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「生存する意識」エイドリアン・オーウェン著 書評

<概要>
植物状態の患者に意識があるのかどうか、あるとすればどうやってコミュニケーションできるのか?身体からのアウトプットが全くできなくなった状態の人とのコミュニケーションの手法を開発した脳科学者の感動的な著作。

<コメント>

植物状態の人のうち、20 %の人は正常な意識がある

と証明した脳科学者エイドリアン・オーウェン博士。

これまで、交通事故等で脳幹や視床下部などの損傷を負った患者は、人工呼吸器と胃瘻などの措置で延命が可能ですが、植物状態になってしまいます。このようなアウトプットする手段を全く持たない患者さんは、本当に植物状態なのか、身体は動かなくても心は動いているのか=意識はあるのか、誰にもわかりませんでした。

著者は、最初はPETスキャナ、その後はf MRIなどを活用して、意識があるかどうかの証拠となる脳の活動部位を特定し、いくつかの質問を患者に与えることで脳の活動部位の反応の有無を調査。

具体的には、

◼️「海馬傍回」のチェック
自分が知っている場所から場所に移動する場合にだけ活性化する部位で、空間から空間の移動をイメージすると活性化。

◼️「運動前野」のチェック
運動(本書ではテニス)しているところを想像するときだけ活性化する部位で、テニスしているところを想像してもらうと活性化

以上「二つの部位が活性化するかどうか」をもって意識の有無を判断。

例えば患者にお母さんの写真を見せて、この写真の人はお母さんかどうか、イエス・ノーの質問をし、イエスだったら「テニスをしているところをイメージしてください」と患者に依頼する。

→運度前野が活性化したら、患者が意志をもってテニスをしているところを想像している、つまり意識がある証拠。

例えば、目に光を与えると反射的に脳のある部位が活性化するというような実験ではなく、明らかに患者の意志をもっていないと活性化しない部位なところがポイント。

◼️脳全体の活性化部位の動き
映像(本書ではヒッチコックの短編ドラマ)をみせることで健常者がどの場面でどの部位が活性化するかを事前に調べ、健常者の脳の動きと一致するかどうか、患者に確認することで一致していれば意識があると判断。

以上の主に三つの手法によって植物状態の患者を調査すると、2割もの確率で正常な意識があることが分かったのです。

とある患者さんの家族が10年間ずっと週末に患者に映画を観せていたそうですが、ちゃんとその患者は映画の中身やそのときに自分が感じた気持ちを記憶していたそうです。

面白いのは「fMRIにかけられたときに気分が悪くなったので、事前に何をしようとしていたのかちゃんと説明して欲しかった」と患者が著者に苦言を呈したというのもびっくりです。

体が反応しないからといってその人に意識があるかどうかとは全く別なんですね。単純に意思表示する機能が身体に無くなっただけなのです。

もちろん80%の人は全く反応しないということだから心も失っている人の方が多いのは間違い無いですが。。。

いずれ、BCI(ブレインコンピュータインターフェイス)技術が進歩して実用化されれば、脳に直接電極を接続して、脳の持ち主の意志を確認できる時代が来るかもしれないそうです。

そうなると、植物状態の人でも意識が残っていれば、ちゃんと意志表示できる時代が来るかもしれません。

*写真 2017年長野県 別所温泉にて

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