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鴻上尚史のほがらか人生相談 書評


珠玉の言葉が満載です。やっぱり演劇で鍛えられている人は人間関係でも鍛えられてるんだなという印象。

そして鴻上さんの価値観は「近代市民社会の原理=啓蒙主義」そのものなんで、そしてちょっと現象学的なんで、私の価値観(社会の虚構の方)にもマッチしていて、とても心地良い。まさに私にとっての確証バイアス全開な著作でした。

◼️「この世の中には”ちゃんとした結婚”があって、私の結婚はそれとは違っていてだからどうしていいか分からない」(相談1)


鴻上さんのいうように、世の中には「ちゃんとした●●」はなく、人ぞれぞれの独自の「ちゃんとした●●」があるだけ。これも現象学的だな。夫婦は夫婦それぞれの共通了解を地道に育てていくしかない(我が家も喧嘩は絶えませんが。。。)

◼️「みんなが同じになろう」という「同調圧力」と「自尊意識の低さ」は、日本の宿痾です(相談2)


これは良くも悪くも、日本人の特徴ですが「あまり行き過ぎないように」と祈るばかりです。ただ、新型コロナ問題で、海外と比較して日本がこれだけ死亡者が少ないのも「同調圧力の宿痾」がいい面に出ているのかもしれません。

一方で、日本の息苦しさの大半はこの「同調圧力の強さ」。そして日本の不幸(=寿命を全うできない死)もこれが原因のことが多い(太平洋戦争の敗戦、自殺率の高さなど)。

鴻上さんは端的に同調圧力の根源を「世間」とし、日本は「世間」という一神教だとよんでます(相談11)。結局同じ文化圏が大多数の国、更に日本のような島国はこの傾向が強くなるのかもしれません。

◼️世間というのは「所与性」というものを一番大事にします。それは「続いていることを変化させない。今あることを受け入れる」という原則(相談4)

これも日本人に特に強い傾向らしい。でも日本人はもちろん人間が一般に備えた性向ではないかと思います。

どの国でも、特に田舎や高齢者であればあるほど保守的になるのでこの傾向は更に強くなる。したがって家族関係に問題がある場合は、話して説得する事は難しく、とっとと家を出るなりして関係を断ち切った方が良いというのは、その通りだと思います。

人間は自分の信念・信条(いわゆる価値観ですね)を変える事は容易ではなく、確証バイアスが働いて信念補強していくのが普通なので、歳を取れば取るほど頑固じじいになるのは心理学が証明しています。

◼️「やった後悔より、やらない後悔の方がでかい」(相談3・相談16・相談22)


昨日(2020年4月8日)の朝ドラ「エール」でも登場しましたが、私の個人的経験からいっても、本当にそう思います。

時間は戻ってくれません。将棋の「香車」と一緒。過去に戻る事はできないのです。やりたいことがあれば、計画的に準備をしたうえで即実践していきましょう。

◼️世の中は偶然性による不幸がウヨウヨしている。

偶然性による(=因果律のない)不幸は、昔だったら「バチが当たった」、キリスト教だったら「神の与えた試練」となるでしょうが、鴻上さんは、恋愛も同じだとして、作家らしく偶然性による不幸をこう表現しています。今の新型コロナも同様です。

「世の中には、いくつかのしょうがないことがあります。あなたが泣いても笑っても怒ってもどうしようもないことです。地震も台風も津波も大雨も、しょうがないことです。いくら台風に怒っても何も変わりません。無謀運転による交通事故も。。。。恋愛もまたしょうがないことなのです(相談5)」

そして、恋愛の苦しみから解放される方法は「ひたすら相手本人から情報から周辺から逃げ続けるのみ」。確かにその通りです。

◼️僕は人間関係は「おみやげ」を渡し合う関係が理想だと思います(相談10)。


おみやげは利害関係とはちょっと違っていて「人間同士の受け渡し」だという。コトでもモノでもお互いの気持ちのあるコミュニケーションがあれば、ずっと人間関係は続いていくと言います。

◼️恋愛は生理現象(相談18)


確かにそうですね。起こる時は起こる。起こったからといってやめるわけにはいかないのが恋愛だといいます。

◼️相手が話す気持ちになっていないのに「話してみて。相談に乗るよ」というのは相手を苦しめるだけ(相談24)

◼️「かわいそう、何かしてあげたい」と思うことは、とても気を付けないと相手を無意識に見下すことになります(相談24)

◼️敵を作ることで「自己肯定感」を満たすのはやめよう(相談27)


これは中国や韓国・北朝鮮へのヘイト感情のことを言っているようです。人間は誰しも「承認欲求」があるので、何らかの自慢したいことをアウトプットしたいのが性ですが、これが「ナショナルアイデンティティ」となると厄介で、仮想敵国(個人でも同じ)を作って自分の自己肯定感を味わおうと言うのは、確かに悲しいですね。もっと生産的なことで自己肯定感を味わいたいものです。

ちなみに、これを橘玲氏(作家)は「日本人アイデンティティ主義者」と呼んでいるそうです。でも他の国でも右翼の原理主義者として普通にいますね。

私は、右翼でも左翼でも宗教でも、あらゆる信念は「何でもあり」でいいと思っていますが、唯一回避すべきは原理主義(教条主義)だと思っています。スティーブン・ピンカーも、ノヴァル・ユア・ハラリも、ジャレド・ダイアモンドも、その他の知識人も大抵皆同じです。

原理主義は、近代市民社会の原理に真っ向から対抗する概念です。本当になくなって欲しいと思います。

*写真:千葉県市川市 真間川の桜とアプレ



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