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【開催報告】オンラインセミナー「コロナ禍をジェンダーの視点で考える」(2020.06.30)

こんにちは!学生スタッフのジウです。

6月30日にGSセンターでオンラインセミナー「コロナ禍をジェンダーの視点で考える」を開催しました。今回はその開催報告をみなさんにお届けします!​

ここ数か月、新型コロナウィルスの拡散は全世界に危機状況をもたらしてきましたが、その中でも社会のマイノリティにとっては、その影響力がいっそう厳しく現れています。特に、コロナ禍で女性が抱えている多くの社会問題や差別もさらに拡大しています。

今回GSセンターでは、参加者の皆さんにコロナ禍をジェンダーの視点で考えていただくために、ゲストに文学学術院の豊田真穂先生と、コロナ社会をジェンダーの視点でみるゼミ活動に取り組んでいる金寶美さん、小澤智佳さんをお迎えし、コロナ禍によって可視化されたジェンダー不平等の問題とその背景などについて聞かせていただきました。

COVID-19は女性により大きな影響を与える

今回のセミナーでは、コロナ社会において女性が担っている役割とその困難を、アジア女性資料センターや国際協力NGOジョイセフなどによるまとめを参照しつつ、大きく5つに分けて説明していただきました。

1)医療・福祉系に従事している女性が多い
医療・福祉系職業従事者の大多数は女性で、特に、看護師は女性の占める割合が70%に達しているそうで す。その他にも、保育士、介護者、地域ボランティアなどの医療・福祉サービスを担っている女性は、感染リスクが高いといえます。実際に、ロックダウン後に女性の感染者数が男性を上回るようになっていますが、その背景にはこのようなジェンダー差があるのです。医療・福祉サービスに限らず、スーパーの販売員などの生活関連サービス業や飲食サービス業など、在宅勤務に切り替えるのが難しい職業も女性の割合が高いため、感染の危険にさらされるリスクが高まります。

2)非正規雇用、不安定な雇用形態で働いている女性が多い
また、非正規雇用の形で働いている女性の割合が高いため、ウィルスの拡散に伴う経済危機による打撃を受けやすい問題についても聞くことができました。総務省「労働力調査」 (2020年3月)によると、女性の就業率は71%である一方で、その約54%は非正規で働いています。そのなかでも、「宿泊業・飲食サービス業・観光」においては、なんと女性の85%が非正規雇用を占めています。飲食店や宿泊業が次々と休業している中、非正規で働く女性は真っ先に人員削減の対象となったり、政府の経済支援を受けられない可能性も高いことが分かりました。

3)シャドウワークを平均で男性の3倍
また、コロナ対策として始まった全国一斉休校要請をはじめ、外出自粛、自宅でのリモート勤務、発病者の自宅待機などの要請によって、人びとが家庭で過ごす時間が一気に増大し、多くの場合、女性に対して家事や育児負担がさらに重くなっている現状を確認しました。これをもとに、金さんからその原因と課題について詳しく聞きました。
女性の家事負担が重くなる根本的な原因は「収入が少ないほうが家事をやるべき」という考え方にあります。ほとんどの家庭の中で家庭への寄与度算出基準は「収入」であるため、女性が家事の役割を全部担うことになり、またその労働は「見えない」 ものとなってしまうのです。さらにコロナで家にいる時間が増えると共に家事への負担も増加しているなか、どうしたら収入を基準として家事分担をする通念をひっくり返せるでしょうか?
もちろん、ジェンダーロール教育も必要不可欠ですが、現実的に最も重要なのは、家事問題の原因は男女間の「経済力バランス」にあることを直視することです。経済力のジェンダーギャップを作り出している雇用格差 (正規雇用・非正規雇用・職種間の格差)と給料格差(wage gap)を解決していくことは、2番で話した問題とも密接につながっている大事なところですね。

4)家庭内暴力(DV)や性的搾取のリスクが高まる & 5)リプロダクティブ・ヘルス分野のサービスは緊急性が低いとして後回しにされがち
このふたつの問題については、別の問題のように思われますが関連しているということで、小澤さんからコロナによって可視化されている日本の避妊問題のお話しいただきました。みなさんも外出自粛が始まってから、DVや望まない妊娠、中絶件数が増加しているという話は耳にしたことがあるかもしれません。そのなかでは中高生の望まない妊娠も増えていて、その理由としては、学校が休みになり、引きこもるようになって性行為の機会が増えたり、バイトがなくなって金銭的に困窮し、援助交際に手を出してしまうことが挙げられました。しかし、根本的な背景として、そもそも日本は、他国に比べて避妊がしにくい状況にあります。性教育が他国に比べて十分ではなく、避妊法が知られていない点、避妊用ピルの普及率の低さ、そして緊急避妊薬の存在があまり知られていないため手に取るのが難しい点があります。つまり、正しい避妊方法が知られていない日本では、妊娠中絶が「望まない子供の妊娠(出産)」を防ぐ最後の方法になってしまっているのです。コロナが日本の避妊・中絶問題を浮き彫りにしているとも言えるでしょう。

「労働する身体」と「産む身体」としての女性

今まで見てきた5つの問題から分かるように、女性は「労働する身体」と「産む身体」の両方を生きています。これまで、女性の「労働する身体」が政策的に注目されたのは、女性の「労働権」の保障のためではなく、むしろ「産む身体」を労働の場から「保護」することが目的でした。それは、職場から女性たちを締め出すという効果をもたらしました。そこには、リプロダクティブ・ヘルス&ライツの視点はなく、結果として、女性たちは、ケア労働を担う存在として生きながら、ジェンダーギャップのもとで不安定な雇用状況に置かれてきたのです。現在でも、リプロダクティブ・ヘルス&ライツが周縁化されている状況は、こうした歴史的な産物といえます。コロナ禍によって浮き彫りになった女性が抱えている困難は決して新しいものではないのです。それらは、男性中心主義の社会で密接につながり、ジェンダー不平等を支えています。 

コロナ社会において現れている雇用不安、医療サービス問題、女性のケア労働などの問題は、すべて が社会的不平等につながっていることが分かりました。だからこそ、危機状況をジェンダーの視点を持って考えることが大事でしょう。でも実は、コロナ禍によって「密な通勤+職住分離」ではない「新しい日常」が生みだされたことは、ひょっとすると良い変化に転じる可能性もあり、その際には「ケア労働」を軸に社会のあり方を考えていくと良いのではないかと、との考えが最後に示されました。今回のセミナーでは、とても充実した話でコロナ社会をジェンダーの視点から見る機会を持つことができました。

参加者からの声

セミナーの講義後は、質疑応答の時間と参加者のみなさんと軽めにディスカッションをする時間も持ちました!参加者からは日本の現状や自分が感じる不平等などなど、熱いお話を聞くことができました。 

質疑応答の中では、「コロナ禍においての女性リーダーの活躍に注目する記事をよく目にするが、性差に基づいてその理由を説明しているような気がして、何か釈然としない」という質問もありました。確かに、ただ女性を褒めるだけになってはいけない!と、大事なポイントのように感じました。先生からは、女性リーダー個人が持っている「女性的な特性」があるというよりは、女性リーダーを輩出できる社会だからこそうまくいっているという点を指摘していただきました。また、女性はケア労働を思考の中に自然に入れている場合が多いからこそ、今回の状況ではうまく活用できたのかもしれない、その意味では「女性的な特性」が正当に評価されるようになったと言えるのかもしれない、という話もありまし た。 

また、日本ではピルの普及率が低いことに怒りを感じ、日本の性教育に疑問を持ってくれた方も多くいました。アメリカなどの国ではバースコントロールを日常で行なっていますが、日本では避妊に対する知識がすごく遅れていて、その背景には戦後から純潔教育が行われてきたことや性教育バックラッシュが起きた背景があることを説明していただきました。 

その他にも、「コロナでジェンダー問題に限らずいろんな問題が浮き彫りにされてる」という話もありました。在日外国人に対する差別や、風俗業に従事している女性など、その差別の対象が移り変わっているだけではないか、ということです。 確かに、コロナはジェンダーに限らずいろんな社会の不平等を可視化しています。ジェンダーはこのような問題を分析する「一つの窓」です。人権という観点をもとに、いろいろな方面の問題を見ていくことが大事でしょう。

スタッフ後記

実は、オンラインでは初めてのイベントだったので、心配もあったのですが、とても充実したレクチャー内容と参加者のみなさんの熱い語りに感心しました。普段記事などで目にすることは多い話題かなとは思いますが、今まで隠されてきたその背景にある問題について聞き、自分にとっても学びになりました。

ジェンダーの視点を持つことで終わらず、社会の不平等を様々な窓から見ていく必要がある、今からこそ「インターセクショナリティ」の視座が大事になるーという議論まで進んだことがとてもよかったと思います。

参加してくださったみなさん、ありがとうございました!

これからも一緒に学んで考えていくGSセンターを作るために次のイベントを企画しますー。

学生スタッフ ジウ

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