済藤鉄腸の2020年ベストアルバム

映画批評家としては誰にどう言われようと時代の趨勢みたいなものを見つけ語らなければいけないし、小説家としては迎合せずとも時代の見据えて立ち回らないと何も書けやしない。が音楽に関しては批評家でもないし曲を作ってる訳でもないし、ただ好きに聞いた。皆が聞いてるんなら自分は聞く必要はないな、と羊文学とかbeabadoobeeとかThe WeekndとかThe 1975はそういうの聞かなかった。名前だけは知ってる。けどそもそも彼らの曲もアルバムも一切聞いたことがない。テレビは見てるのでそこで流れてたら聞いてるかもしれない。興味がない。

2019年から音楽生活は何か変わったか。いや別に。ただ2019年のランキングを発表する時"ビリー・アイリッシュを1曲も聞いたことがない"と告白したが(ナイジェリア音楽好きがだよねー!と言ってくれた、嬉しかった)今年は1曲"Bad Guy"だけ聞いた。良いんじゃないんでしょうか。今年何か告白するとしたら"フィービー・ブリッジャーズって人は「フリーバッグ」のフィービー・ウォーラー・ブリッジが音楽やる時のアルターエゴだと思っていた"ということだろうか。だって名前似すぎだろ。別人として知って驚いた。ブリッジャーズのアルバムはまだ聞いてない。今年はヨーロッパの作品を聞きすぎた。来年はもっと他のトコをディグりたい。ということで40位から1位までどうぞ。

Unhappybirthday / "Mondchateau" (ドイツ)

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ハンブルク拠点のポストパンクバンドによる新作アルバム。頗るメランコリックな曲調と音彩が特徴的で、降りしきる灰色の雨を窓から眺める冬を思わせる感傷に満ちている。深く、深くセンチメンタルに浸りたい傷心の心にオススメしたい1作。

Nira / "Небе" (ブルガリア)

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ブルガリアのSSWによる新作EP。音圧高めのエレクトロなビートに液体金属さながら艶かしく滑かなボーカルが重なりあい、魔術的な世界観が構築されていく。新人としてはなかなかに磐石なブルガリアン・ゴシックで、将来出るだろう初のフルアルバムに期待したい。


Spill Gold / "Highway Hypnosis" (オランダ)

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オランダのロックバンドによる2ndアルバム。前作はもっと爆裂的なパンキッシュ・サウンドが印象的だったんですが、今回は反復と無機質を基調とした、宇宙の全き闇のような暗澹たる響き。個人の嗜好としては前作寄りですが、新しい挑戦も悪くない。

Paracaidistas / "Amor en Tiempos de Pandemia" (チリ)

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チリの新鋭バンド新作EP。"パンデミック時代の愛"というシリアスな題名に反して、緩まったキラキラと輝く音彩、どこかとぼけた味わいの声には癒しが宿るよう。こういう楽天主義の癒し系ロックやらせたらラテンアメリカは強い。


diso.kognityvas / "Istorija apie jį" (リトアニア)

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リトアニアの新人バンドによる待望のEP。アメリカの果てしない荒野を思わせる苛烈で侘しい旋律に、渇きそのもののような擦りきれた咆哮が重なる。例えリトアニア語を解さないとしても、聞く者を心を震わせるような力がある。デビューアルバムに期待。

Once and Future Band / "Deleted Scenes" (アメリカ)

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1stアルバムは在りし日のロックへの郷愁とならんとする気概が爆ぜる驚きの1作、この2ndはバラード調に傾き、過去と未来を漂う緩やかな流れといった風でnot for meと思いきや終盤のアシッドジャズへの転調にやられた。アメリカへの旅だな、これは。


Đutko / "Slušaj mala" (クロアチア)

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クロアチアのバンドによる1stアルバム、なんですけどね、このジャケット見てくださいよ、うだつのあがらないオッサンがカッコつけてる感じ、いやもうこの通りの音楽性です。何だか冴えないんですが、牧歌的でマイペースにロックを楽しんでるなって感じがね、ホント素晴らしい。皆さん、ぜひ聞いてください。


Super Besse / "Un Rêve" (ベラルーシ)

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ベラルーシの2人組ポストパンク・バンド3rdアルバム。コールドウェーブの流れを継承する凍てついた音楽性で、細かくビートを刻んでいく響きの数々は、永久凍土の欠片でできたバールで頭蓋骨を何度も何度も永遠に叩かれるような、神経に障る。この執拗な痛みが癖になる。

Maronda / "Insólito Vergel" (スペイン)

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スペイン出身サイケデリック・ロックバンドの4thアルバム。音の基調は確かに極彩色のサイケな響きでありながらも、そこに草原を優しく撫でる黄昏の風のような切ない叙情が加わり、聞いていると何とも感傷的な気分に。どちらかと言えばダウナーな余韻が宿る1作。

Nemanja / "Cosmic Disco" (クロアチア)

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クロアチアの新鋭バンドによる新作アルバム。東欧の香りは微塵も感じさせないアフロビート×クンビアの世界を股にかけた響きが聞く者の心を高揚させる、旅行にも行けない閉塞の時代にはうってつけの作品。クロアチアにおけるワールドミュージック最前線がここに。


shishi / "MAFITISHEI" (リトアニア)

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リトアニアの3人組バンド2ndアルバム。バルト海の沿岸でサーフロックとRiot Grrrlが合体、剥き出しながらもどこか楽天的、それに加えて、何というのか、東欧特有の皮膚感覚における凍てつきと翳りが確かに存在している。今後何度も噛み締めたくなる1作、になる気がする。

Miljardid / "Ma luban, et ma muutun" (エストニア)

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エストニア期待の新鋭バンドによる2ndアルバム。エストニアでも随一の表現力を持つバンドで、ボーカルの掠れて荒涼としながら、根底に熱き何かの存在を感じさせる声が、その彩りを1本太い芯で貫く。ただ8曲目の"Sisemine samurai"は反応に困る。


Culk / "Zerstreuen über Euch" (オーストリア)

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オーストリアのフォーピースバンドによる2ndアルバム。今どき珍しいほどの正統派シューゲイザーであり、鼓膜に揺らぎを呼びこむ不安定な響きとボーカルSophie Löwの清らかさと燻りが相対するような声が、停滞と解放のあわいを漂う様には思わず陶然とさせられる。

Sytë / "Divine Computer" (コソボ)

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現在アルバニア系の人物たちが英語ポップ界を席巻しているけども、では本場のポップはどんなものか?というコソボ出身バンドの1stアルバム。ジャネル・モネイへのオマージュが明白の題名からも明白なアメリカへの憧憬は、しかし意外とインディー的なドリームポップへと傾倒、アンニュイな匂いがくゆる。


Erki Pärnoja / "Leva" (エストニア)

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2ndアルバム"Efterglow"が暁の傑作、3rd"Saja lugu"が停滞した落胆ときての4thですが、アコギの清冽な音色はそのままに、緩やかな反復が極個人的な憂鬱とエストニア的寒空の神話の間を行きかう様は2ndのノリが戻ってきた印象。あの傑作には及ばずとも美しい、安堵。


PALMĖS ŽIEDAS / "Futura" (リトアニア)

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リトアニアの新鋭による1stアルバム。リトアニアのクラブ文化の豊穣なる伝統に自身を位置づける郷愁のエレクトロ・サウンドと、題名が示すだろう未来への虎視眈々たるしたたかな野心。淀んだ享楽の響きにこそ、リトアニアの未来があると無表情で語る。痺れる。

Aklì / "Taika" (リトアニア)

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リトアニアの期待の新人ロックバンドによる1stアルバム。ノイズ的な歪のギター演奏がドス黒い世界観を顕現させる様は正にダークウェーブ直系、そしてその濃密な闇のなかには炸裂する不穏と、ふとした瞬間の驚くほどにエモーショナルな詩情がある。埋没したくなる全き闇。


Ladaniva / "Ladaniva" (アルメニア/フランス)

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アルメニア人SSWによる初EP。基礎はアルメニアン・フォーク×バルカン民謡、そこにジャズやレゲエなど猥雑な影響が混ざりあい、高揚感溢れる舞踏の響きから切ない哀愁のバラードまでその曲調は喜ばしいほど多用。来年爆発的人気出るんで、まあ聞きましょうや。


Sandra Hüller / "Be Your Own Prince" (ドイツ)

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「ありがとう、トニ・エルドマン」でお馴染みドイツ人俳優による1stアルバム。曲から曲への飛躍が大胆というか支離滅裂というか、すこぶる奇妙な印象を与える作品。ですが声の洗練とは裏腹、精神性の生々しい迷走が私には好ましく。ここから何処へ向かうのか?


Paliekant Žemę / "Kitapus" (リトアニア)

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リトアニア期待の新鋭バンドによる1stアルバム。ダークウェーブ直系にして、正にリトアニアン・ゴシックと呼ばれるべき深淵の響きが40分間永遠のごとく続く様はやはり圧巻。今年は今作に加えて下半期にはEPも発売で乗りに乗ってる、ゴス界希望の闇。

The Bambir / "Guzhi harsaniq" (アルメニア)

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流動的なメンバー交代を続けながら40年以上続くアルメニアのロックバンド、現在は第2世代。アルメニア語ロックという独自路線を永遠と突きつめ、今回も漠砂の熱風さながら荒ぶ響きはもはや伝統芸術の域。もうこのまま100年はブチ抜いてほしい。

Leggs / "Doomswayers" (イギリス)

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ロンドン拠点のパンク・バンドによる2ndEP。初期衝動的に爆ぜるかと思えば官能的にうねる音の万華鏡的彩りと、ブラックミラー的な不穏の歌詞世界がサウスロンドンで滅茶苦茶受けているそうですが、この高評価も全く納得の1作。来年1stアルバム出るでしょう、期待。


Pongo / "Uwa" (アンゴラ/ポルトガル)

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アンゴラ出身ポルトガル人SSWによる新作EP。頭蓋骨に直接聞いてくるような激烈なビートの嵐に、雪崩のような言葉の数々が脳髄の汚穢を洗い流してくれる壮絶な高揚のトリップ体験。アフリカのエレクトロ音楽が好きな方は必聴の1作、逆に日本で有名じゃないのが意外だ。


Siuzanna / "MEGALITH" (ロシア)

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ロシアのR&Bシンガーによる新作アルバム。高貴な淀みを伴った声がまるで溶けた鉛の海に蠢く黒い波さながらうねる様が圧巻なのは引き続き、かなり意識的に世界の音楽を吸収せんとする野心的な気概が際立った1作に。特に掉尾を飾る"OUTRO-2"の大胆さ!


Novem / "Мисли" (ブルガリア)

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Soundcloudで活動していたブルガリアのラッパーによる1stアルバム。臓物と脳髄のジャケットが示す通り凄まじく異様で多様な暴力性に満ちたアルバムで、ノイズ多用やデスボイスが象徴の乱打される暴力によって全き闇の世界を作りあげんとするような昏い気概がある。圧巻。

Krāsa / "Ak dievs, ko par mums teiks citplanētieši" (ラトビア)

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ラトビア新時代のロックバンドによる1stアルバム。ダークでノイジーな質感のサイケデリック・ロックによって紡がれるのは、正に昏き森の一大叙事詩。10曲1時間の大いなる流れに身を任せ、ラトビアン・ロックの最前線へと。


Astro'n'out / "Multivitamīnu multipaka" (ラトビア)

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2010年代に頭角を現したラトビア出身バンドの最新アルバム。ソウルフルな歌声に閉塞を突き抜くような解放感、輝ける未来へと手を伸ばすような切実な音の輝きが今にはより美しい。今作がバンドにとって最も成功した1作というのも納得。


Niko Nikolić / "Drugo mesto" (セルビア)

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セルビアのSSWによる1stアルバム。広がりのある開けた低音ボイスと、透明感に満ちた煌めくギターの残響、ロックとしての激しさを確かに持ちながらも、その優雅な混交は聴く者を、アルバムジャケットのような切ない優しさに満ちた世界へと誘うような。夕暮れ時に耳を傾けたくなる1作。

EGOMAŠINA / "Spąstai" (リトアニア)

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リトアニアの新鋭ロックバンドによる2ndアルバム。シンスウェーブとガレージロックの壮絶なる悪魔合体といった趣の1作で、明晰で尖鋭な響きのなか、ドス黒いニヤつきの悪意と歪な遊び心が交わるこの会心の出来。今後、世界的な評価間違いなし。Joy Division好きよ、集まれ!


Strugare/ "Strugare" (ブルガリア)

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今年最高のヒップホップは何か。Omega Sapienの"Garlic"など世界から様々な作品が現れながら、ブルガリアの新鋭によるこの1作もまた際立つ。無限の手数によって鼓膜と脳髄を翻弄するテクニカルな手捌き、そしてそこに現れる、アルバム1曲目の題名が示唆するアメリカへの怒れる憧憬が強烈。


Walt Disco / "Young Hard and Handsome" (スコットランド)

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グラスゴー拠点の6人組バンドによる初EP。ゴスやドラァグカルチャーの影響を公言する通りの正にクィア・パンク最前線、この閉塞と孤独の時代にこそ捧げられる刹那の生命讃歌"Hey Boy (You're One of us)"は2020年ベストトラックの1本。必聴。

Shpat Deda / "Rrugë" (コソボ)

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コソボのSSWによる新作アルバム。清らかで素朴なる歌声、アコースティックギターの澄んだ響き、それらが優雅に糾われることによって、聞く者はアルバニア語によって紡ぎだされるコソボの大いなる大地へと導かれる。明朗で、冬の咲く焚火のように暖かい音の流れ。


Poder Fantasma / "Canciones para el Siglo XXI" (チリ)

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チリの自称"アポカリプス・ポップロック"バンドによる新作アルバム。軽薄をトコトンまで極めた先に響き渡る無限宇宙の煌めき、そこに玩具箱をひっくり返したような極彩色をブチ撒けたなら、それはもはや無敵の四次元ロック! このアルバムはZ世代によるZ世代のための21世紀讃歌だ!

Sofia Portanet/ "Freier Geist" (ドイツ)

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ドイツから彗星の如く現れたSSWによる1stアルバム。80年代ニューウェーブ幻想を軽やかに乗りこなしながら、色とりどりの宇宙を鮮烈なる赤い閃光さながら疾走する響きには、しかし軽佻浮薄じゃあない1本の極太な芯がある。これがドイツのFuture Nostalgiaだ!


BUCK-TICK / "ABRACADABRA" (日本)

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我が最愛のロックバンド最新アルバム。実は"RAZZLE DAZZLE"以降の雰囲気が合わず、最近疎遠だったのだけども、液状化した虹色の鉄のような官能、その炸裂する舞踏に浮かぶ残像のような猥褻にただただ悶絶させられる。閉塞を撃つダンサブルなアルバムを象徴の「ダンス天国」と「ユリイカ」がベスト。

Svemirko / "Skalamerija" (クロアチア)

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現代クロアチア最高峰のバンドによる待望も待望の3rdアルバム。銀河の煌めきを思わす輝きの音彩は全作からそのままに、ユーゴロックへの内省的な郷愁から、コロナ禍の閉塞を吹き飛ばす祝祭へと飛躍した印象。その中に紛れこむ和楽の意匠が何とも驚きながら喜ばしい。


Jesse Markin /"Folk" (フィンランド)

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リベリア出身フィンランド人ラッパーによるデビューアルバム。英語を駆使しながらも、明確にアメリカというヒップホップの絢爛たる中心から遥か隔たった感覚は、叙情性と暴力性の間での独特の揺蕩いに滲みわたっていく。それでいて、最終曲"Hope"は驚くほど直に聴く者の心に刺さる。

Omega / "Testametum" (ハンガリー)

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結成58年目、ハンガリーで最も偉大なロックバンドの最新アルバム。勇猛な演奏によって紡がれていく銀河の叙事詩、それはアルバム完成を見ず急逝した2つの魂への挽歌だ。題名の意味は"遺言"、これで終りなのか。分からない、分からないけども、今作は間違いなく激熱の傑作。彼らに深い感謝を。

Sinead O'Brien / “Drowning in Blessings” (アイルランド)

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アイルランドの詩人による新EP、今年脳髄が沸騰するほど聞いた傑作。己の言葉をうねる祝福と武骨なるメリケンサックに変えて、道化さながらに雪花石膏の迷宮を作りあげる、この不安定と高らかの極致たるポエトリーリーディングに酩酊。This Could be Freedom。


Pranga / "Qırmızı" (アゼルバイジャン)

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アゼルバイジャンの新鋭ラッパーによる1stアルバム。まずうねる怒りの呪詛さながらに炸裂するアゼリー語の響きに頭蓋を震わされ、それが悲愴のバラッドへと変容していく様に心を震わされる。そして憤怒と悲しみの響きが交錯する先には新しい音楽がある。アゼルバイジャンは芸術の未来だ。

ここまで読んでくれてありがとうございます。"みんな知らない曲聞いてる自分、カッケえ……"という精神、忘れないようにしましょう。

私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。