【掌編】『スコーピオ』
洗面所の大きな鏡と向かい合わせにしてもう一枚の鏡を後ろの棚に置いた。
合わせ鏡ができるとその間に洋子と二人で入り込む。
画像を映して鏡の中に仮置きされた光がそれぞれの網膜に届くと同時に、それは合わせ鏡の間を光速で行き来する。そして無限に続くと思われる空間を作り出し、何組もの僕と洋子を合わせ鏡の中に発生させた。そこにいて今、僕らは、無邪気にはしゃいでいる。
ぎゅっと抱き合ってみたり洋子の鼻を摘まんでみたりする。可笑しなポーズで鏡に映るのはシンプルで楽しいものだ。子供のころに