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市販されている大多数のアンプがロックギターに向いていないのは何故なのか?

他の楽器が鳴っていなければすごく迫力のある音なのに…
バンドで鳴らすとどうも音が抜けない…細く聞こえる など
そんな経験をした人は沢山いると思います。

市販されているギター・アンプのほとんどは、 ギター専用のフィルターが中に入っていることで、 「ギター用にバランスを取った」 音となるように設計されています。 ただしその回路は、基本的にクリーンの音でバランス良く出る、 といった音を念頭に置いて回路設計がなされています。

実はこの回路設計と時代の流れによるギター・サウンドの変遷こそが、最初に述べたギター単体では良い音だけどバンドで鳴らすと「どうも音が抜けない」や「音が細く聞こえる」などといった原因に深く関わっているということは皆さんご存氏でしょうか?

ギター・サウンドの変遷

というのもギターアンプが開発された1950年代などの時代には、歪んだ音、クランチさせた音というのは大きな市民権を持ってなかった音の部類で、 最大の音楽マーケットはカントリー・ミュージックでした。
当然クリーン主体の音なのでカントリーの時代だったらアンサンブルを考えても、ギターの音色的なことを考えてもそれで十分でした。

そして60年代に入り、ビートルズを初めとして世界中でバンド・サウンドが大きなマーケットになった頃も、まだVOX AC30(ビートルズが使用した)などのアンプは基本的にトーンコントロールがなく、ギターの音をある程度歪まそうという考え方もまだありませんでした

しかしそれ以降の時代になって、 エリック・クラプトン、 ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックなどのギター・ヒーローが出現したことによりギタリストは積極的にアンプを歪ませて使用するようになりました。
これによりアンプの歪んだ音色こそが、 「ギタリストの立ち位置を変えた」と言ってもいいかもしれません。
そしてその音色は、ロックという音楽的形態をも変えていきます。
それまでは長いギター・ソロが挿入されることなんてあり得なかったのに、ギターの奏法さえも進化して、エレキ・ギターの可能性が広がっていきました。 エレキ・ギターそのものが出現した当時、ここまでこの楽器が大きく化けるなんて誰も思わなかったと思います。
当然現代のようなバンド・アンサンブルで、こんなにラウドな音量で使用することは想定していませんでした。

しかし現代のロック系のバンド・アンサンブルでは、 バンドのサウンドとして、歪んだ音が主流になり、ギターの3弦は巻弦ではなくプレーン弦が主流になりました 。 しかしギター・アンプがどんなふうに変化していったかと言えば、歪みをコントロールしやすくなったものの、 基本的なトーン回路は、ほとんど昔のままなのが現状なのです。

ちょうどアコギの弦がそうであるように、 1960~70年代まではエレキギターの弦の3弦は巻弦でした。 しかしギタリストが歪んだ音色を求めるようになり、 サスティンを得たことで技巧を駆使するようになった70年代からは、プレーン弦を3弦に用いるプレイヤーが多くなりました。
例えば1960年代末のプログレッシヴ・ロック・バンド、キング・クリムゾンのギタリストであるロバート・フリップは、 (当時3弦が巻弦のゲージしかなかったため) 別ゲージの2弦用プレーン弦をあえて3弦に用いている、とインタビューで明かしています。
ギターの弦は、6弦から1弦へと向かうにつれて細くなります。 細いから、 出力は小さい。 なのでアンプのトーン回路は、高域はストレートに、中域低域はある程度減衰させて、バランスをとっています。
トーンのノブをすべて真ん中 (トレブル5、 ミドル5、ベース5の位置) にすると、中域がへこんだ特性になります。 このポジションが音質的にフラットだと思い込んでいる人も多いですが、実はまったく違います。
逆に言えば、このポジション(中域がへこんだ特性) こそが、 設計上、 基本想定されたギターの音色だと言うことができるかもしれません。
ただし、この話はクリーンな音の場合の話であり、クリーンなサウンドしか用いないのであれば、好みによってトーン・コントロールを決めることで、ほとんど問題はありません。

しかし問題 なのは、 音を歪ませる場合になります。


バンドで必要な音作り

ひとりだけでギター を 鳴らすというのなら、自分 が 気持ちよい と 思う セッティングをすれば良いのですが、バンド の アンサンブルの中で鳴らすと色々と問題が出てきます。  
まず 問題 と なる のは、 楽器同士の音のぶつかり 合いが挙げられます。
ドラム なら、 バスドラはすごく低い帯域。 そして ハイ ハット や シンバル といった 金物 は 高 域。 つまりドラムはとても ダイナミック・レンジ が 広い楽器なことがわかります。 ベース は もちろん、低 域を担当 。 そして ギター と ボーカル は、 中 域を担当 します。そして、これらが一斉に鳴った、という状態を想定してみてください。
低域はバスドラが支配しており、更にベースが加わるともはやギターが低域に加わる余地はありません。そしてギターがどれだけ高い帯域でキンキン鳴らしてもハイハットやクラッシュ、ライドといった金物系の音にかき消されてしまいます。
つまり、ギター・サウンドが単体でどれだけ低域たっぷり、高域キラキラ、といったいわゆるドンシャリのサウンドを作っても、実はそれはバンド・アンサンブルの中ではまったくヌケない、まったく通用しないということになります。ギタリストの思いとは裏腹に、 全然異なったギター・サウンドしか耳に聴こえない、という結果になります。これは「ギターの音がちゃんと聴こえない」 というだけの話ではなく、他の楽器の音とぶつかり合ってしまうことで、ぶつかり合った音すべてを濁らせて、汚くしてしまう、ということにもなってしまいます。
前述したように、ギターの担当する帯域は中域。 ですのでここにフォーカスした音作りが必要となります。


一般的なギター・アンプの回路とは

実はギター・アンプのトーン回路は、基本的に中域が出ないようになっています。 トレブルやベースはかなり効くのに、それに比べてミドルのツマミはいくらフルにしても、必要な中域は出ない。 そういう基本構造になっているのです。
実際に市販されている大多数のアンプがそんな感じの回路になっていて、いざバンドで使おうとなっても、ギターの音は聴こえにくい。 聴こえないから、ギタリストはやたらとボリュームを上げたがってしまう、なんていうことになります。
そういうアンプでいくら音を大きくしても、ドンシャリの部分ばかり大きくなって、しかもそれでもベースやドラムの低域パワーにはまったく負けてしまっていくら上げても聴こえない、なんていう結果になってしまうのです。
ハイゲインをうたっているアンプでも、そのドンシャリ感をより強調しているものが多くて、 ギターに必要な帯域がしっかり出ているものはほとんどないのが現状です。
ギター・サウンドがドンシャリだと、 結局バンドの中では (他の楽器と干渉することのない) とても貧弱な中域しか残らず、他の楽器が鳴っていなければすごく迫力のある音なのにバンドで鳴らすとどうも音が抜けなかったり、細く聞こえるという現象に見舞われるのです。

とは言うものの、有名なプロギタリストだって市販品のアンプを使ってバンドでも太くて抜ける良い音だしてるじゃん!
と皆さん思われたと思います。


下記の記事ではプロギタリストが実際にどのようにして市販品のアンプで良い音を作っているのかその秘密に迫りたいと思います。









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