勝手に熱海旅情
神保町の街を歩いていると、たくさんの古書店・古本屋さんに出くわす。
いかにも価値のありそうな、立派な古書を、丁寧に陳列している古書店もあれば、
いったいこれは誰が買うのだろうと、不思議に思うような古本を、ただ並べているだけの古本屋もあったりする。
そんな古本屋さんの前を、いつも通り過ぎていると、
毎日、同じように、
朝来て、シャッターを開けて、本を並べて、誇りを叩いて、そして奥に引き返す。
いったい、一日に何冊売れるのだろうか。
ネットで、積極的に売りさばいているとはとても思えない。
一冊も売れない日もあるんじゃないだろうか、と、余計な心配をしたくなる。
そんな心配をよそに、
店主はいつもの奥の定位置にぽつんと座って、本などを読んでいる。
うっかりすると、ウトウト始めそうなものである。
そんな姿は、
こちらから見ると、
けっこう、極楽そうである。
さて、お分かりの方も多いと思うが、
そんな心配はご無用である。
そこは、「自分の家」なのだ。
家賃はかからない。
一冊も売れなくとも、
少なくとも「損」はしないのだ。
お店を始める時には全く思いもしなかった事なのだが、
もし、物件を探す時に、テナントとしてではなくビルを買っていたらどうだったろう、と思うことがある。
もちろん、不動産価値の高い、都心のど真ん中で、そんなことが出来るわけもないが、
比較的価格の安い、地方都市なんかだったら、ローンさえ組めれば可能だったんじゃないか、と思ったりする。
可愛がってもらっている大家さんには失礼だが、もう20年にもなると、これまで支払って来た賃料の総額は、結構なものになる。
地方の安い物件ならば、そろそろローンを完済しかかっているのではないだろうか。
そんなことを想像したりする。
飲食店の成功の要因は
・持ち家であること(家賃がかからない)
・家族経営であること(人件費がかからない)
であることに異論はないかと思う。
もちろん、これに立地や、提供する料理の良し悪しなどが関係してくるのは当然だが、そもそもの家賃に経費の大半を取られているようでは、提供するものにそう原価もかけられないなんてことになる。
そんな思いもあってか、10数年前に、何年か連続で「熱海」を訪れていたことがある。
「熱海」は、ひと昔前のハネムーン需要などすっかり失せて、寂れてはいながらも、まだところどころに風情が漂う、気候の良いいい街だ。海に近い自然豊かなところもあれば、ちょっと繁華街を歩くと、ほどよい猥雑感もあって、その頃合いがなんとも調度良い。実家の藤沢から近いこともあって、「こんなところで店をやるのも悪くないな。」などと思いながら、毎年通っていた。
ところが、そんな実情を察知してか、行く年毎に、年々賑やかになって来ていて、お洒落なカフェなども徐々に出来始め、人間考えることは同じなんだと、つくづく思わされたりもした。きっと、物件価値も相当なものになっていると思う。
それでは、もっと田舎ならどうだろう。
地方の商店街などでは、シャッター街と化しているところもあると聞く。
後継者不足の問題など、いろいろ事情はあるのかとは思う。
でも、一方で、東京で毎日満員電車の生活に、すっかり疲弊してしまって、田舎でもう少しゆっくりと働きたいと思っている人も少なくないのではないだろうか。特に今回のこの騒動で、それは、さらに顕著になってきていると思う。そんな人達と、地主・不動産屋・銀行が、うまくマッチング出来れば、地方再生に少しでも貢献できる、いいチャンスではないかと思う。
「そんな地方に行っても、日に2〜3人しかお客さん来ないよ。」と、言われるかもしれない。
日に2〜3人?
今と何が違うのだろう。
東京でやっていても、そういう店はそういう店なのだ。
そんなことを妄想しながら、奥で本を読んでいたら、
ついウトウトしてしまった。
神保町へお越しの際は、是非お越しください。
そんな古ビルあったらご紹介ください。妄想しに参ります(笑。
お待ちしております。
Last Dream / Eber Filipe & Sunlight-91
Eber Filipe
2018
(本文の最後に、お店でよくかける音楽を紹介しています。お家でお酒を飲まれる際に是非どうぞ。今度お店に聴きに来てくださいね。)
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