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【ショートショート】『半分ろうそく』

それは多分我が家だけの言い伝えだった。
『半分ろうそくは幸せのしるし』
家族は皆、朝起きて仏壇のろうそくが半分になっている日は良いことがおこると信じていた。

母は毎夜新しいろうそくを立ててから寝る。
それがあくる朝、半分まで短くなっている日がある。

僕が小学校へ入学するその日も『半分ろうそく』だった。
遠足の日は毎年『半分ろうそく』だったし運動会の日もそうだった。
そんな朝、母は嬉しそうに僕を仏間まで手を引いていった。
おばあちゃんは、傍でにっこり顔で見守っていたものだ。
遠足は楽しかったし運動会では一等賞をもらうことさえあった。

その日は中学校の入学式。とっても寒い朝だった。
起きてみると母がバタバタしていた。
「おばあちゃんを病院へ連れていく」

父と二人でごはんを食べた。
ろうそくは長いままだった。

入学式は無事終わり家に戻った。
ろうそくに火をつける。
おばあちゃんを思い浮かべて手を合わせた。

目を開けると『半分ろうそく』になっていた。
 
 
 
  

(410文字)


* * *

以上、こちらからお題をいただきました。

いつもありがとうございます。

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