スキーとスキーボードとスキーワックス(その2 熱と滑走面と塗り重ね)

この記事は連載です。

前回まではこちらから

 さて、基礎的雰囲気を前の記事で確認してもらって今回は『滑走面』にフォーカスをあててお話します。

よく勘違いされているのが、スキーワックスは塗り込むものと思われていることです。板がたわむほど力を入れてじっくりと行う方も居ますが、ほとんどの場合においてこのような方法は必要ありません。

 滑走面は溶けたワックスが触れれば浸透するので、ワックスを溶かすことがまず肝要です。そして一度浸透させた滑走面はどんなに何度も何度も熱を入れてもある程度以上は染み込みません。それは前回の水彩絵の具と画用紙のイメージと同じで、水彩絵の具はいくら厚塗りしても一定以上は塗り重ねられませんよね、そういうイメージです。

 じゃあ、なんで何度もワックスを塗り重ねたり、サーモなどで板を温めると良いと言われるのか。それは単純に「塗りムラの防止」と「滑走面の性質」のよるものです。
 塗りムラは意外とあるもので、特に平らでない滑走面ではきちんと出来たつもりでもワックスが溶けた状態で乗らなくて浸透していない場合があります。それを繰り返せばムラがなくなる、そういう感じです。
 そして滑走面の性質というのは、滑走面はポチエチレン(PE)で出来ていると言いましたが実はこのPEの滑走面は、温めると毛穴が開くように染み込みが良くなり、浸透も深くなります。※深くなるといってもその厚さは髪の毛一本の太さほどもありません。

 溶けない程度の温度で滑走面を温めると、乗せたワックスも比較的長い時間溶けている状態なので染み込みやすくなります。よく染み込んでればワックスも長持ちする。そんな感じです。

 ただこの板を温めるというのがなかなか曲者で、間違ったやり方をすると滑走面を痛めてしまう場合があります。特にコタツなどで直接熱を入れすぎてしまうと表面が溶けたり滑走面が変色し、最悪の場合は細かくひび割れというかウロコ状というか、削るとボロボロと削れてしまう滑走面にもなります。
 あとこれは別の話でもあるのですが、板をビンディング付きで強制的に全部温めると、ビンディングが正しく作動しなくなる場合があります。板を温める場合はビンディングに熱が伝わらないようにご注意下さい。

 なので一般で板を温めてしっかりワックスを塗る場合は、まず板を室温程度に温めておくのをお勧めします。1日くらいリビングに置いておけばまあ大体良いですね。
 それと、ワックスを塗った後も8時間くらい時間をかけて浸透させると良いという話もありますが、実際これはおまじない的な意味合いの方が強いかな?とも思います。ワックスは固まってしまえばそれ以上は浸透しないのですぐに剥がしてしまっても良いのですが、その剥がす時に熱の入っている状態の滑走面は弱くなっていて削れてしまう場合があります。それを防ぐ意味でしっかりと滑走面が落ち着いた状態になってから剥がすというのがこの8時間なのでは?と推測もします。
 とはいえ実際のところ、ワックスを塗りっぱなしでの放置状態は別にデメリットはなく、むしろ空気や水分を遮断できるので滑走面には良い状態です。それに剥がす時に滑走面を削ってしまうリスクも軽くなるので、よっぽど急いでいる時以外は塗ったら使う時までそのままでも全然問題ありませんね。

 そして「塗り重ね」について。これは競技でスキーをやっている人以外にはあまり意味はなく手間なだけのものとあえて言ってしまいます。競技スキーではワックスの塩梅でタイムが変わるので、入念なワックスの仕上げはとても大事です。ですがレジャーで気軽にスキーを楽しんでいるならばタイムとかは関係ありませんし、快適に滑れるならば手軽で楽な方が良いですよね?
 なのでワックスを数種塗り重ねるよりは、ベーシックなワックスを塗りムラがなくなるように2〜3回塗り重ねる方がコストも手間もかかりませんし、滑りも悪くありません。
 塗り重ねについてのコツは一度完全に滑走面を冷ますこと。滑走面が温まった状態や、塗ってすぐまた塗るなどの方法は失敗のリスクがあります。ここでいう失敗とは先述の削ってしまうことと熱を入れすぎて焼いてしまうことで、滑走面を焼くとそれは滑走面をやすりで削らないと治せません。なので3回なら3日間に分けて行うとリスクが少なくて良いです。

 むしろ何度も行うならおすすめはやっぱりクリーニングワックスです。ぶっちゃけ、何度も何度もこだわってワックスを塗り重ねた板よりも、クリーニングをしているだけの板の方がよく滑るなんてことも普通にあります。板が滑らなくなる原因は板の状態の他に板が汚れていることと、ワックスそのものが原因です。次回はその辺りを説明したいと思います。

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