固定式と解放式って、共用できないの?

 スキーボード独特の問題としてビンディングの問題があります。従来からあってスキーボードならではの滑りが楽しめる固定式と、安全性と利便性が高く現在主流の解放式ビンディング。

 この二つについては過去に記事にしているので先にご覧いただくと良いかと思います。

固定式と解放式で共用したいのにできない事情

 近年のスキーボードはほとんどが解放式、アルペンビンディングになっています。GRのように両方が選べる仕様というのはとても珍しく、特に固定式を取り付けるには板にもともと4X4インサートという、スノーボードのビスの穴のようなものが最初から用意されている板でないと取り付けは簡単にはできません。
 逆に言えばインサートがあればビスを締めるだけで取り付けができるのが固定式のメリット。解放式のように精密に穴をあけて取り付ける必要がないので一般でも手軽に交換作業ができます。

4X4インサートが用意されているスキーボード
解放式を取り付けた場合はこんな感じ

 解放式の場合は簡単ではありません。そもそもビンディングの取り付けに使われているネジがありますがあれがまず特別なもので、見た目普通のプラスのネジに見えますが、実はポジドライバーという特殊工具が必要なタッピングネジになっています。

解放式はタッピングネジで留められています

 タッピングネジって何よ?と初めて聞く方も多いことでしょう。タッピングネジは自分でネジ穴を作って締めるタイプのネジで、強度なども普通のネジと全く異なります。木材などの柔らかい素材に対して一般のネジよりも締め上げると簡単に抜けないのが特徴で、万が一にも抜けてしまうことが事故や危険につながるスキーとビンディングのネジとしては最も理想的なネジです。
 ただしタッピングネジは穴の再利用ができません。ネジ穴を再利用すると著しく締め付け強度が低下してしまうからです。それだけでなくネジ穴が崩れてネジやビスが抜けるネジ抜け、ビス抜けの危険も非常に高まってしまいます。

 なので専門的にはビンディングを取り外した場合、その穴は適切に埋めて穴から最低10mmずらして取り付けます。一度開けた穴の周囲は構造が脆くなっているので、安全のために新たに穴を開けて取り付け直す訳ですね。

 つまり、固定式は4X4インサートがなければ交換は難しく、解放式は取り付けてしまうとそもそも交換が現実的でなくなるという訳ですね。GRでレール式のビンディングをお勧めしている理由の一つに、穴の開け直しの必要なく位置が変えられるのがメリットと見ています。レール式ならいちいち穴の開け直しも必要ありませんし、手軽に扱えますからね。

解放式ビンディングを取り外してしまうと?

 まず板が樹脂の芯材なのか木の芯材なのかでも変わってきますが、樹脂の芯材の板であればまだ大丈夫と言えますが、木の芯材の場合、取り外してから適切に処置してあげる必要があります。
 スキー板、特に上級モデルに使用される板の芯材は多くが木、ウッドコアですが、この木は一般の家具などで使われる木よりも軽く、硬くない種類の木が使われます。それをよく乾燥させて整形してスキー板になるのですが、この点はスキーボードも変わりません。
 このよく乾燥した木は乾いたスポンジのように水分を吸い取ってしまいます。もともと木は水分を吸いやすい特性もありますから仕方ないです。なのでスキー板は表面的には浸水しないように加工がされていたりもしますが、穴を開けたビス穴はそれがありません。そこから水は容易に浸水してしまいます。
 浸水くらい問題ないと思うでしょうが、スキーは氷点下で滑るスポーツ。しかし普段は室温で保管するので浸水した水分が「凍る」「解ける」「凍る」「解ける」とくり返します。そして水分である水は凍るとわずかに体積が大きくなってしまう性質があり膨らんで、徐々に浸水箇所を崩壊させていきます。崩壊するとまたそこから水が浸水し、徐々に板は侵されてしまいます。

 すると強度が失われ、折れます。

 よく板の端っこが削れて木が露出したままの状態で滑っている方もいますが、これはどうなのでしょう?これはネジ穴の未処理よりは深刻な問題になりません。見た目に壊れているのがわかっていますし、濡れやすい反面、乾燥もさせやすいのでただちに問題になることが少ないのです。しかし未処理のビス穴はそもそも乾きにくいので痛んでいくのが気付けませんし、見た目にもわかりにくいので余計に異常が出るまでわかりません。
 ちなみに板の端っこが削れたままで滑っているとエッジが取れたり抜けたりしやすくなります。この部分の構造が水分で崩壊してしまうからですね。

穴の処理方法

 じゃ、穴埋めて水が入らないようにすればいいじゃん?となりますが、これも単純な話になりません。まず先に樹脂コアの方ですが、樹脂コアではPU、ポリウレタンを使われることが多いのですが、PUに対して安易に接着剤を使うとPUは張り付かないだけでなくPU自体を溶かしてしまう接着剤もあります。
 接着剤をよーく見ると「ポリウレタン、ポリエチレンには接着できません」と書いているものがとても多くあり、これに対して接着できる接着剤はかなり少ないです。それでも穴埋めしておくに越したことはないので、PUが接着可能な接着剤で埋めて使うことを一応お勧めします。

 そしてウッドコア。こちらは水が入らないようにしないといけません。専門的にはこの時に「ビンディンググルー」と「プラスティックプラグ」で穴埋めします。

グルーとプラグと打ち込んだ板

 ビンディンググルーはビンディングの取り付けの時に使用する専用の接着剤で、見た目木工用ボンドに似ていますが固まると硬くなるのが特徴です。下穴を開けた後にグルーを穴に注入しタッピングネジで締め上げることで、ネジの緩みを防ぎ水分に対してシールする効果もあります。
 プラグはプラスティックの小さなもので、グルーを注入したビンディングの穴に打ち込んで浸水と強度劣化を防ぎます。こうして穴をふさいだのちに飛び出ている部分をたいらに削って、この穴を避けて新たに穴をあけてビンディングを取り付ければ問題なく解放式ビンディングは使えます。

共用したいと考えた場合は?

 現実的には難しいという答えになりますが方法がないわけではありません。もっとも簡単な方法は「ライザープレート」の利用です。ライザープレートはアルミ製の板で4X4の穴があり、そのアルミのプレートに解放式ビンディングが取り付けられていて、板には4X4インサートでプレートごと取り付けます。この方法は今の解放式ビンディングが一般的になる前に普及していた方法で知っている方も多いと思いますが、この方法は4X4の穴さえあれば無加工で共用可能です。
 ですが今はこのライザープレートも手に入れにくいものになっています。GRでは取り扱っていませんが、稀にネットオークションに出てくることもあるようです。

 加工する方法ではインビス加工という特殊な方法があります。固定式のネジ穴の位置に打ち込みネジを取り付け、そのネジのビス穴を利用して解放式ビンディングを随時脱着しようという方法です。この方法はテレマークスキーのユーザーで多い加工で、テレマーク関連のお店を調べていただくと加工可能業者もある様子です。安くない加工なので新たにビンディングが買えるくらいの予算は必要ですが、頻繁に交換したい方は一考の価値はあると思います。
※GRでは使用する工具などの都合からインビス加工ができません。ご容赦ください。
※インビス加工した板へのビンディングの取り付けは全て自己責任になりますので、加工により生じた事故、怪我などはご自身の責任のものになります。
※インビス加工では板によってはできない場合もあります。GRの板は一般のスキー板と同じ内部の補強構造を持っているのでおそらく大丈夫ですが、確実にできる保証はありません。またインビス加工によって生じた板の破損などは保証対象外になります。

 と、この分野においてはまだまだ解決が見出されていないのが現状で、共用は基本できないと考えていただくのが一般的かと思います。興味があって安易にビンディングを外すとのちに戻すのが大変なので、取り外す前にまずは一度お問い合わせ頂ければと思います。

<蛇足>
 とは言え、実は新たな仕組みで簡単に共用できるのでは?という構想がすでにあります。この構想はGRだけではできないものなのですが、もし協力したい!という金属加工の方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。お話しさせていただきます!

#スキー #スキーボード #ファンスキー #GRskilife


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