私はイタいお年頃:「PAIN-AGE」公演終了の謝辞と諸々と。


終了してから5日経ちましたが、謝辞を述べさせてください。

演劇集団LGBTI東京
クリスマス公演2016
「PAIN-AGE」
作:ニイモトイチヒロ
演出:小住優利子
会場 あさくさ劇亭
2016年12月17日~18日
全公演、無事閉幕いたしました。

何から話そう。
何を話したろう。
すべて話そうか、やめておこうか。
どうしようか。

思いつくままに書こう。

「PAIN-AGE」についてのエトセトラ…
…書きます。

「書けない作家」だったここ10年。
10年前だって、まともな作家活動をしていた訳じゃないけど…。
「劇作家になってやる」と決意してから10年、書けなかった。
短編やら習作はいくつか書いたけど、自分で胸を張って「台本を書いた」と言えるものがなかった。

ライターズ・ブロックだと思っていた。
書いたことねーのにね。

それを壊すハンマーをくれたのがゆりこさんの…
「クリスマス公演の台本書いて下さいよ」
この一言だった。

6月の、演劇集団LGBTI東京主催のイベント「GEKI COMMU」に参加して、その帰り際、ふと言われた。その日、ゆりこさんとは軽く挨拶する程度しか話していなかった。イベントの主催者でバタバタしていたゆりこさんとは話している暇がなかったと記憶している。
ゆりこさんとはここ2~3年お付き合いをしていて、でも、本格的な演劇での交流は執筆した2本の短編戯曲の朗読上演の演出(それも執筆するだけで、稽古場に行くこともしてなかった)くらいだけで、後は公演に観客として行くくらい。
だから。
帰りしなのドタバタの中で言われたので、心のどこかで「社交辞令」の4文字が頭をよぎった。
次の日、メッセンジャーを使って「本気にして良いですか」と送った。
返答は「はい」。

そこから、始まった。

メールには「ニイモトさんに書いてもらうなら、少しフェチ要素を入れたいです」ともあった。
とはいえ、俺は個人的に丸1ヶ月動けないでいたし、ゆりこさんも忙しかったと思われ、連絡を取らずにいた。
7月の終わり、「クリスマス公演のことで打ち合わせをしたい」とメールが来た。

8月の頭、秋葉原の喫茶店・フライングスコッツマンで美味しいホットケーキを食べながら、打ち合わせた。
まず、打ち合わせいく段階で、具体的なスケジュール・条件を聞いて、まず「少し」だったはずの「フェティシズム」を「題材」にした芝居にすること、基本線はクリスマスストーリーのコメディで、クリスマス公演は毎年「にじいろ幼稚園」を取り扱ったシリーズものなので今回もリンクさせることetc.の基礎的なことが決まった。
ファンタジーものにするか現実的なものにするかは決めなかったように思う。
その後ふたりで、どんなフェチをいれるかを話した。ありきたりな(おしりやおっぱい)フェチは入れないこと、かつマニアックにしすぎないこと、下ネタに走らないこと、SM的になりすぎるものやグロテスクだったり芝居の内容を壊すものは入れないことetc.
入れたかったフェチのひとつに「パイ投げフェチ」があったので、映像で入れられるかを聞いたのもこの時だ。現実的に考えて、劇場でパイ投げをするのは問題がいろいろあるからだ。
9月15日を備稿の〆切に、10月10日を初稿の〆切、11月15日を最終稿の〆切として、打ち合わせは終わった

そこから、構想を練り始めた。

とはいえ。
10年のブランクを、芝居の神様は許してくれなかった。
なかなか「コレ!」というアイディアが出てこない。

タイトルだけは、仮タイトルだけど、すぐ決めた。
「PAIN-AGE」は前々から暖めていたタイトルで、Yellow Magic Orchestraの名曲「Nice Age」のもじりだ。
「Nice Age」は、発表当時来日公演のためにやってきたポール・マッカートニーが大麻所持で逮捕・公演中止になった、という事件があって。そのポールに対して「あんた、いい年齢(トシ)して何してんだ!」という曲が「Nice Age」だ。
そこから「あんた、イタいお年頃になってるよ!」という意味をこめて、「PAIN-AGE」という造語を造った。
ダブルミーニングは、もちろん意識している。

8月の終わり、ようやく「フェティシズムを抱える主人公と、4人のフェティシズムの擬人化」という大きい設定が決まった。同時に自我が持つフェティシズムの種類や人物相関図を決めた。
その時、まだゆりこさんには何も連絡していなかったので、「プロットかストーリーだけでも送って下さい」とメールが来た。その日、ちょうどメールを送ろうと思っていたので、タイミング的に驚いたのと、タイミングが遅かったと思ったのを覚えている。
急いで設定と箱組みを書いたものを作って送った。

劇団員とのディスカッションをしてもらい、その反応としては大筋で面白いといってもらったものの、「多重人格者モノにならないか」「セクマイ=フェチ、と取られないか?」というところを指摘された。
そこは俺自身気になっていた点で、自分の出来る最大限の注意を払いつつ、準備稿を準備して書いていった。

俺は台本執筆に入るときには、大きいテーマは掲げないで構想を練る。やりたいことはあっても、言いたいことは決めないでいったほうがかえってテーマが浮き彫りになっていく、と思っているからだ。
そこはオリザさんの影響かな。

15日の〆切は少し過ぎたものの、22日の1回目のオーディション(兼ワークショップ)を行う時には準備稿を仕上げて持っていけた。
久し振りに自分の書いたものを他の人の声を通して聞くことになった。
この段階で設定やセリフ、人物像の大幅な変更(にじいろ幼稚園シリーズとして出て来る人物の、人物変更)、そして登場人物の追加も決まったし、初稿に向けての準備は始まった。

この時に、今回セクマイではない、ゆきのちゃんにも参加してもらった。今回の座組みにゆきのちゃんを入れること、それも打ち合わせの段階で了承を得ていたことだ。実際はどうなるかわからなかったけど、まず俺の頭の中には、台本執筆を引き受けた時点でゆきのちゃんを座組みに混ぜることにしていた。
俺の大学中退記念公演「平成の出来事」からの付き合いで、一緒に芝居を打とう!と話して10年の月日が経っていた。その贖罪の意味も大きかったけど、LGBTI東京の公園にゆきのちゃんを混ぜる、というのは自分の中では、割とワクワクする材料だった。

準備稿とはいえ、完結した台本を持っていけたこと。
それ自体は大きな成果を上げたように思う。
まだまだ手直しが必要な段階であったとはいえ、ゆりこさんに全体のイメージを摑んでもらえた。
それと、ゆきのちゃんに「仮でも完結した台本があるのは安心できますよ、何があっても公演打てますから」といわれたのが印象的だったし、嬉しかった。

1回目のオーディションのときに役柄的に男性役は割合すぐに決まった。
問題は主人公と擬人化したフェティシズムたちをどうするか…というところ。
この段階で、まだしっくり来る配役は決まっていなかった。

2回目のオーディションは10月2日。
この日の出会いで、おおまかなキャストが決まった。
大きな設定変更も決めた。
最後まで決まらなかったキャストがあったもの、帰り道歩きながら、ゆりこさんと少し、いや、だいぶ興奮しながら配役を決めていった。
帰り道に偶然見つけたアパートの名前が主人公の名前「YOU」だったのも覚えている。

最終的な配役はゆりこさんに任せて、初稿の執筆をして、迎えた10月15日。顔合わせ。
キャスト全員が初めて顔を合わせて、本読み。
最終稿までに変える設定もすでに決まっていたけど、まずは初稿としてキャストさんの手元に台本が行き、稽古はスタートした。
その日にチラシ用のスチール撮影も行った。
撮影はゆりこさんの妹さんの小住弥生さん。
スチールではキャストに、タイトルのダブルミーニング「PAIN-AGE」=「PAINAGE」=「パイ投げ」に合わせて、パイまみれになってもらった。劇団のブログでは、俺が嬉々として撮影に参加している様が映っているけど、ゆりこさんもだいぶ楽しそうでしたよ、ええ。
顔合わせの飲み会のとき、俺はまだ緊張していたのか、あまり話すことが出来ずにいた。今思えば、キャストさんともっとひとりひとりに話をしにいくべきだったと思うが、後の祭り。
中野から小田原(本当は南足柄在住だけど)までは遠いので、すぐに帰らざるを得なかった。

LGBTI東京の演出スタイルとして、実際に立ち稽古を重ねる前に、役柄についてディスカッションを重ねるという特徴がある。登場人物に役者を近づけるのではなく、役者が自分に役を合わせてくる、ということも特徴のひとつ。
この2つは大きく台本執筆に作用した。
だからこそ、初稿の段階で最後まで書いておきたかった。
役を広げる作業をしていく中で、台本でどこが足りないのか、どこを広げてどこを削るのか、を決めていった。最初17ページだった台本はこの時点で23ページまで膨らんでいた。

台本を突き詰めていく作業の中で、今回のテーマが見えてきた。
「セクマイ≠フェチ」でありながら、「隠しておきたい性」というダブルミーニングになるという点が見つかり、『世間一般で言う「フツウ」とは何か?』というテーマが出て来た。
主人公のユウは「性的嗜好」での「フツウ」に悩む。その中に「性的指向」としての「フツウ」が見えてくる、そういう台本になっていった。

こういう風になっていくうち、初稿を使って稽古を重ねていくうちに出て来た問題、主人公のユウとユウの愛する人であるタカシの人物像が見えにくい、というのが出て来た。
そこで、当初はなかった場面で、タカシがユウに対して「自分はフツウである」というコンプレックスを出し、それが故にユウが「フツウではない自分」という気持ちをフェティシズムたちにぶつける、ということを出せた。

フェティシズムの擬人化である4人(ジーンズフェチ・黒髪&制服フェチ&メガネフェチ・バラエティでの恥かしい格好&メッシーフェチ・ロリータファッションフェチ)についても、踏み込みが足りないんじゃないか、ということも出て来た。
特に「フェティシズム」を題材にとった作品なのに「フェティシズム」の要素が少ないのでは?という意見が多かった。これには、作者である自分が一番気づいていて、しかし躊躇していた点でもあった。
と、いうのも。
今回稽古中に俺が参考にしているサイトのブログを役者全員に見てもらった時、全員が引いた。
つまりは、俺が本気でマニアックにフェチを書いちゃうと、ついてこれなくなっちゃうんじゃないか、という懸念があったせいだ。
でも、このときの反応を見て、足りなかったフェチの表現要素を増やすことに決めた。

また、インプロを挿入する、というのも決まった。
全体の活性化と、観客と舞台の一体化を狙った演出だ。
一部でアドリブを意図的に入れて欲しい、とした場面もあったけれど、もっと具体的にインプロを入れたいというゆりこさんの方針もあった。
そこで台本では3ヶ所入れておいた。演出では尺的な都合やらなんやらで最終的には2ヶ所になったが。

いろんなことが重なり、スケジュール的にタイトにはなったが、17日の最終稿配布の日の朝、脱稿。
最終的に31ページにまで膨れた。
最初40~60分という依頼が大体80分くらいにまでいった。

脱稿に至るまで、本当にキャストと音楽担当の朝日巡くんとゆうさくくん、演出のゆりこさんにはお世話になった。
キャストには、事細かな役への取り組みをしてもらい、役作りの相談という形で自分では書き足りなかったことを思い起こさせてくれた。
巡くんにはゆりこさんの依頼で劇中歌を作詞作曲してもらい、その曲のデモを聞きながら作業を進めていった。あの曲がなければ、挿入したユウとタカシのシーンが、見ていて作者が泣きそうになるシーンには発展しなかったと思う。
ゆうさくくんには自分の思い描いていたイメージとはまた違った角度からの作品の見え方を教えてもらった。
ゆりこさんにはもちろん演出やいろんな面、特に最終稿に関しては台本の細かいチェックを、無い時間の中でやってもらった。

こうして、台本自体は11月17日に作者の手を離れた。親離れだ。
しかし、この作者、子離れが出来なかった。

11月20日。
劇中で使う映像撮影のために、某所にある撮影用のハウススタジオを借りて行って来た。
素晴らしい背景の元、素晴らしい映像を作ってくれた真宮さんとアシスタントをしてくれたりりこさんには感謝してもし切れない。
当日撮影していた時には、些細な監修と雑用、映像中のパイ作りくらいしか出来ない作者でしたけど…。
後日、運転手を務めてくれたずんさんに「何をしている人かわからなかった」と言われました。

この時点で、ゆりこさんには主催・企画・プロデュース・照明プラン・衣装・出演・映像監督…の肩書きがついていた。このあと、舞台美術も追加されるのだが。

そしてバタバタと12月もどんどん過ぎていき、12月15日最終稽古~16日小屋入り・仕込み・ゲネ~17日&18日本番となりまして。

おかげさまでチケットは完売。
3ステージの予定が追加公演を打てるようになり、4ステージすべて満員御礼と相成りました。
あさくさ劇亭は、もともとそこまで大きな小屋ではないのだけれど、それでも満員御礼は想定しておらず、嬉しい悲鳴・絶叫でした。

本番に入ってからも、いろいろアクシデントやらなんやらがない訳ではなかったけど、スタッフの皆さんに支えてもらったおかげで、キャスト陣は自由に演出の指揮の元、舞台上で台本作者の書いた世界を広げてくれました

感謝は尽きない。

ここから、アカデミー賞授賞式並みの感謝のスピーチに切り替わります。

主人公のユウ役:差異等たかひ子ことピコちゃん。
あなたが現れてくれたことでユウは、悩み苦しみ愛されて受け入れられる人物に成長しました。芝居に対し、役に対し、最後の最後まで悩んでくれたあなたに、自分のことを悩むユウが重なり、共感を呼んだのだと思っています。「踏ん張ってよ、頑張ってよ、立ち止まんないでよ」のセリフが、あなたか発せられるのが、とてもジンとしていたんです。あなたのフットワークにも影響を受けました。
ありがとう。

ジーンズフェチのジーナ役:ナナさん。
初対面のときから、あなたはジーナでした。あなた無しでは成立しない改稿作業、楽しかったです。ジーナを愛し、ストイックに役を作り、育ててくれて、舞台の上で表現してくれたあなたには、感謝の二文字では足りないです。セーラとのバッチバチのバトル、毎回楽しみに見ていました。今回の台本が、感受性の豊かなあなたのアンテナに引っかかったこと、そのこと自体が運命だったのでしょう、必然だったのでしょう。
ありがとう。

黒髪・制服・メガネフェチのセーラ役:三枝ゆきのちゃん。
10年お待たせしました。やっと一緒に芝居作りが出来たと思うと、嬉しさと申し訳なさとがごっちゃになってます。お待たせした甲斐のある現場だったでしょうか? 普段の芝居の稽古環境とはまた違う中での奮闘振り、毎回は行けなかった稽古場への顔出しの際に、いきいきと演じているあなたの姿でわかりました。客演オファーを受けてくれたこと、参加してくれたこと、そしてジーナとのバチバチの対決をしてくれたこと。嬉しかった。この経験が、更なる飛躍に繋がってくれること、期待しています。また、絶対、一緒に芝居やろうね、いや、やるよ!
ありがとう

バラエティフェチ・メッシーフェチのエッティ役:桜井まゆちゃん。
今まで、ここまではじけた役も少なかったんじゃないでしょうか。全身タイツ2種類の衣装、まずそれを嫌がらず引き受けてくれたこと自体に感謝をひとつ。劇団員として、責任を持って役者陣を統率してくれたこと、それが役者が舞台で表現できる安心材料だったこと。そしてエッティの役柄を楽しんで自由自在に操って演じてくれたことに感謝しています。作者は大船に乗っていられました。映像でのあのアップの顔、それだけで作者としてはお釣りがきます。本当にエッティでよかった。
ありがとう。

ロリータファッションフェチのキレー役:佐藤圭さん。
忙しい中、また少ない稽古の中、あれだけの可憐なキレー役、ケイちゃんしか出来ないと思います。対立するジーナとセーラ、そして自由なエッティの間でオロオロする姿、可愛くて仕方なかったです。役柄をつかむのがうまく、改稿作業の中でもイメージしやすいキャストのひとりでした。この出会い、絶やしたくないです。
ありがとう。

にじいろ幼稚園の先輩・アサト先生役:朝日巡くん。
ストイックなあなたに、ブレないあなたに、安心してセリフを託すことが出来ました。あなたの存在が、あなたが演じるアサト先生が、今回改稿していく中でどれくらい助けになったか、計り知れません。特に、アサトが語る、今回のテーマ「フツウ」に関してのメッセージ、そのメッセージを力強さを持って表現してくれたこと、作者冥利につきます。
そしてアサトのテーマ曲、あの曲が持つ力は、ひょっとしたらあなたが自分で思っている以上かもしれない。少なくとも、俺はあの曲があったおかげで、芝居が深くなったと思っています。
ありがとう。

タカシ役:コウジ・F・ゾウチクくん
あなたがタカシを演じてくれたこと、今回の台本について、どれだけプラスになったことか。作者よりタカシに詳しいあなたに、「フツウであることにコンプレックスを持つタカシ」に全力で取り組んでくれたことが、あの台本の切なさを広げてくれる結果を生み出しました。最初、ただのおバカな男だったタカシが、あの深さを持ったタカシに成長したのは、あなたが成長した証しだったのではないでしょうか。あなたはみんなに愛されてたよ。
ありがとう。

ミキオ役:小柳凌くん。
ミキオの役作り、大変だったと思います。タカシとの友情、ユウへの友情と理解、レイコ先輩に振り回される様。どれひとつとっても、役者としての技量が問われたと思います。忙しい中、稽古日数も限られている中、ミキオとして芝居中ブレないあなたには、安心してミキオを任せていました。特にインプロ、日に日に良くなっていく中で、基礎としてミキオが生きていたからこそ、あそこまでの爆笑を勝ち得たのだと思っています。ミキオがあなたで、あなたがミキオでよかった。打ち上げの席、あなたが帰った後、ブレないあなたの話、つきなかったです。
ありがとう。

店員・ひとり3役:びりりあん みりんださん。
ファインプレー賞はあなたです。短い出番ながら、結構な無理難題を指定した台本だったのにもかかわらず、しっかりと観客を掴み結果を残していく様、プロ根性を見ました。みりんださんがしっかりと笑いを取っていってくれた後だからこそ、タカシとミキオ・ユウとアサト・ユウとタカシのシーンが映えたのだと思っています。それは作者として、ワンポイントピッチャーがしっかり投げてくれたおかげです。
ありがとう。

ピアノ奏者:ゆうさくくん。
あなたが提示してくれた音楽の世界観、それが俺の世界だけの台本じゃないことを教えられました。独りよがりでは出来ないさくひんづくりのありかたをおしえてくれました。本番のピアノを演奏するサンタクロース、打ち上げの席でゆきのちゃんが言っていた通り、この作品を運ぶサンタさんの役割を果たしてくれたこと、大きな成果です。
ありがとう。

それから、小屋入り後からの作品を支えてれたスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
・前説と後説のMC、Ireneさん。客席と舞台を暖めて、劇世界への入り口としての先導役、アフターイベントの仕切り、舞台上のもうひとりの主役がいたからこそ、キャストは大船に乗れました。
・マスコットのあまね☆しのぶさん。あなたがはじけていてくれたおかげでリラックスできた役者は数多いです。ホント、太陽のようにまぶしい存在でした。
・当日制作のイケシタマキさんとコナンさん。使えないパシリで申し訳なかったです。寒い中、制作作業疲れ様でした。縁の下で支えていただき、役者陣は自由になって作品に打ち込めました。
・映像担当の真宮凪さんと内田りりこさん、作者の脳内イメージを超える素敵な映像製作、ごくろうさまでした。公演当日の撮影もしていただいて…。
・当日の照明オペレーターの上野瑛美さん、音響と映像投影の南順平さん、小屋入りとバラシの当日の当日スタッフをやってくれた篠田知巳さんにも心からの感謝を。
それと。
素敵なイラストで公演を彩ってくれた早乙女咲さんとスチール撮影の小住弥生さんにも特大の感謝を。

今回の座組みに携わってくれた人々全員に感謝を。

そして。
忘れちゃいけない。

レイコ先輩役の小百合さんこと、演劇集団LGBTI東京の主宰:小住優利子さん。
あなたのセンスですべてが決まっていく、その作業の一環として俺を台本作家に選んでくれたこと。それが俺にとってどれだけ大きな効能を発揮したか、わからない。時に優しく時に厳しい演出家でいてくれたこと。最初難色を示した場面も少なくなかった台本を、最終的には「価値ある演目」とまで言ってもらえるように成長させられたのは、やはりゆりこさんの指揮の元動いた座組み、そしてゆりこさん自身あってのことだと思います。ゆりこさんの演出の元で動けて、感謝してます。
演出として、俺の台本の具体化を、ここまでやってもらえたのは幸せでした。
レイコ先輩の暴れっぷりが、その後のアサトとユウのシリアスな場面へのつなぎとして効果的だったか、ゆりこさん自身が一番わかっているとは思うけど、作者としても、緩急のある演出に連れ添った台本を書く作業、楽しかった。どんどん長くなっていくレイコ先輩のインプロで、外で待ってるイケシタさんがランタイムを気にしていたのが大変だったけど…今となっては笑い話に出来るでしょう。
何しろ拙い俺の台本を公演に見合うまでに磨く作業に砕身してくれたことに感謝。その上で、好き放題書かせてもらって、自分のためになったこと、とても嬉しく思っています。
自分自身、この「PAIN-AGE」を持って処女作と呼べる作品に仕上げられて、作家としての処女航海、スタートラインからの出発を切れたこと、感謝してもし切れない。
本当にありがとう。

俺は幸せな作者です。

フェチに関する台本をLGBTIの人たちが演じる、その上で「セクマイ≠フェチ」である、それが自分への課題だった。そして、主人公とフェティシズムの擬人化たちをめぐる話、という構成をLGBTIの人たちが演じる。細心の注意を払いつつプロットを作り台本を書き、改稿して行った。
「自分のセクシュアリティで演じることをテーマ」としている劇団の方針に沿った台本にしたつもりではいる。

自分のフェティシズムを大切にし、擬人化したフェティシズムたちと語り合うブログを楽しむ主人公の、「フツウ」という気持ちをめぐる話。フェチという「フツウ」とは違う「性的嗜好」をめぐる物語が、「フツウ」とは何か?をめぐる話になっていった。

セクマイの人にとっての「フツウ」という言葉が持つ残酷さ。それは意識していた。

この話は直接的にはセクマイの話ではない。
でも、セクマイの人たちが演じることによって、この話が「性的嗜好」と「性的指向」のダブルミーニングになっていったのは大きいと思う。作中、ジーナが言う「ありのままの自分を告白して、何が悪いのさ」というセリフに集約される、自分にとっての「フツウ」が他の人の「フツウ」とは違う、その悩み。
俺はセクマイではなくストレートで「フェチ持ち」の人間だけど、だからこそセクマイを理解したかったし、理解しなきゃいけないと思っていた。

「クリスマス公演は、まず自分たちが楽しんで演じられることが大切」とゆりこさんは言っていた。

もちろん、それはそうだ。
その上で、セクマイについて考えた。

隠している、自分のフェティシズムを擬人化し、ブログの中で会話している主人公・ユウ。
「フツウ」でしかない、というユウの友人・タカシ。
タカシへの想いについて、そしてタカシの「フツウ」をめぐり、ユウの中のフェティシズムたちがケンカを始め、自分にとっての「フツウ」を見失ってしまうユウ。
そのユウに対して、「フツウなんてばかげてる、自分に素直でなきゃ」というアサト。
ユウにとっての「フツウ」を知って「素直になりな」という友人のミキオ。
そして「フツウなんかない」と気づき、ユウを受け入れるタカシ。

この話を、ワークショップ・オーディションの時のディスカッションで、キャストのみんなは、セクマイの話・受け入れる話、と、読み解いてくれた。
その時、ホッとした。
自分の話、と読み解いてくれた人もいる。

自省として。
俺は知らない間でセクマイへの無理解を口にしていたかもしれない。
いや、口にしていたろう。
それに気づき、反省することもあった。

だからこそ、セクマイの人たちに、ただのフェチをめぐるてんやわんやだけではないと思ってもらえたのが、嬉しかったのだ。

ゆりこさんにはもう一歩フェチ要素が欲しかったと言われた。
それは俺の腕の問題で、どこまで「性的嗜好」を「エロス」と結びつけないで表現するか、が、難しかった。フェチたちには今回エロスを語らせない方向をとった。
キャッチフレーズだった「セクマイ×フェチ」がどの程度達成できたか、書いた本人はわからないんだけど…。
でもフェチを入り口にセクマイをすかし見える台本にはなったと想う。

当初のオーダーだったコメディ要素は、俺自身からは大きく盛り込まなかった。
ユーモラスな雰囲気は、最初のシーンで身にまとって芝居が始まるので十分出ているかな、と。
インプロで笑いを持っていってもらったし。

嬉しかったのは「誰も傷つかない物語ですね」と言われたことだ。
今回は悪役がいない。
自分が自分の悩みを受け入れられるまでの話だ。
クリスマスの公演に、人を傷つけたくはなかった。
傷ついたといえば、レイコ先輩のビンタを4公演くらい続けた小柳くんかな…物理的に。

制作まわりの都合と、いろんな都合とで、前説とアフタートークは見ていない。
それは、秘密で良いんだ。
うん。

それと。
1日目の夜の回を観に来てくれた大学の先輩トロさんと同期テッピーにも褒めてもらえたのが嬉しかった。
「ニイモトも、まだまだ牙を磨いているな」とトロさん。
磨き続けますよ、これからも。
「『イン○イド・ヘ○ド』にはいくら払ったの?」とテッピー。
払いませんよ、もちろん

周回遅れのスロースターターのオールドルーキー、処女航海を終えました。
今回、作品を十分なまでに愛してもらった作家は、次の航海へ向けて、支度してます。
いざ、次の旅へ。

「セクマイ」が演じる「フツウ」をめぐる「フェチ」の話。
「PAIN-AGE」のお話、ここまで。

おしまい。


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