塩分を選べ

　「好きな食べ物何？」
　こんなベタ・オブ・ベタな質問に、いつからか即答できなくなっていた。これならいくらでも食べられるぞ、最後の晩餐は絶対これにしてくれ、そう思える食べ物が特に思いつかない。
　以前だったらラーメンだとかタン塩だとか言っていたと思うのだが、今になって「別に1番好きって言い切るほどじゃないだろ」と過去の自分を諌める。
　かといって食に興味がないかと言われるとまるでそんなことはなく、むしろお腹が空いていなくてもお菓子に手を伸ばすタイプである。あれ。じゃあ、お菓子が1番好きな食べ物なんだろうか。

　疲れると甘いものが食べたくなり、しかし甘いものを食べたらしょっぱいものが食べたくなるので、結構な頻度で帰り道にそれらをセットで買う。あるときはクッキーとポテチ、あるときはチョコとポテチ、またあるときはラスクとポテチ。
　コンビニで買えるしょっぱいお菓子のバリエーションのなんと少ないことか！ほぼポテチである。あるいはせんべいか？もしくは「ポテチ」みたいなざっくりした呼び方の見当たらないじゃがりこなどの流浪の塩分か？
　しかしチョコをクッキーで代用できても、ポテチをせんべいで代用するのは無理だ。ジャンク感に圧倒的な差があり、ジャンク感と夜が重なったとき、背徳の美味は生まれるのだ。あれ。じゃあポテチが1番好きな食べ物なんだろうか。

　「好きな食べ物何？」
　果たして答えはポテチでいいのか。なんだか間抜けな気がする。答えたが最後、質問者はぼくのことをコレステロールの塊と見なすに違いない。

　昨日ぼくは、「ベーコンかなあ」と答えていた。
　ポテチと大差がない。まず、普通こういうとき、食材の名前は言わない。にんじんと答えるよりはカレーのほうがいいし、まぐろと答えるよりは寿司のほうがいい。具体性を持ったビジョンこそ、明るい未来に繋がっているのだ。なんの話だ。
　でも「パスタが好き」より「ベーコンが好き」のほうがぼくの芯に近い気はする。

　ぼくが死ぬ前に口にするのは、ポテチか、ベーコンか。
　いずれにせよ、横にはプリンも置いておいてほしい。