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えらばなかった道

熱海の街を使ったインスタレーションアート。
切り立った崖の上に、薄い布が貼られている。
窓があるたびに何度も目に入るけれど、海風に煽られて煽られて捲れて捻れて、時々しか文字は読めない。
「えらばなかった道」
わたしはこの日何度も何度もこの作品を「えらべなかった道」と呼んで、
毎回「間違えた、えらばなかった道、だった」と訂正した。

おかげさまで、わたし自身がどこかで、自分に「えらべなかった道」があると感じているんだと気づいてしまったので、それがこのアートと出会ったということなのだと思う。自分も知らない新事実。びっくりした。

かつて、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが出会ったきっかけのヨーコの現代アートが、部屋に置いてある脚立に登って、指示通りそこにある顕微鏡を覗くと、天井に小さく「YES」と書いてあるのが読めるというもので、
それでジョンの感情に激震が起こったというエピソードを読んで
当時確か中学生だったわたしは正直「は?天井にYESの何がそんなに?っていうかそもそもそれ芸術?芸術って何?」と思ったのだけれど、
きっとその時ジョンの目にうつった「YES」は彼の感性の何かをこう強烈に刺激するものだったんだろうなということが、そしてそれは説明できるようなものじゃなくて「人生の何かが腑に落ちる瞬間」みたいなものだったんだろうなというのが最近なんとなくわかるようになってきた。

今でも感受性の相性によっては「は?っていうかそもそもこれ芸術?芸術って何?」って思うけど。

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