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ダークツーリズムとは ~悲しみを巡る旅~

井出明 (2018) 『ダークツーリズム拡張-近代の再構築』 美術出版社

 あなたはダークツーリズムという言葉を耳にしたことはあるだろうか。ダークツーリズムとは近代に起きた悲劇の地を巡る旅行のことである。そして、その目的は近代社会の問題に着目し、その全体像を理解することである。
 本書は8章構成となっている。各章ごとに異なる地域が取り上げられており、著者が実際に行ったダークツーリズムが詳細に書かれている。今回は第8章の「ダークツーリズムで見る長崎」についてみていく。この章で著者は長崎を訪れており、悲しみの歴史からこれまでとは異なる長崎の一面を見ようとしている。
 長崎に到着し、著者が初めに訪れたのは浦上天主堂である。浦上天主堂はかつて「東洋一の教会」と呼ばれたカトリック教会である。浦上天主堂が存在する浦上地区は隠れキリシタンが多く居住していた地域であり、浦上天主堂が誕生すると多くの信者が神父に信教を告白したという。ただ、政府はこの時協会設立は認めたものの、信仰の自由は認めなかった。そのため、浦上の信徒は政府に弾圧され、拷問や虐殺に苦しんでいくことになる。このように浦上天主堂から長崎の禁教の歴史について知ることができる。
作者は次に平和公園に向かっている。平和公園は原子爆弾の爆心地に近い場所であるが、ここにはかつて長崎刑務所浦上刑務支所が存在していた。平和公園に設置されたプレートによると、この刑務所には朝鮮人や中国人も収監されていたという。彼らは強制労働のために戦争捕虜として日本に連れてこられ、原子爆弾の被害を受けることになってしまった。私たちは原子爆弾の歴史とかかわるときに戦争の被害者としての立場に立つことが多いが、一方でほかの国にとっての加害者でもあったことを平和公園のプレートは教えてくれる。
ここまで長崎の影の歴史についてみてきた。このような歴史を知ることで長崎という地域への見方が変わったのではないだろうか。
本書では他にマレー半島やロシアなど、海外でのダークツーリズムについても紹介されている。ダークツーリズムに少しでも興味を持っていただけたなら、他の章もぜひ読んでみてほしい。
(K.T)

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