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サウンド・オブ・ミュージック


「サウンド・オブ・ミュージック」が好きだ。かなり昔から何度も観てきたけど一度見ると特典映像や解説をみてもう一度本編を観て、と熱中して一日つぶれる。

大自然と共に描かれるマリアとトラップ一家。どのカットを切り取っても絵画みたいに見える。恐らく切り取ったカットを額縁に飾って並べれば素晴らしい美術館が出来るはず。フォン・トラップ美術館。行ってみたいな。一番好きなカットはピクニックするシーンの冒頭。立派な山々、の前を横切るボールからカメラが下がってキャッチボールする子供、とエスタブリッシングショットが最高。それにあの名曲の数々。本当に目と耳に贅沢な映画ですよね。個人的にはこの映画の後味が一番美味しい。画面越しにザルツブルクの空気が伝わってくるようでビールや煙草なんか片手には観れない。なんだかそういう俗世の穢れを持ち込めないような、それこそ山の上の映画って感じがする。

出演者たち

ジュリー・アンドリュースは良い意味で色気がなくて溌剌とした歌のお姉さん的存在。当時はまだ20代後半で娘さんも小さかったとか。「メリーポピンズ」といい、若いうちからファミリー映画でここまで成功してしまうとその後のキャリアは大変だったろうな。
マリアと大佐の恋愛は出会って恋して結婚、とラブストーリー的にはかなりのスピード展開なんだけど、この展開の早さのおかげでマリアは子供のような修道女から家庭教師、恋する女性、妻、母とどんどん役割を変えていく。ストーリー的にはマリアの成長物語としての側面が大きい。

一方でトラップ大佐の物語は控えめ。大佐の心情の変化がもっとじっくり描写されていたら、おそらくクリストファー・プラマーの名演がさらに光っていたはず。私はそこが唯一物足りない。周りに流されず愛国主義を孤独に貫き通す姿勢や妻を亡くしてから人柄が変わってしまうナイーブさはそれだけでもう一本映画ができそう。マリアという太陽があるなら夜の闇や月もなくてはね。子供たちと歌い出すシーンは感動的だけど、あれは大佐個人というより家族の回復って印象が強い。ただ、彼の背景描写に力を入れすぎてしまうと政治色の強い作品になってしまうのも予想がつくので難しい問題なのだけど。大佐の物語を見てみたいな。

エレノア・パーカー演じる男爵夫人は最近になって好きになった。ベテラン女優エレノアの演技は圧巻。口角の上げ方や目の伏せ方だけで魅せてくる。男爵夫人は洗練された服装と余裕のある振る舞いで気品ある美女だけど、大自然の中で描かれる物語の中では複雑にセットされた髪や豪華なドレスにアクセサリー、赤い口紅が人工的でマリアと対照的。衣装も赤が多くて周囲の自然の緑の中では浮いてるように見える。やや悪役ポジションにいるのはマリアの恋敵というよりこういう人工的な要素に異物感があって鼻につくからかもしれない。よく見てみればそれほど意地悪な性格でもなさそうで子供たちに馴染もうと彼女なりに努力したり、マリアに恋を自覚させた後にはバツの悪そうな顔をしていたり。別れを告げる大佐に恨み言一つ言わないプライドの高さなんかすごくいい女なのでは??と気づいてからは目が離せなくなった。クリストファーは「僕ならマリアを捨てて彼女と結婚する」ってさ笑

ところでそのクリストファーは撮影中に子供の共演者たちとは距離を置いていて、同じく年下の子供たちとは少し距離があった長女リーズル役のシャーミアン・カーと過ごすことも多かったらしい。

シャーミアンは当時21歳で、年齢がネックになったのか出演者の中では最後の方に出演が決まった。初の映画出演で子供たちと大人の出演者の中間にいたシャーミアンがクリストファーと二人でどのように過ごして何を語ったのかすごく気になる。エーデルワイスを歌う二人にどのような絆があったんだろう。あのシーンには絶妙な信頼感がある。クリストファーが大佐役にしては若かったこともあって恋人のようにも見えた。シャーミアンのForever LieslとLetters to Lieslという著書があってすごく読みたいんだけど日本語に翻訳されていないのが残念。シャーミアンはクリストファーはキュートでユーモアのセンスがあると楽しそうに語ってた。滞在先のホテルでは酒豪のクリストファーと初めてのシャンパンを飲んだらしい。劇中ではリーズルがSo long,FarewellでI’d like to stay and taste my first champagne(ここに残って初めてのシャンパンを味わってみたい)と歌って許可が出ずに不満げに去るのが可愛いんだけど、シャーミアン曰くクリストファーは白ワインも赤ワインもウィスキーもなんでも飲ませてくれたと笑 クリストファーは毎晩のように遅くまでピアノを演奏して共演者やスタッフを楽しませていたらしい。そして朝早い撮影に文句を言っていたとか。ザルツブルクは雨が多くて撮影が大変だったというのはインタビューでよく聞く。「どうせ撮れないなら寝かせてくれ」って気持ちは分かるよ。

新しい発見

この作品のDVDは既に二本持っているんだけど、技術の進歩に期待してBlu-rayも買ってみた。結果から言うと大正解だった。大事なことなのでもう一度書いておきます。Blu-ray買って大正解でした!素晴らしい復元技術で大自然の中の山脈や木の葉一枚一枚まではっきり見えるし、何より衣装がこんなに素敵だったのか!と新しい発見が。全ての衣装の色使いやラインが美しかった。特に大佐のジャケットは気品があってビシッとキマってるし、男爵夫人のドレスはラインが素晴らしくて静止していてももちろん、歩いた時にもすごく優雅に見える。夫人はよくスカーフを身につけているんだけどその形も芸術的で今見てもオシャレ。あとマリアが修道院から戻ってくる時の青いワンピースがマリアっぽくないなぁと思っていたら修道院のシーンで志願者の女性が着ていたもので、お下がりだったと分かったりも。そしてガゼボで踊るリーズルのドレスは揺れ方やターンの時の裾の広がり方が美しい。ダンスシーンの躍動感はこのドレスがあってこそだと思う。あのヒラヒラ舞うドレスがなければこのシーンは全く別物になっていたはず。こういう衣装って照明との相性なんかも含めて布地選びから全て計算されて作られているはずで、そういうことに気づくたびに私はこの映画がさらに好きになるわけです。

シ♭ドレの歌

作中で歌われるドレミの歌は実はドレミではないって知ってる人はどれくらいいるんだろう。マリアがギターで「読む時のはじめはABC、歌う時のはじめはドレミ」と歌う所から既にキーは二つ下がっていて、ドレミの歌のDo A deer a female deerもシ♭ードレーシ♭レーシ♭ーレーだった。ふと耳コピしてみようと思ってピアノで弾き始めてからようやくアレ?と気づいた。「歌のはじめはドーレーミー」となるはずがシ♭ードーレー??って。英語の発音でDo Re Miと聴くと違和感なかったのに耳コピで弾き始めてからはその違和感が酷くて結局歌詞と音を合わせるためキーを二つ上げて弾いた。

繰り返される楽曲

劇中に流れる曲がほとんど歌唱曲のアレンジなのも良い。カーテン服での外遊びとパーティーのシーンではMy favorite thingsが流れていたり、結婚式でもMariaが、ラストの山越えではClimb Every Mountainが流れる。私が特に好きなのは一家が音楽祭から逃げ出すシーンでSo long,Farewellが、修道院に逃げ込んだところでMy Favorite Thingsが流れるところ。祖国に別れを告げ亡命することと、マリアのお気に入りの居場所であった修道院にぴったり。緊迫感と亡命の物悲しさを見事に表現していて同じ曲とは思えない。こうやって歌唱シーンだけでなく楽曲が繰り返されるから音楽が印象に残るのかもしれない。

子供たち

子供たちはオーディションで選ばれたらしいけど、経験の有無はそこまで重要視されていなかったみたい。それでもかなり計算された配役だった。
長男フリードリッヒ役のニコラス・ハモンドは最初は次女ルイーザ役のヘザー・メンジーズより背が低かったのに半年で15センチも背が伸びて追い越したのだとか。ニコラスの身長を見れば撮影順が分かるシーンもあって面白い。

次男クルトはすごく可愛い。マリアの部屋でMy Favorite Thingsを歌うシーンで、ベッドの端からニッコリ顔を出すところが印象的なんだけど、そのシーンは何度やっても上手く笑えずに居残りになったらしい。クルト役のデュアン・チェイスはカメラマンが笑わせてくれたって言ってたんだけど、ジュリーは私が笑わせてあの笑顔を引き出したの、と得意げだった。どちらが笑わせたにしろ、そういう温かい雰囲気の撮影現場だったって分かって素敵。ほとんど素で子供たちがのびのびしてるから見てて楽しいのかも。

聡明なブリギッタを演じたアンジェラ・カートライトは子供たちの中で唯一名の知られた子役だった。利発そうなブリギッタが作中ややフォーカスされていたのはそういう事情があってのこと。確かにアップの時の表情に貫禄があるしサラッとキーになる台詞を言っていたりする。


子供たちのその後は、リーズル役のシャーミアンは女優をしばらくやってインテリアデザイナーに。フリードリッヒ役のニコラスは俳優を続け、クルト役のデュアンはエンジニアに。ブリギッタ役のアンジェラは後に写真家になってルイーザ役のヘザーと映像プロダクションを経営。マルタ役のデビー・ターナーはフラワーアレンジメント、グレーテル役のキム・カラスは女優活動を継続。
みんな何かしらモノづくりに携わってるというのが印象的。きっとこの映画への出演が大きな影響になったのかな。それにしてもハリウッドの子役なんかはドラッグだとか不良行為で話題になることも多いのにこれだけヒットした作品の子役たちが何も問題を起こさず幸せになってるっていうのは本当にすごいことだと思う。そういう意味でも素晴らしい配役だった。みんなお年を召されて何人かは既に亡くなられてるのが寂しい。

おわりに

長々と書いてしまったけどたぶんそれだけ好きな映画だってこと。最後に好きな裏話を一つ。修道院を出たマリアがI Have Confidenceを歌うシーン、噴水の広場に来る直前に石のアーチを抜けるところで、マリアの後ろを横切っているのが本物のマリア・フォン・トラップさんなのだとか。撮影現場に来て現場を仕切りたがったので大変だったとインタビューにありました笑 ぜひBlu-rayで観てほしいです!

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