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二人組のヒットマンについて私が知っている二、三の事柄

例の如く、私は村からバイパスへ抜ける道の途中のダイナーで相変わらずの朝食を誂えた。
店は朝帰りのろくでもない若者と、早起きだけがレゾンデートルのような年寄りで混み合っていて、私もそのどちらかに所属しているはずだった。
カウンターに放り出されたハンバーガーにうんざりした気分で取りかかろうとしたとき、店の入口から見たことのある二人組が入ってきた。

ひとりは長い髪をオールバックにまとめた体格のいい男。
もうひとりはもじゃもじゃ頭から顎まで髭をつなげた背の高い男。
二人とも黒いスーツを身につけ、もじゃもじゃの方が革のアタッシェケースを下げている。
彼らは店の中をぐるりと見回して一呼吸置くと、まっすぐ私の方へ進んできた。

一連の動きを私は、カウンターバックに嵌め込まれた鏡で見ていたのだが、知らぬふりをして完全に香りが抜けた薄っぺらいコーヒーの湯気に顔を伏せた。
彼らはスツールの私を見下ろす位置までやってくると、わざとらしくネクタイを直した。

「日本人も聖書を読むのか?」
真後ろのもじゃもじゃが口を開く。
「俺は日本人が聖書を読むのを見たことがねぇ」
私は姿勢を崩さず、私の朝食を食べ続けた。
「なぁ、神の御業を知らぬ哀れな日本人にエゼキエル書第25章17節を読んでやろうか」
もじゃもじゃは私の肩に手を置いて言った。
「日本にだって聖書を読む奴はいるよ。それにあんたのそらんじてるエゼキエル書は、大部分が昔の映画の台詞だそうじゃないか」
私が応じると、彼は表情を変えず分厚い手にじわりと力を込めた。

「奴らはどこだ?」
両手をポケットに入れたままのオールバックが尋ねてきた。
「だれ?」
「とぼけるな。お前が追いかけ回してるヒットマンの連中だ」
「何のことだ。そんな連中に用はない」
言い終わる前に、私の後頭部に硬いものが押し当てられた。
「二度言わせるな。マーヴィンの野郎みてぇに派手に脳みそをぶちまけたいのか。早くしろ!catch up!
私はカウンターの端にあったケチャップketchupの瓶を手に取り、黙ってハンバーガーにぶちまけた。

いつの間にか店中の客も店長も、温和しい死体みたいに床に伏せて両手を頭で組んでいた。
「オーキー・ドーキー。度胸があるのは認めてやる」
もじゃもじゃが抑えた声で続けた。
「俺たちゃここまで四文字言葉も使わずに紳士的に話をしてきた。だが誰もがブッチみたいに逃げ切れるような運を持ってるわけじゃない。五つ数えるまでに口を開かねぇと」
彼は真っ赤になったビッグ・カフナ・バーガーを手に取り、かじりついた。
「お前のFxxkなド頭をFxxkなトマトみてぇに潰してやる」

実のところ私は、すでに充分ビビっていた。
この時点でテキストが当初の想定を超えてひどく長くなっていたからだ。
「5…4…3…2…」
「オー・ケイ、わかったよ」
私は両手を広げた。
「もうずいぶん前から誰も読んでくれていないような気がする」
「いい子だ。お互い忙しい身だからな、話もテキストも簡潔にまとめようぜ」
オールバックが腹のベルトにM1911を差し込んだのを見て、私はバックポケットから紙片をひっぱり出した。
「二人組のヒットマンてのは、これだよ」


Jam & Lewis:

ミネアポリスを拠点とするプロデューサー/ソングライターコンビ。
80〜90年代のR&Bのみならず広くポップ・ミュージックを語る上で欠かすことのできない二人。
Princeが結成したThe Timeの主要メンバーだったが、ステージをすっぽかし馘首クビになった過去も。

♪ ”Rhythm Nation”  by Janet Jackson

♪ ”Human”  by The Human League


Sly & Robbie:

キングストン出身のプロデューサー/リズム・セクションコンビ。
Stepers/Rockers/Rub a Dubなど、レゲエの歴史に残るリディムを創出しつつ、ジャンルを超えてビートを打ち続けた偉人たち。
2021年12月、Robbie Shakespeare逝去。R.I.P.

♪ ”Hey Baby”  by No Doubt

♪ ”Close To You”  by Maxi Priest


King Garbage:

ノースカロライナ州アッシュヴィル出身の二人によるユニット。
自身の作品ではドープとも言える先鋭的な音作りをしつつ、下記のようなプロデュース・ワークではR&Bマナーを現代的に洗練させ、複数のグラミー・ノミニーに。

♪ ”SING ft. Tori Kelly”  by Jon Batiste

♪ ”Sweeter(ft. Terrace Martin)”  by Leon Bridges


Pop & Oak:

ヒップ・ホップ・ネイティヴとも言えるPopと美メロディ・メーカーのOak。
フィラデルフィアとイスタンブールで生まれた二人がLAで手を組んだ結果、ここ10年というもの引っ張りだこのプロデューサー・チームへステップアップ。

♪ ”Only Wanna Give It To You ft. J. Cole”  by Elle Varner

♪ ”My Girlfriends Are My Boyfriend ft. Saweetie”  by Demi Lovato


Chase & Status:

マンチェスターで結成、骨の髄まで染み込んだドラムンベースを起点に幅広い活動を見せる二人。
Rihannaのプロデュースで脚光を浴び、メジャー/マイナーを問わず多彩なシンガー、ラッパーをフィーチャーし続ける。

♪ ”End Credits Feat. Plan B”  by Chase & Status

♪ ”Say The Word ft. Clementine Douglas”  by Chase & Status


「気に入らねぇな」
オールバックが目を細めてこちらをめ付けた。
「俺たちが入ってねぇじゃねぇか」
私は驚いて訊き返した。
「あんたたちが?だってこれはポップ・ミュージックのヒットマンのリストだぞ。あんたたちのような業界のヒットマンとは意味が‥」
「なめてもらっちゃ困る。このジュールズだって歌ってるし、俺なんかあのオリヴィア・ニュートン・ジョンとデュエットしてるぜ」

私は両側から拳銃で小突き回され、泣く泣くリストに二人の名を書き加えた。
簡潔に、だって?
今日の私には、なぜかそれはできない相談だった。

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