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GO toトラベルは時期尚早 それでも観光戦略が必要だ!

新型コロナのリスクコントロールの失敗のツケ

はじめに言っておくと、GO toトラベルキャンペーン(以下GO to)は新型コロナへの対応策として大枠では間違っていないと私は考えている。そして、その実施についても夏のうちからのスタートが望ましい。観光産業が占める経済の割合は大きく、世界旅行ツーリズム協会の調査によると、2018年のGDPに対する旅行・観光業の寄与額において日本はドイツを抜いて3677億ドル(約40.6兆円)になったという。さらにいえば、観光産業には様々な業種が関連しており経済の波及効果も大きい。したがってこの分野への支援は絶対に必要なのだ。

しかし、何事にも前提条件というものがある。そしてGO toを実施するための前提条件を整えることに関して政府は不手際を連発してきたと言っていい。新型コロナの対策として重要なのは、第一に感染対策や医療体制の構築であり、第二に新型コロナという新しい感染症が人体へ及ぼす影響について既存の感染症やその他の疾患と比較してどの程度深刻なのかということについてのいわば危険度を広く正しく理解してもらうことだと私は考える。

第一の対策については結果としておおきな失敗はしなかったのではないだろうか。これは、国民の自粛要請への対応や医療機関をはじめとした感染症対策に最前線で関わる方々の努力によるところが大きい。しかしながら、第二の対策については、マスメディアの新型コロナ恐怖キャンペーンとでもいうべき情報拡散を放置してしまい、政府はこの状況に多くの人々が理性的に向き合うことができるような情報コントロールに失敗した。(この件については今回のメインテーマではないので、後ほど詳しく書こうと思う。)

GO toが功を奏するためには第一の対策はもちろんのこと、この第二の対策が効果を上げていなければならない。これが不十分であるために、今の段階でGO toによって広がるのは新型コロナそのもののパンデミックではなく、新型コロナによる心理的パニックであろうと私は予想する。ちなみに言っておくと政府もさすがにそろそろ新型コロナが及ぼす健康への影響について、他の疾患と比較してリスクがどの程度なのかを(少なくともこれを深刻な感染症だとすると今後たびたびこれと同等のことがおきてしまい収拾不能になると)認識しているのだろう。そうでなければGO toを前倒してやるはずがない。しかしながら、その認識が国民と共有できていないために、本当にやるべきことができずにいると私は考えている。

パンデミックも恐ろしいが、心理的パニックはさらに恐ろしい。したがって今GO toを大々的にスタートするのはマイナスの効果しか生まないことになる。そして結局やるべきことができずにそのツケを払うのは国民ということになる。

徐々にGO toのエリアを拡大していくしかない

この状況においては、全国をいくつかのエリアに分けてその域内においてのGO toからスタートするしかないだろう。各都道府県が行っている旅行助成は好調のようであるから、この夏はそれを近隣の都道府県まで広げるなどして徐々にエリアを拡大していくことが望ましい。

しかしこれでは本当の効果は生まれないことは理解しておかなければならない。なぜなら、所得や人口の面で最もパイが大きい東京圏の人間が東京圏で消費をすることになるからだ。実際のところ東京圏には東京圏の人たちが二泊三日程度の旅行を楽しむだけのコンテンツは豊富にある。私の住んでいる石川県の宿泊割を県民が多く利用したように、東京でも同じことが可能だ。そしてそれを国の制度でやるとなれば国の予算を使って東京圏の人が東京圏で消費することになる。それで結局割を食うのは地方の観光地になるということは覚悟しなければならない。

だからといって早期に東京からの観光客を受け入れるだけの冷静さはもうない。自分の選挙のことを考えれば、コロナを恐れず東京からの観光客についても対策を講じながら受け入れましょうと言える政治家はいないだろう。残念ながら私でもそこまで強くはない。冷静な議論ができない状況を招いてしまったリスクコントロールの失敗が悔やまれる。

それでも今できることをやるしかない

まずはリフレッシュ

まずは、近場の旅行でリフレッシュしようではないか。できればテレビやネットを遮断して、ゆっくりと過ごしてみるといい。自分が住んでいる地域の旅館に泊まり、食事を楽しむ。そのような機会はあるようでそう多くはない。リフレッシュして、新型コロナ騒動から距離をとって、自分の住んでいる地域の魅力を自分自身が堪能し、活力を取り戻す機会としてほしい。

さらに、様々な対策を講じつつサービスを提供してくれる人に感謝し、言葉を交わそう。普段サービスを受けるときに「お客様(お金を払う側)は神様だ」という態度になっていなかったか自省し。サービスを受ける側と提供する側のどちらが欠けても幸せな時間を過ごすことができないという対等な関係にあることに気が付く機会としたい。

こうしたことも含めた「あたりまえ」を見直しすることこそ最高のリフレッシュではないだろうか。

さらに、地元の価値について考えよう

リフレッシュを通じて自分の地元にはこんな素敵なサービスがあったのか!と気が付くはずであるが、せっかくならばもう一歩踏み込んで考えてみるのはどうだろうか。

自然が豊かで食べ物がおいしく、伝統文化がある、、、自分の地元をよその人にそう言って薦めてはいなかっただろうか。たしかにそれは素晴らしいことだが、正直言って特別に特別なことではない。どこの観光地もこれらのものはだいたい備えているものだ。それらをベースとしてさらに自分の地域にしかない特別なものは何か考えてみるのもいいだろう。

なぜ自分が自分の住んでいる地域が好きなのか(あるいは嫌いなのか)について観光しながら考えることはきっと新しい視点を獲得することに通じるはずだ。

そしてそれが観光戦略の土台になると私は考えるのだ。

マイクロツーリズムから本物の観光DMOへ

マイクロツーリズムとは

星野リゾート代表の星野佳路氏が提唱しているのがマイクロツーリズムだ。これはインバウンド消費が失われた状況で、国内の観光産業を回復させる手段として日本人が国内旅行を見直そうという取り組みだ。これまでもスモールツーリズムやショートトリップという言葉で表されることもあった。

言うまでもなくマイクロやスモールという言葉の持つ意味は二つある。一つは当然のことながら移動範囲が小さいということ。どこまでがマイクロやスモールの範囲なのかはともかく、少なくとも国内旅行を示しているのは間違いない。短期的には県内や特定の地方区分内を示すものになるかもしれない。もう一つの意味は旅行を構成する人数が小さくなるということだ。これまでのような団体旅行の割合は減少し、いわゆる個人旅行の割合が増えていくのではないだろうか。

観光DMOを再構築して超マイクロツーリストを増やそう!

残念なことだが、国が後押ししたことによって観光DMOの乱立したものの、それらは国の補助金を受け入れることそのものが目的化したような組織である場合がしばしば見られた。旅行や観光のプロと呼ぶには程遠い人材が難易度の高いインバウンド対応の取り組みを行ったり、地域の合意形成のための会議を取り仕切ったりするばかりで、本来の観光地域づくりはおろか魅力的な旅行商品を打ち出すこともままならない組織が少なからず生み出されてしまったのだ。しかしこれは東京オリンピックに向けて降ってわいたインバウンド消費を取り込むために、「これからは観光だ!」という掛け声の下で誰もが冷静さを失っていたのだからやむを得ない面もある。

インバウンドにくらべれば華やかさに劣るかもしれないが、新型コロナの影響によるマイクロツーリズム対応は旅行における新しいスタンダードを要請するものである以上、これに応えることを通じて本当の観光地域づくりを進めていくことができるのではないだろうかと考えている。域内における食や体験、ビューポイントなどについてブラッシュアップすることが大切なのだが、そのために最も効果的なのは、そこに住む人たちのなかに超マイクロツーリストを増やし、多くの人が域内で超ショートトリップを楽しむ地域を作ることではないか。つまりそこに住む人たちが自身の住んでいる地域を味わい楽しむ。住んで楽しい地域を作ることができるかどうかが、今後の観光地を左右するはずだ。

大儲けできなくても、域内の観光消費が一定程度確保されている地域であれば、新型コロナの影響のような移動制限が出ても悪影響を抑えることができる。域内の感染対策を行えばそのエリア内において消費が維持されるからだ。実際に地元の客を大切にしてきた観光事業者や飲食店と、インバウンドだけをターゲットとしてきた事業者では新型コロナの影響の度合いは異なる。

まずは自分がマイクロツーリストになって旅を楽しもう!

こうなると、もはや暮らしと旅の境目もあいまいになる。ついでに働くことと旅の境目もあいまいになればいい。旅するように暮らし、旅するように働く。それを可能とする地域になることを観光DMOのミッションとしていくことで時間はかかっても結果として持続可能な交流人口の拡大や、ポストコロナにおいて日本中や世界中から「行きたい」と思わせる地域になりうるのではないだろうか。

観光関連産業の支援は必要であり、そのためにGO toは大いに活用するべきだ。しかしこれを一過性の消費喚起に終わらせるのではなく。持続可能なモデルを構築するための仕掛けづくりに活用できるかどうか。それをなしうるプレーヤーがいるかどうかでその先に大きな差が生まれてくるということなのだろう。

とはいえ、今までのように、ハード整備をしたりないものねだりをしたりする必要はない。まずはGO toを使って自分が仲間たちとともにマイクロツーリストになればよいのだ。
その輪が広がる地域にこそ希望に満ちた未来があるのだから。



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