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センター・ホースに用がある

 『アナと雪の女王』。このタイトルはもちろん日本限定のもので、原題は『Frozen』である。
 そのままカタカナで『フローズン』を邦題にするより、随分センスがいいと思う。
 それとは逆に、古い洋楽の邦題には、「なんでそうなった」と言いたくなるようなものが少なくない。ビートルズの『A Hard Day's Night』は『ビートルズがやってくる!ヤァ!ヤァ!ヤァ!』だったり、エアロスミスの『Walk This Way』は『お説教』だったり。

 野球のポジションで納得のいかないことがある。

 投手、捕手はいい。pitcher、catcher。投げる人、捕る人。妥当。
 一塁手、二塁手、三塁手もいい。first baseman、second baseman、third baseman。説明がいらないくらい妥当。
 左翼手、中堅手、右翼手は、微妙になってくる。left fielder、center fielder、right fielder。翼のニュアンスはどこから来たのだろう。
 左翼、右翼というと現在では政治的ニュアンスのほうが強く、野球について話す際に一塁二塁とは言っても左翼右翼と言うことはあまりない(字数に制限のある新聞記事などでしか見ない、口頭ではほぼ100パーセントでレフトライトと言う)。

 外野は微妙だが、まあいい。
 事件は二塁と三塁の間で起きている。
 このポジションを遊撃手と呼ぶ。
 遊撃とは何か。

1.攻撃すべき敵を前もって定めず、機に臨んで適宜に攻撃すること。 via:https://languages.oup.com/google-dictionary-ja/

 守備位置なのに、攻撃の話をしている。由々しき事態である。
 バッチ来い、バッチ来い、と野手たちが声を上げるさなか、二塁と三塁の間のクールガイは「来い、じゃねえ。こっちから攻めてやるのさ」とニヒルに笑う。

 そもそも、一塁と二塁の間にいる奴を二塁手、二塁と三塁の間にいる奴を遊撃手と定義しているのも大胆不敵である。二塁上でプレーする機会は同じくらいだろうに、一方は塁の名前、一方は「適宜攻撃する」という名前。
 この事実に気づいたとき、奴のニヒルな口角はさらに上がった。

 遊撃手遊撃手と言うけれど、じゃあ英語ではなんなのよ。
 shortstop。ショートストップ。ショートストップ?
 shortstopという単語には日本語で遊撃手という意味しかなく、野球でしか使われない言葉なのである。
 はじめの塁、2番目の塁、3番目の塁、の野手。みたいな名前の付け方ではない。どこまでも特別扱いなのだ。

 baseballに「野球」という訳を与えた中馬庚なる人物が、shortstopにも遊撃手と名付けたという。

 A Hard Day's Nightを訳した奴と中馬くんは、あとでWalk This Wayなのでまた放課後。
 ショートかロングかは君たちの態度次第だからな。

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