日本代表マッチレビュー/vsGermany(W杯Qatar2022/GS第1節)
はじめに
いよいよ開催されたFIFAワールドカップ2022inカタール。待ちに待ったサッカーの祭典という事で、筆者ももちろん心待ちにしていた全世界のファンの内の一人である。主に強豪国同士の対戦カードやアーセナル所属選手の出場国を中心に様々な試合を見ていくつもりだが、日本代表戦に関しては記念としていつも通りマッチレビューを残していこうと思う。なお、今シリーズに関しては選手個々人の総評は省略し、試合内容の概要をつらつらと綴っていくことにする。
スターティングメンバー
日本代表のスターティングメンバーは以下の通り。
スタメン入り濃厚と目されていた冨安、守田は怪我明けのコンディション面を考慮してベンチスタート。伊藤や堂安、三笘らも同じくベンチで出場機会を狙う形に。
対するドイツ代表のスターティングメンバーは以下の通り。
流石は優勝筆頭候補のドイツといった面子。他の強豪国が怪我人多発している中フルメンバーに近いスタメンの並びとなった。ズーレが右SBの4バックとして出場することが予想される。なおギュンドアンが先発という事でゴレツカはベンチに、同じくクロスターマンなどもベンチからとなった。
試合展開(前半)
ブンデスリーガ、特にバイエルンやライプツィヒを主戦場とする選手を中心にそうそうたるメンバーが勢ぞろいとなったドイツ。これに対し敗色濃厚と見られた日本が如何にドイツに立ち向かうかが今節の注目のポイントとなった。
ドイツは本職右SB不在等もあり選手の並びが試合開始前の段階では不透明な状態。キックオフ直後を見る限りジューレが右SB、2列目は右からニャブリ、ミュラー、ムシアラといった並びとなっていた。ただここは試合が始まると割と流動的なポジショニングを取ることに。
そんなドイツは立ち上がりからかなり高めの挑戦的な位置取りを行った左SBラウムが日本にとって非常に厄介に。順足による配給と持ち運びが魅力的な左CBシュロッターベック、19歳でバイエルンの主力の座を掴んだ、多彩な攻撃テクニック、特に細かなボールタッチが素晴らしい左SHムシアラと共に左サイドをユニット攻略する流れが頻発。
また逆に右SBジューレは低い位置に留まってビルドアップ関与に主なリソースを割く事に。この左肩上がりで左右非対称な可変3バックをもってドイツは自分たちのゲーム作りに取り掛かった。
これに対し日本は高めのライン設定で迎え撃った。事実、試合序盤はドイツのバックラインにあまり自由に配給をさせない程度には行動を制限出来ていたように思う。アタッキングサードにも容易に侵入させず、割と固い入りから試合は始まった。
前田がオフサイドラインの確認を怠り取り消しとなってしまったゴールシーンのように、ドイツがまだ試合に入り切れていない序盤のうちに欲を言えば先制しておきたかった日本。だが時間経過とともにドイツが落ち着いてボールを保持するにしたがって日本はずるずると自陣に押し込められていく展開に。高い位置で奪えるシーンが目に見えて減ってきた。
何より致命的だったのが前述したラウムの位置取りによって伊東が低い位置まで下がらずを得ない状況に陥ってしまったこと。こうなると、仮にポジトラ発生時でも低い位置で攻撃を開始するので必然的に長い距離を運ばざるを得ず、そうなるとロングボール一発で行ってこい!状態になってしまう。そしてそのロングボールも前線へピンポイントで預けるには非常に精度の高い球が必要に。中々ボールを送り届けることは出来なかった。
また、保持で揺さぶり空いたスペースを突く左サイドの攻撃の形はドイツ右サイドでも形は違えど見られ、ここに関しては試合中AbemaTV解説担当の本田選手、それとピッチ解説の槙野選手も詳しく触れていた。具体的には低い位置のジューレにボールが入ると久保がプレスに行くのだが、これに上手く連動して久保のいた位置に降りてくるのがオフザボールを得意とするミュラー。こうなると主に左CHの田中がケアの為出払わなくてはならず、結果として日本のブロックが歪められる大きな要因に。
加えてムシアラやニャブリ等、ボールを受けるとテクニカルな動きで攪乱できる2人がライン間で巧みなポジショニングを行い、選手によって誰が誰を見ればよいのか判断が難しくなってしまった日本は更に苦しい展開に。
こうして明らかにドイツに走らされる守備を強要されている日本。そして遂に伊東の右SB化という前半最大の問題点のお咎めを受けることに。
まさにドイツの狙い通りといった左サイド攻略が生み出したPKである。ラウムのポジショニングやハーフレーンで待ち構えるギュンドアンらに対する明確な守備基準が定められないといった課題点を放置したことに起因する失点であった。
その後も依然攻撃に転じることが出来ない日本。たまに訪れるセットプレーすら簡単に弾き返され得点の匂いを感じず文字通り防戦一方の展開に。また、守備の為伊東に加え久保も同様に最終ラインへ吸収される状況はずっと変わらず奪っても中々攻撃のスイッチを入れられない。
ドイツもまたコンスタントに攻撃を行える展開であったことに変わりはなかった。特に左サイド大外レーンから前進&カットバックし、中盤でショートパスを数本繋ぎ最後ギュンドアンらに落としのバックパスでシュートのお膳立てをする鉄板ムーブを継続して日本ゴールに迫った。
結果として日本から見た前半は、ポゼッションは20%を切りシュート本数1本(枠外)というスタッツ通りのかなり厳しい内容となった。とにもかくにも日本の中盤が釣り出されるドイツのシステムに対応しないことには守備すらままならなず攻撃に転じられない、そういった印象であった。
加えて両SHが低い位置に下がっているので前田だけではドイツのビルドアップを阻害させる前プレを完遂させるのは不可能。よってボールを奪っても日本の攻撃開始位置は深い位置になるのだが、ハイリスクなパスワークではがしての前進という選択肢をどうしても取りにくい日本は縦ポンサッカーをしなければならなくなっていった。
ただ試合内容程得点差は付いていなかったのが不幸中の幸い。まだ勝ち点を持って帰るという希望は潰えていない、そんな前半の幕引きとなった。
試合展開(後半)
迎えた勝負の後半。ここで日本代表森安監督は策を打ってきた。
具体的には前半攻撃面で真価を発揮する機会に恵まれなかった久保に代わって冨安を投入、3バックへのシステム変更を施した。
この3バック変更への意図だが、メリットとしては大きく2点。まず1つ目はCBの枚数増加に伴って前半SBだった長友、酒井らが比較的高い位置を取ることが出来るように。よってサイドで浮く選手が生まれ、日本の前進においてフリーマンの存在が大きな手助けとなった。
2つ目は前半自陣に押し込められ難しかった前プレスを行いやすくなったことである。これは冨安の投入もあり後ろが整備された事で思い切って前プレスを敢行することが出来るようになりドイツの中盤からの供給を阻む形に。また前半何度か見られた遠藤が上手く刈り取る形なども頻度は増えていった。
こうして攻守ともに日本が優位を確立できる局面が徐々にみられていく、そういった後半の頭から60分ころまでの流れであった。
ただ前プレスに取り掛かるという事はそれだけ後方への負荷が高めになるという事である。前がかりになった日本の陣形によって生まれた広大なスペースを3CB中心にカバーしあう算段だったのだろうが、前方で1、2人パスワークではがされ前進された際には即ピンチとなる博打のような策でもあった。
ここで再度、森安監督が交代策をもって試合を動かしにかかる。
WBとなっていた長友に代わって三笘、また前田に代わってフレッシュな浅野を投入し攻撃面での活性化を図ることに。特に三笘のWB起用は本人の経験こそあるが不安であった、が、ある種守備面の多少のリスクを取ってでも攻勢に出るんだ!といった監督からのメッセージが込められていたように思う。
結果としてこの交代が刺さっていたことは誰の目にも明らかだった。散発的だった日本のチャンスシーンは狙った形の中定期的に訪れるようになり、伊東浅野鎌田らが相手ボックス付近でボールに触れるようになった。またWB二人の存在感も同様にアップ。酒井が高い位置へ走りこむシーンがいくつも見られたのがそのよい例であった。
加えて堂安、南野の投入で、森安流ファイヤーフォーメーションともいえる不安定さと引き換えに攻撃力を得た布陣でラスト15分は猛攻に出ることに。そして待望の瞬間は遂に訪れる。
これで試合は分からなくなった。全日本人サポーターが沸きに沸いた同点弾を見事記録。ただ追いついただけでは当然満足しない日本代表は更に攻撃を加速、試合終盤は日本ドイツ共に打ち合い上等の格好に。贔屓目かもしれないがもしかすると日本は疲労が見えるドイツ以上にチャンス創出を行っていった。
そして両者ともに交互に訪れるゴールチャンスをものにしたのはまたも日本であった。
値千金の逆転弾を記録を試合終了間際に記録。そして今大会特有の長い長いATにはゴレツカらのシュートチャンスが訪れるも決死の守備で凌ぎ続ける日本。冨安の戦略的テディ座りなどで時計の針を進めながら時間が過ぎ去るのを待った。そして遂に試合終了のホイッスル。難敵ドイツ相手に、あまりに、あまりに大きすぎる勝ち点3を獲得することとなった。
全体雑感
試合開始前に日本がドイツ相手に複数得点を決めて、しかも逆転勝利を収めることなど希望的観測を除いて何人が現実的な予想として立てることが出来ていただろう。それほどまでにこの勝利は日本全土、いや全世界のサッカーファンにとって劇的なものであった。
特に活躍していたのは遠藤、権田、三笘あたりだろうか。遠藤は試合を通して得意の粘り強い守備からボールを奪い攻勢に転じる火付け役となり守備面での個人スタッツは軒並みハイレベルなものを記録、権田は痛恨のPK献上こそあったものの特に後半は類まれなるセービングを何度も披露、2、3点決められてもおかしくなかった後半を無失点で切り抜ける立役者となった。そして三笘はやはりシンプルに大外に張ったところからの仕事だろうか。内側に位置取った南野らとの連携面も含めてアタッキングサード侵入への選択肢をいくつも持ち、ドイツ守備陣相手にとって脅威となっていた。
またこの勝利は、これまで批判の対象となっていた森安の采配が上手く的中したことによるものが大きいだろう。試合運びが上手くいかないと見るや後半頭に「追いつくための3バック変更」という大胆なフォーメーションチェンジ、そして60分前には三笘浅野を投入といういつにない素早い動きを見せそれが刺さったのだから森安はしてやったりである。筆者は森安擁護派でも解任派でもないのだが、この采配にはあっぱれである。
ただこの歴史的な勝利に浮かれていてばかりいられない。直後行われたスペインvsコスタリカの試合はスペインの7-0勝利と圧倒的な強さを見せつけGS暫定1位に躍り出た。またコスタリカも決して弱いというわけではなかった。そんな2チームに日本は勝ち点をもぎとらなければならないのである。ドイツ相手に奪った勝ち点3を無駄にしないためにも、選手個々人は気持ちをすぐ切り替えて4日後のコスタリカ戦に臨んで欲しい。
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