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【ショートショート】『二重人格ごっこ』

 結婚を控えたある日、彼女のご両親から呼び出された。彼女には内緒で話しておきたい事があると言うのだ。
 懐かしささえ感じる喫茶店で対面して座ると母上が口を開いた。

「あの子とこの先一緒に暮らすならば言って置かねばならない事があります」

 僕はごくりと生唾を飲み込むと黙って頷いた。

「麻衣は二重人格です」

 その事なら僕はもう気が付いていた。むしろそんな彼女が好きなのだった。僕は少し安心したのか笑顔になっていた。

「わかっていますよ。そこがまた魅力的じゃないですか」

「魅力的?」驚きの声を上げる母上。

 昨日は高圧的な態度で罵倒されたかと思えば、今日は気立ての良いお嬢様として僕を立ててくれる。日によって服の趣味さえ全く違うのだ。

 尚も訴えたい様子のご両親に向かって僕はきっぱりと言ってのけた。

「大丈夫です。僕にお任せください」
 


 後になって思い知ったのだが、母上の言葉に偽りは無かった。

「それはつまり、二重人格ごっこをしている方の麻衣なのです」

 
 
(410文字)


* * *

以上、こちらからお題をいただきました。

 
 

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