絶対わかる『ナラティブTRPG』
ナラティブって?
ナラティブという言葉をよく見かけますが、なかなか正体がつかめませんでした。調べると『描写駆動型』なんて説明されていたりして、狐につままれたような気分になったものです。
ここでは一般的なTRPGとナラティブTRPGを比較して、実際の遊び方としてどういう違いがあるのか調べてみます。
ナラティブという言葉自体は歴史があり、注目されはじめたのは1960年代。その後1990年代には臨床心理やビジネスなど分野問わずこの言葉がムーブメントとなったようです。
分野によって定義にいくらか違いはありますが、この"ナラティブ"という言葉は、いわゆる"ストーリー"とは区別されています。
少し乱暴に一般化して再定義すると、
となりますが、これだけではなんのことかわからないですね。
いくつかナラティブ系TRPGを取り上げてシステム面から探っていきます。
最初はこちら。
ザ・ループTRPG
TALES FROM THE LOOP – THE ROLEPLAYING GAME
プレイヤー側から見た場合のこのシステムは以下の特徴があります。
・極めて軽量(わずかなステータスと、ごく簡易な判定処理があるのみ)
・背景の設定が必須
「ナラティブ系システムというからには『描写駆動の独特な支援系ルール』があるに違いない」と思われたかもしれませんが、大雑把に言えばプレイヤー側からみたシステム的な特徴はこれぐらいしかありません。極めて軽量で、技能に至っては12種類しかありません。その気になればその日のうちに暗記できそうですし、サマリーを用意してもおそらく1ページにおさまるほどです。
重要なのは軽量であることに加えて背景の設定(悩みごとや人間関係)が必須である点です。この意味はすぐにわかります。
一方、GMにはゲーム進行上の重要な指針があります。
GMのみならず、プレイヤーに物語の描写や細部の決定を委ねていくというわけですね。また、キャラクターに設定された背景に物語をからめていくことが推奨されています。これが背景の設定が必須である理由であり、物語への強い結びつきにつながります。設定という間接的な形で物語に大きな影響を与えることになりますね。
加えてGM向けのオプションルールとして『ミステリー・ランドスケープ』があります。これは、『物語の舞台、フック、登場人物、事件の真相は用意しておくものの、物語の筋=プロットや詳細は決めずにこの舞台の中で自由にプレイヤーと物語を作り上げていく』という箱庭ルールです。展開などを含めた物語の多くの部分をプレイヤーに委ねます。もはやこの物語には明確な終わりがありません。そもそも何をもって事件解決とするかすら事前には決めないわけです。
ナラティブTRPGというのが何なのか、だいぶ見えてきました。
しかし結論を急ぐ前にもう一つシステムを見てみましょう。
ダンジョン・ワールド
これはD&Dライクなシステムですが、こちらも軽量に徹していて、ターンやラウンド、イニシアチブといった概念すらありません(※囲み枠参照)。
特筆すべきは『ムーヴ』とよばれるアクションです。
ムーヴには戦闘行為を表す『ハックアンドスラッシュ』、ピンチをしのぐための『危機打開』などがありますが、この基本のムーヴは8種類しかありません。
そしてこのムーヴによるアクションは抽象化されているため具体性がありません。プレイヤーは具体的にどうやって戦うのか、どうやってピンチを乗り切るのか詳しく描写した上で行為判定していくことになります。
このムーヴという「描写を支援するシステム」に加え、GM向けの指針として次のように語られています。
結局、ナラティブTRPGって何なのさ?
これでかなりわかってきました。比較に登場してもらったのは二つのシステムだけではありますが、あきらかに共通点がありますね。
一般的なTRPGとナラティブTRPGの例を比較してみます。
※ 説明のため、かなり極端に誇張しています。
一般的なTRPGでは準備したシナリオに沿ってゲームが進行します。
もちろんプレイヤーは物語に介入しますが、シナリオやルールの規定内となることが多いでしょう。その意味ではGMやプレイヤーがだれであっても大枠は同じプロットの物語となります。シナリオから脱線すると時としてGMには大きな負担になることが考えられます。
一方、ナラティブTRPGは、プレイヤーが物語の構築自体に積極的に参加します。GMは舞台やフックを用意しますが、プロットや結末は未定のままで進行し、プレイヤーの発想も取り入れて物語の詳細を決めていきます。
一般的なTRPGの場合であればプロットがGMないしシナリオによって決定されるのに対して、ナラティブTRPGではプレイヤーのアイディアも取り入れて全員で物語が構築されました。
ここで天から声が聞こえてきました。
「でもそれって一般的なTRPGでもアドリブでやったりしますよね?
さりげなくプレイヤーの発言をひろってストーリーに取り入れるぐらい
朝飯前ですよ。
おいら200年前からやってますけど?」
その通りだと思います。決してナラティブが特別なわけではない。
ナラティブTRPGはナラティブな楽しさを提供するために、例えば具体的な技能を減らして抽象化し、プレイヤーの描写を促します。また、物語のアイディアを出すことに専念できるようにそもそものルール自体を軽量にして参加者の負担を軽減している。
言い換えれば、「システムがナラティブであることを支援している」わけですが、一般的なTRPGと根本的に違うというわけではありません。そういったナラティブへの支援の有無や遊びやすさはともかく、既存システムでもナラティブ志向で遊ぶことはできると考えます。
逆に、例えばザ・ループTRPGにはかなりしっかり作りこんだシナリオやキャンペーンもありますから、一般的なTRPGに近いニュアンスで遊ぶこともできるでしょう。つまり双方のシステムの思想は可逆的であると言えそうです。
それはともかくとして、やっと最初の定義に戻れそうです。
最初に示した言葉としての定義は以下でした。
これまでの整理を踏まえてTRPG向けに書き直してみます。
誤解のないように書いておきますが、ナラティブTRPGとひと口に言っても考え方、その程度や支援の方法はさまざまです。ナラティブTRPGだからといって必ずしもプロットを全員で組み立てなければならないわけでもありません。プレイヤーが物語構築に参加する程度や匙加減はシステムやGMに委ねられます。
また、優劣がどちらかにあるという話でもありません。事前に練り込まれたシナリオを楽しむということと、みんなで物語を組み立てるということは楽しさのベクトルはいくらか異なるものの、物語に参加するという意味でやはり同じTRPGだからです。
現在、多くのTRPGシステムがナラティブを意識して作られていますから、その線引きも、もう不要なのかもしれません。
今回取り上げたナラティブ系TRPG
ザ・ループTRPG
TALES FROM THE LOOP – THE ROLEPLAYING GAME
2021年6月発売。明確にナラティブTRPGをうたった代表的なシステムです。
独特な世界観で非常に高い評価を得たシモン・ストーレンハーグ氏による同名のアートブックを原作としています。
ザ・ループ TALES FROM THE LOOP(アートブック)
また、AmazonPrimeでドラマ版が視聴できます。
ダンジョン・ワールド
2022年に有志に翻訳され公開。無料。
Apocalypse Worldというシステムを起源とするPowered by the Apocalypse(PbtA)というスタイルに属するシステムです。本家は2011年にリリースされた、なかなか歴史のあるシステムです。無料だなんて太っ腹ですね。
ちなみに実のところ、ザ・ループTRPGはこのシステムの影響をかなり受けているそうですから、わかりやすい類似点があったのは当然と言えます。
このシステムのリプレイ例も公開されています。
このダンジョン・ワールドの翻訳チームの代表であるふぇるさんはザ・ループTRPGの翻訳にも関わられたそうです。
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