2ndレグはサラーとフィルミーノを負傷で欠いたなかでの一戦でした。結果その代役として出たシャキリとオリギが大活躍。まずオリギが一点。後半途中から出たジニが2得点。Corner Taken Quicklyでまたオリギ。「アンフィールドの奇跡」と呼ばれているこの一戦。その背景には、サブの選手たちが活躍するという、まさにクロップのチームらしい総合力で手にした勝利でした。

決勝はスパーズ。この試合は本当に面白くなく、シソコのハンド、VVDとソンの1on1、オリギの追加点ぐらいしか記憶にありません。いずれにせよCLを獲得しました。クロップ就任から約4年。リバプールを応援しだしたときには想像もしなかった速さで欧州を制しました。

19-20シーズン。コロナウイルスに見舞われ、無観客での試合が行われたシーズンでした。目立った補強はありませんでしたが、CLで対戦したザルツブルクから冬に南野拓実を獲得。日本人にとっては印象深いシーズンです。何よりプレミアリーグを史上最速で制覇。リバプールにとってはプレミアリーグとなってから初のリーグ優勝。CLはアトレティコに敗れ、連覇の偉大さを知りました。このシーズンをクロップ・リバプールの完成形と見るファンも多いようです。それぐらい国内では敵なしでした。

20-21シーズン。レッズにとっては思い出しなくないシーズンです。夏にジョタ、ツィミカス、チアゴ・アルカンタラを迎え、堅実なスタートを切りましたが、第5節のマージーサイドダービーからチームが狂い始めます。その試合でVVDがピックフォードに殺人タックルを食らい、シーズン絶望。そこから相次いでCBが離脱し、レギュラー級の選手が不在に。ファビーニョとヘンドがCBを務める試合もありました。そしてその2人が負傷。ナサニエル・フィリップス、リース・ウィリアムズ、冬加入のオザン・カバクが200%のプレーを披露し、なんとかリーグを3位で終了。アリソンのヘッダーもこのシーズンです。懐かしい。ちなみにCLはまたマドリーに負けてベスト8で敗退。とても欧州を戦う余裕はありませんでした。

21-22シーズン。昨シーズンの鬱憤を晴らすような素晴らしいシーズンでした。夏にコナテを迎え、冬にはルイス・ディアスを獲得。若くエネルギッシュで、それでいて実力十分な2人がチームに勢いをもたらしました。プレミアはまた勝ち点1差でシティに追いつけず。最終節まで続いたデッドヒート。18-19はコンパニ、21-22はギュンドアン。シティのキャプテンは偉大ですね。なおCLでは決勝まで順当に駒を進め、相手はまたレアル・マドリー。決勝でレアル・マドリー。4年前の雪辱を果たす絶好の機会でしたが、クルトワが神に成りました。カラバオカップ、FAカップは南野らサブ組で勝ち上がり、決勝はどちらもチェルシー。PKまでもつれこみ、死闘を繰り広げました。4冠の可能性があったこのシーズン。終わってみれば国内カップ2つのみという寂しい結果に終わりましたが、私はこのシーズンをクロップ・リバプールの完成形とみなしたいと思います。

22-23シーズン。昨シーズンの圧倒的な強さはスカッドの高齢化とマンネリ化によって失われました。夏にダルウィン・ヌニェスを獲得したものの、マネ、南野、オリギが退団。長年チームを支えたアタッカーたちの不在はシーズンが進むにつれて響いてきました。何より高齢化し、若手の台頭を軽視してきた中盤。運動量、インテンシティ、クリエイティビティの全てが失われ、チームは安定感に欠けました。冬に加入したガクポは補強するのはそこじゃないだろとレッズから総ツッコミを食らいました。シーズン終了まで方向性を見失ったチームはリーグを5位で終了。CL権を逃しました。CLではラウンド16でまたレアル・マドリーと対戦。上回ったのは開始20分程度でした。

23-24シーズン。まさかクロップのラスト・ダンスになるとは思っていませんでした。夏に中盤を刷新。ヘンド、ミルナー、ファビーニョ、ケイタ、チェンボを放出し、マクアリスター、ソボスライ、遠藤航、フラーフェンベルフを獲得。カーティス・ジョーンズとエリオットが成長し、中盤が安定することによって守備の強度を取り戻し、前線の爆発力を生み出しました。私事で恐縮ですが、元日のニューカッスル戦では現地観戦が叶い、忘れられないシーズンとなりました。遠藤航が不可欠になってきたタイミングでもあって、最高の試合を見ることができました。クロップの退任が発表されたのはその後だったので、見に行って本当によかった。

順調にシーズンを送ることができていると誰しも思っていましたが、ELでのアタランタ戦で敗戦してから歯車が狂い始めました。アンフィールドでパレスに敗戦。マージーサイドダービーであえなく敗戦。アーセナル、シティとの優勝争いを早々に離脱することとなりました。FAカップを制しただけのシーズンとなりましたが、それでもこのシーズンには意味があります。ブラッドリー、クオンサーら若手が台頭しました。若くリバプールへの愛に溢れた選手たちを獲得しました。クロップが築き上げてきたものの大きさを再確認した一年でした。

ここまでで約5300文字。1時間以上書いています。書きたいことならいくらでも書けます。気づけばあと30分で最終節。スタメンに日本人が名を連ねているというのもクロップらしい。日本人として誇らしいことです。勝っても負けても、素晴らしいエンディングになることは間違いありません。私たちは、少なくとも私は、過程を見ています。リバプールに憤るときは、過程が良くないときです。精一杯戦い、チームとして方向性が見えているときは成績が悪くても文句は言いません。クロップのリバプールを応援してきている者なら、過程の重要性を嫌というほど知っているはずです。良い過程は良い結果を生みます。この試合もクロップの最後という意味では結果にあたります。もし負けると気持ちよく終われない、そう思うサポーターもいるはずです。しかし選手たちは120%の力を出すでしょう。ボスに有終の美を飾ってもらうために。それで十分です。この試合も、リバプールというクラブ単位で見れば、過程です。選手、スタッフ、監督、サポーター、アンフィールドにいるすべてのレッズが生み出すクロップ最後の試合を共に見届けましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?