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入澤美時『考えるひとびと』より ー入澤美時「思想はいま、どこに宿るか」

本書の出版年は2001年9月30日。今からおよそ20年前です。当時、私はちょうど20歳で、おぼろげながら研究を仕事にできないかと考え始めた時期でした。今どんなことが人文学の分野で話題にされているんだろう、それに触れるために本書を購入したようにおもいます。網野善彦や大西廣、森山大道など、当時傾倒していた方々が載っているということも重要でした。しかし当時は、ここに書いてあることの半分も理解できていなかったようです。本書は当時の学会あるいは社会そのものに対して対抗的で、ラディカルな魅力を秘めたものでした。

入澤は、ここに掲載された10人の思想家たちの共通点を「普通のひとびと」に求めます。何者でもなく、我々が我々の目線で何かを考えるとき、どういうスタンスにたつべきか。あるいは、我々の生活に今どんな思想が必要なのか、を具体的に提示してくれているように思います。

また入澤は、あとがきの文章で「孤絶して生きているように見える」という表現を使います。森山大道の創作スタイルを表象した言葉です。この言葉、どうしてか今の私の心境に突き刺ささりました。私には今、孤絶すること、孤絶を恐れないことが必要なのだと感じました。いつの間にか私も、社会的な帰属や、出自や、地縁などに由来する”権威”を求めてしまっていたのです。これらの一切を捨てて、今向き合うべきテーマや課題に取り組むことから、もう一度自分を再構成しないといけないと考えました。

本書の装丁の裏側では、小説家・花村萬月が本書の内容を次のように説明します。

この知と情の持ち主たちは、時空を超越した普遍の持ち主でもある。どういうことかというと、この抽んでた人々の知と情は、いずれ柔らかく翻案され、噛み砕かれて、広く浅く拡がっていくのである。もちろん拡散していくときには、当初に持っていた破壊的な力は弱められてしまうが、それでも確実に計量不能な寄与をする。貴方は、その寄与の一端を担いたいとは思いませんか。どうかこのインタビュー集をいちどだけではなく、幾度も読んでみてください。いますぐに立ち現れるものがなくとも、十年後には貴方の内部で血肉の一部となっていることを確約します。

10年どころか20年がたちました。残念ながら本書は未だ私の血肉になってはおらず、身体化するには、さらに長い年月が必要だと思われますが、孤独であってもトボトボと物事を考え、ぽつぽつと書き、淡々と日々を送ることの偉大さを感じさせてくれた本書には感謝しかありません。


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