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共生の行方~コミュニティと都市~

【紹介書籍】吉原直樹(2019)『コミュニティと都市の未来―新しい共生の作法』筑摩書房.

 著者の吉原さんは都市社会学の研究者で、本書では多文化社会となった日本の都市とコミュニティについて論じられています。
 昔に比べ、日本には移民が増加しました。この本では、移民都市にもたらす影響や、それに伴う共生の在り方の変化について、論じられています。この本にはほかではあまり見られない特徴があります。本書は三部構成で、1部:共生、2部:多様性、3部:ボーダーとボーダーレスと題されています。普通なら、1部から、2部、3部と順番に読んでいくと思うのですが、著者が「自分の関心のある章から読むこと」を進めているのです。言い換えれば、各章は独立しており、どの章から読んでもいいということであり、文章を読むのが苦手な人でも気軽に読むことができると思います。
 ここでは第2部の「多様性」に絞って説明していきたいと思います。この第2部では、今後のコミュニティの在り方を考える上での参考として、「Fサロン」の事例が紹介されています。Fサロンは2011年に発生した福島原発事故の影響で、会津若松市の仮設住宅に移動された方々の自治体をベースに作られたコミュニティです。活動内容は他と比べて特に新しいものではなく、お茶会や食事会、健康相談などです。
 ではFサロンの特殊なところはどこかというと、それが他者性を持っているということだと著者は述べます。このサロンは行政区に関係なく集められた自治体をもとに作られています。そのため、他者と共生する場所になっているのです。また、サロンの活動にはボランティアとの交流もあります。ボランティアたち支援者と被災者が交わり、活動することで自分の置かれている状況を客観的に確認することができます。
 さらに、交流が進めば、被災者と支援者の関係は変わっていきます。被災者の多くは、やり場のない怒りや無念さ、絶望などの「被害者意識」をもっています。一方、支援者は苦しんでいる被災者と違い、自分たちは被害を受けていないという、ある種の「加害者意識」をもっています。彼らの交流が進むことで、これらの意識が共在し、Fサロンは互いの存在を承認する場になっていきます。このような場が復興に向けて、重要な役割を担っていると著者は述べています。この事例からわかるのは、共生に必要なのは「他人」を承認し、理解していくことだということです。
 今回は第2部の説明しかできませんでしたが、ほかの章もためになる内容です。ぜひ、お手に取っていただければと思います。

執筆者:K・T


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