日本代表マッチレビュー/vsCroatia(W杯Qatar2022/ベスト16)
スターティングメンバー
日本代表のスターティングメンバーは以下の通り。
スペイン戦からスタメンを3人変更、累積警告により出場停止の板倉以外はベンチ含めフルメンバーが揃った。また冨安がW杯初スタメンを飾り、谷口吉田と共に3バックで臨むことが予想される。
対するクロアチア代表のスターティングメンバーは以下の通り。
こちらも体調不良で欠場する左SBソサを除けばグループステージを通してほとんど変わることなかったベストメンバーがスタート、4-3-3で臨むことに。CFにはペトコヴィッチが起用されることに。
試合展開(前半)
ベスト8をかけた今節は可変を伴わない従来のオーソドックスな4-3-3の形を保ったクロアチアに対して、3-4-3で高い位置までハイプレッシングをかけにいく日本という格好から始まった。ただこれは最初の数分間だけ、試合に入り込むまでの浮つきがちな時間のうちはクロアチアを驚かせあわよくば得点をというだけの狙いだったように思う。
試合が落ち着き始めたのは前半10分頃から。後ろから組み立てるにあたりクロアチアのキーマンとなる両IHは日本のCH脇に立ちボールを引き出すことで前進を図る。これに対しシャドーの位置に入った鎌田堂安は絞り気味の位置取りを行い中央を封鎖する方針を取った。
ただそうなるとCB二人+アンカーのブロゾビッチは前田一人で監視しなくてはならない。走力に秀でた前田と言えど1vs3はきつく、CBへプレッシングを行いながらだとブロゾビッチを背中で消し切ることはできず割と自由を与えてしまっていた。
またモドリッチ、コヴァチッチらは中央に絞ったくらいで機能不全になるような選手ではない。直接バックラインからの受け手になれなくても一度サイドを経由させ、特にモドリッチは高い位置へ頻繁に出かけては右ハーフスペースで手詰まり欠けたクロアチアのサイド攻撃を横方向、斜め方向のパスコースを作ることで手助けしていた。
更にクロアチアの攻撃面で脅威となっていたのはもう一つ、クバルディオル中心に後方から長い球をサイド奥へ蹴りこみ前進する方法である。このフィードの質はかなり高く、またそれに合わせるのが長身を生かしたペトコヴィッチ中心の体が強い前線で、オフサイドにならない絶妙なタイミングを見計らって繰り返し飛び出す彼らとの親和性が高くそのまま引き取ったりポストで二列目に前を向かせた状態で預けるプレーなどどれも効果的だった。
このように遅攻をメインとする攻め方を高水準にオールマイティなプレーが可能な中盤3枚を軸に遂行させ、どれも巧みに5レーンを使って日本の5-4-1ブロックの間を縫うような縦に早いサッカーとはある種対極に位置する攻撃方法をチーム全体で行うクロアチア。決して派手な個のスキルに依存するのではなくチームへの高い献身性を根本に据えた上で、臨機応変にポゼッションやセカンド回収狙いの戦い方などを都度選んでいくまさに試合巧者といった印象。
ただ決して日本の攻撃も負けていたわけではない。最もゴールに近づくチャンスを作れていたのは前述のクロアチアの攻撃二つ目に酷似したものである。クロアチアの前線と中盤は前プレスの連動性が高いとは言えず、ファーストプレスをいなせれば遠藤守田がある程度余裕をもって保持+配給をこなせられており、ここでショートパスを何本か繋ぎ組み立ててからの右サイド伊東への大幅なサイドチェンジがシンプルかつかなり効果的であった。
またそれとは別に時間経過ともに保持で崩す事にトライできる場面が増えていったのも大きなポイント。これはメンバー固定での連戦疲れによるクロアチアの微妙なパスズレなどで不定期に引き起こったものではあるが、リトリートから速攻に繋げる通常の前進と合わせて攻撃に厚みを持たせられ、またプレーする選手の精神的にも日本側が試合を試合できる時間が生まれたのは心に余裕を持つことができそういった面でも大きかった。
ここまで両チームの攻撃について語ってきた。が、待望の先制点をもたらしたのはそれとは別、一つのセットプレーからであった。
なんというか、棚ぼた的な先制点であった。最早日本代表戦名物となったAbemaTVの解説担当、本田選手の「ショートコーナー一回蹴ってみ?刺さるから。」というような発言の直後まさにそのショートコーナーが成功したのには流石に笑った。処理しにくいクロスを上げた堂安、競り合い負けず触った吉田、そして前半守備に奔走し続けた前田が報われる形での先制という事で、チームの士気が上がる素晴らしい点の取り方であった。
こうして前半終了間際に先制するという、サッカーの試合における相手にとって最も嫌な勝ち越し方法の一つにて前半45分を締めくくることに。再現性のある保持からの組み立てに守備面でも易々と崩されず両局面で悪くなかった日本であった。
ただ今大会初の先制点を勝ち取ることとなりリードしている状態で後半を迎えるのは慣れていないため、今までの交代策とはどう変化をつけるのか、非常に議論が分かれるハーフタイムであった。
試合展開(後半)
後半戦も前半とそれほど変わらない試合展開であっただろう。
ただクロアチアの攻撃面はもう少しシンプルなものに。具体的には低い位置でショートパスを繋ぎ左右どちらかハーフスペースへ侵入するとアーリークロスを連打する、といったより直線的にゴールを狙うような形へとシフトチェンジしていった。これは前半より戻りが遅くなった鎌田堂安のスペースを活用するというのと自分たちの疲労面をケアしてより単純な攻め方を選択したといいう二つの側面があったように思う。
また前半のうちから光っていたセカンドボール回収の意識の高さもこの戦法にマッチしていた。クロスを早い段階で上げるにしても極力回収し再度クロスの供給に繋がっており、単純だがそれゆえに直線的な強さがあった。
そしてその戦い方は日本に牙をむくことに。
エリア内に迎撃人数が揃っていただけに、クロス一本からゴールを奪われとても悔やまれる形での失点を喫してしまった日本。前半いくつか不安定なプレーを見せていた冨安らがペリシッチを潰し切ることが出来ずピンポイントのボールが送られてしまった。
クロアチアの同点弾後もクロアチアの方がゴールに迫る回数が多いまま。ただここは冨安吉田の潰しが良く効いた守備で摘み取り、そのままカウンターへ転じることも多々あった。そうしてどんどんオープンな展開になり、どちらにいつ勝ち越し点がもたらされてもおかしくない状況に。
ただそんな中でも日本にとって致命的だった箇所がいくつかあった。バックラインが耐え攻撃に転じても、裏抜けを繰り返す浅野はクバルディオルにぴったり並走され刈られてしまい、頼みの三笘は警戒され中々良い位置でボールを持たせてもらえず、高い位置で受けた酒井への不可解なファール判定が連続するなどレフェリングの質の悪さも同時に重なり非常に苦しい展開に持ち込まれた日本であった。
ただどちらのチームもフィニッシュの段階で精度を欠き試合はそのまま延長戦へ突入することに。オープンな展開と疲労がたまった両国のコンディションとの取り合わせによって一つのミスが致命的になる緊迫した状況が後半終了まで続き結局何も起こらずクローズとなった。
延長戦
延長戦はもはや気持ちの勝負である。
後半よりも遅攻が刺さるといった印象であったものの三笘南野らがチャンスを作るも決めきれなかった日本。対照的に効果的なエリア侵入があまり出来ていないクロアチア相手にPK戦前にとどめを刺しておきたいところであった。
また延長戦後半になってもプレスバックと背後への走り込みを一切怠らない伊東がとても印象的であった。しかしその頑張りに結果は付いてこず、命運はPK戦へと託されることに。
PK戦
PK戦は浅野以外の3人がGKにセーブ、リヴァヤが外したものの5人目にキッカーが回ることなくクロアチアの勝利が決定、ベスト8の夢は決勝トーナメント1回戦で潰えることとなった。
さいごに
とにもかくにも、まずは日本を背負って戦った26人の戦士たちに労いと称賛の拍手を送りたいと思う。
先制しても試合を殺しきれず死闘を得意とするクロアチアの土俵である延長戦、果てはPK戦までもつれ込んでしまったこと、またPK戦の日本のキッカー達が甘めなコースにセオリーから外れ笛が鳴ってすぐに蹴り出してしまったことなど、戦術面と精神面両方での課題が浮き彫りとなってしまった試合であったように感じる。
やはり高いかベスト8の壁…。正直まだ放心状態で今回のレビューを上手くまとめる事が出来ませんが、とにかく選手たちには4年後のW杯に向けてまた今日から頑張ってほしいところですね。ドイツスペインの大物食いなど、今回はいける!と期待していただけに落胆も大きいですが、それほどまでに楽しめた日本代表でした。本当に感動をありがとう!!!
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