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「来る」の感想

フォロワーさんに勧めて頂いた映画「来る」が面白かったので、

○田原家崩壊のリアリティとオカルトシーンのギャップ
○極端なデフォルメと味付けの濃さ
○オムライスエンドの衝撃

以上3本立ててで感想まとめていこうと思います。

※ 映画視聴後、原作買って読みました。映画、原作のネタバレありなので注意。


まず、ベースの感想として、
・映画はかなり楽しく見ました。祓い屋アベンジャーズめっちゃテンション上がった。
・デフォルメが効いていて味付けが濃いホラー映画が好きなので、そういう意味でも楽しめました(これ好きな人「カルト」絶対好きだと思うから見てくれ)。
・お金があるってすげえ。
こんな感じでかなりポジティブに捉えてます。

○田原家崩壊のリアリティとオカルトパートのギャップ

・まず、この映画はよくも悪くも田原家の崩壊パートと、極端にデフォルメが効いたオカルトパートのギャップが見事な映画だなと思いました。

・田原家のパートは、単独でサスペンスになりそうなほど、原作以上にドロドロ人間模様が描き込まれています。このパートが映画全編においてリアリティを確保する役割を担っていますね(原作では化け物ぼぎわんの正体に迫る過程の書き込みが良くできていて、そちらがリアリティ確保の柱の一つになっています)。
・一方で、オカルトパートはとにかく、こんなやつ特撮でしか見ねーよ!と言いたくなる特濃デフォルメで、エンタメ性はこちらに集約されています。キャスト陣やお祓いアベンジャーズのシーンもそうですけど、予算があるってすごい!!(低予算ホラーを見慣れすぎた感想)
・田原家パートでフラストレーションを溜め、オカルトパートでパーッと血しぶき飛ばして解消する、というのがこの映画の基本構成なんですね。

・田原家パートは単独でサスペンスになりそうと書きましたが、家族という地獄を煮詰めた映画としては「葛城事件」を思い出します。
・本来、如何ともし難い人間関係の地獄に明確な解決はなく、それ自体が恐ろしいもののため、オカルト主体のホラーと相性がいいとは言えません。(怖いものが2つになってしまうと、どうしても軸がブレるため)
・この2つを両立させた「ヘレディタリー/承継」はやっぱとんでもねえな、と改めて思います。

・話を戻して、田原家の不和には程度の差はあれど夫妻双方に問題があり、オカルト現象が起きなければ、解決の道筋はなかったのではないかと思います。
・故に、夫妻がそれぞれに化け物にやられて、パーッと派手に死んだのは、エンタメとしては因果応報、スカッとするシーンです(半沢直樹の土下座と一緒)。
・しかし、化け物の襲撃で関係が清算されるのは、はっきり言ってズルいし絶望的。だからこそ、この映画の流血シーンはあえて嘘っぽいのかなあと。

・他方、オカルトパートはやたらとテンションが高く、怖い!強い!血がぶしゃーっ!説明不要!(そして本当に説明しない)といった調子の突き抜け具合。
・一見リアリティの地平線が違いすぎるように見えますが、その落差こそがこの映画のエンタメの本質なのではないかと思います。


○極端なデフォルメと味付けの濃さ

・そして本作のもう一つの見どころが、オカルトパートの極端なデフォルメでございます。

・ヒゲの胡散臭いオカルトライター、ピンク髪のキャバ嬢霊能力者、テレビに出てる胡散臭い霊媒師のおばさん、黒髪ストレートロングの最強霊媒師って、オカルトあるあるキャラの一番濃いとこ持ってきたなという感じ。
・特に最強霊媒師琴子の最強っぷりに笑ってしまいました。警察の偉い人が名刺持って挨拶にきて、一声かければ日本全国の祓い屋が終結するってコナンくんレベルでは?(ところがどっこい、実は琴子の警察関連の設定は原作ママ)
・原作にあった濃い目の味付けを、さらに煮詰めて追い塩しちゃったのが本作の設定です。いいぞもっとやれ。
・そしてその特濃設定にビジュアル面から圧倒的な説得力を持たせたキャスティングが本当に素晴らしかったです。黒髪ロングの松さんなんて最強に決まってるじゃないですか(しかしやはり、最優秀賞は柴田さんですね。無茶苦茶ハマり役でした)。

・また、化け物襲撃シーンも外連味たっぷりの演出だったと思います。
・御守バリーッ!!真っ赤な血ぶしゃー!!手形どーん!!
・ツッコミどころも多いですが、とにかく勢いで押し切ってきてよかったです。

・加えて、祓い屋アベンジャーズもやはり映画オリジナルの演出過剰にして、大変興奮する名シーンです。これぞ祭り。
・あのシーンに集った祓い屋の宗派が分かる方はぜひ教えてください。
・祓い屋たちの集結・準備のシーンがシンゴジラみたいで興奮したというレビューも見かけましたが、正にその面白さです。働くプロフェッショナルが本番に向かう姿はカッコイイのです。

・(このように捉えると、クライマックスでダレた印象を抱いたのは、真琴・野崎が田原家パートの延長にあるままオカルトパートに参戦してしまい、どっちつかずになってしまったからなのかな、と。個人的にはオカルトパートなので突き抜けて怪獣大決戦までやってしまった方がすっきりしたのではと思います。)


○オムライスエンドの衝撃

岡田「なんだそれ」 観客「なんじゃそら」
・それまでの田原家パート、オカルトパートの展開どちらにも噛み合ってないのに結構尺が長くて、混乱と温度差で風邪引きそうでした。

・田原家パート、つまり知紗の主観からすれば、両親を意味不明な形で失い、大変なのはこれから。何も解決していません。知紗がそういった空気を感じ取れることは自傷行為で示されており、牧歌的な歌は逆に悲しさを感じてしまいます。(酷い両親から解放されて良かったね、というニュアンスだとすれば余りにもブラックでは。)
・オカルトパートからすれば、子供の無邪気は残酷さの象徴であり、童謡や牧歌的なシーンはその暗喩です(まどマギしかり、HFしかり)。しかもちょっと前まで化け物に乗っ取られてた子ですよ!まだ化け物と繋がってるかもしれないじゃん!!(実際、原作にはそのニュアンスがありました。)
・それともクライマックスで謎に登場したブログの世界ってやつを引っ張ってるんでしょうか……だとしたら全く解決していない……(更新自体は旦那の幽霊がやっていたということで一応の始末はついていますが)

・本当に謎すぎて妥当な解釈が思いつかないです。誰か妙案をお持ちでしたら教えてください。
・(ワンフレーズだけだったらここまで後引かなかったかと思うんですけど、何故尺をとったのか……謎……)

追記:この件について喚いていたら、フォロワーさんからいくつか解釈頂きました。
大雑把に、
・オカルト的な意味を見出す派(お山の暗喩、ケチャップが血など)
・演出の都合でシナリオの自然な流れを無視した抽象的シーン派(無精卵であることがミソ、観客へのごほうびと引っかかりなど)
の2パターンですね。
完全に納得がいったわけではありませんが、どれも面白い解釈でした。お寄せ頂きありがとうございました!


総合して、人におススメできる良作でした
クライマックス以降は判断が分かれるかもしれませんが、何より、強烈なビジュアルとお祓いアベンジャーズはこの映画でしか見られないので、ぜひ。

原作は原作でホラーオカルトミステリーとして素晴らしい作品で、読み始めたらページを捲る手が止まりませんでした。
真琴・琴子姉妹はほぼ原作ママですし、気になる人は是非一読されることをおススメします(映画「残穢」がお好きな方は特に)。


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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