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「クソ喰らえ、クローン病!」第28話~3つのケツ穴、奇妙な感覚

「クソ喰らえ、クローン病!」前話はこちらから

 俺が今飲んでいる薬の1つがプレドニン錠、まあステロイドだな。これは免疫不全を抑える効果があるので、腸の免疫機能がブッ壊れるクローン病の症状を抑えるためには効果的だ、色々副作用もあるが。これのおかげで俺の体調もかなり回復したんだけど飲むのが辛い、クソ苦いんだよな。パン屑くらい極小の粒を6粒ほど摘まんで口に放りこむ訳なんだが、舌に触れた瞬間に広がる苦味は、ロンギヌスの槍で肉ブチ貫かれるレベルの激越さだ。細胞を完膚なきまでに殲滅するような鬼気迫る殺意を感じるよ、この苦味には。最初味わった時は味覚自体イカれると思ったし、今でも全然慣れなくて飲んだ後には飴ちゃん舐めたりするね。
 まあちょっと大袈裟と思うかもしれないが、そもそもの話として俺は苦味という味覚が嫌いだった。そのせいで喰えない飲めない物は多々あれど、俺が特に拒否感を抱くのはコーヒーだった。口にあの糞便色の液体を注ぐ以前に、そこから放たれる匂いを嗅ぐだけで具合が悪くなる。鼻の粘膜がゆっくりと腐爛する錯覚を味わう。その時何故だか俺の脳裏によぎるのは荒廃した火事現場、そこに転がる焼死体だ。いや、実際焼死体なんて見たことがない、匂いなんて嗅いだことがない。それでもコーヒーの酸鼻に耐えねえ薫りってやつはこの無残を俺に幻視させるんだよ。だからコーヒーも苦味も嫌いだ、死の感覚に直結してやがる。
 だが毎日飲む必要がある、だから本当テキパキと飲む必要がある。唇に6錠を一気に放りこんで、瞬間に茶を一気に喉にブチこんで、全部を一気呵成に飲みほすんだ。たまに事故的に舌に錠剤が触れて、地獄の苦味を味わうこともあるが、たいていの場合は失敗しない。それでも喉の奥にある程度の苦味が突き刺さるのは避けられない。死ぬ!って訳じゃあないが、喉奥からオエエエエって叫びを捻りだしながら悶絶せざるを得ない。これが後に引く。そして肉の奥へ何か溜まるんだよな、死の不穏とかそんなんが。

 クローン病は俺から多くのものを奪ったと同時に、俺に多くのものを齎した。このプレドニン錠の激烈な苦味もそうだ。こういう今までになかった奇妙な感覚をこの難病は俺にブン投げてくる。正直居心地悪いもんだらけだが、小説家としては有難くネタにさせてもうとするよ、この野郎。
 足の関節痛が酷かった時、俺は湿布を貼らざるを得なかった。膝関節が痛くなるっていうのは中学時代に鵞足炎とかいう良く分からん病気になった時以来で、ここに湿布を貼るのは10何年ぶりの経験だ。だがここで問題が生じる。あの頃に比べて、俺の足が毛深くなっていたんだ、毛深くなりすぎていた。俺は局地的に毛が濃くて、普通"ボーボーといえばここ!"って腕と胸は別に濃くないのに、代わりに陰毛と足の毛が壮絶なまでに濃いんだった。特に足が凄まじい。スネが毛深いというのは多分よくあるだろうが、俺は膝も腿もすげえ濃いんだよな、こっちの方が濃い。闇よりも深き闇、それが俺の膝毛&腿毛なんだ。
 だから湿布を膝に張って、それから剥がすって時の辛さたるやいつだって鮮やかだ。剥がしていると現在進行形で黒く太い毛がブチブチ抜けていって、まただよ、また細胞が死ぬよ。"そんなブチブチ抜ける感覚が分かるくらいゆっくりじゃなく、お笑い芸人さながら一気にビリって剥がせよ"と読者諸氏は思うかもしれないが、そんな勇気ないよな、俺には。俺はお笑い芸人になれるほど大胆な人間じゃあないんだ。湿布に毛根つきでへばりつく毛の群れを見て虚しい気分になる、俺はそんな人間なんだ。
 それから風呂に入る時も奇妙な感覚を味わう。何だか最近、風呂のお湯がずっとネバネバしてるんだよ。最初は俺がクローン病と診断された同時期に家族が入浴剤を変えてたから、それのせいか?と思った。緑の湯、紫の湯、橙の湯、そのなかで皮膚呼吸根絶運動って感じの粘りが俺の身体に纏わりつくんだよ。だがすぐに気づいたのは、別に入浴剤が入っていない透明な湯に入ってる時ですら、何かネバつきを感じるんだ。
 納豆だとかめかぶよりは粘ってないが、毛穴を覆われて窒息死させられるような厭味たらしい感覚がある。クローン病によって体質それ自体が変わるっていうのは、以前は大酒飲みだったのが酒が全く飲めない下戸になったっていう前歴が確かにある。だけどこういうのもあるのか? 1か月くらいはこれが続いて、だからさすがに慣れたけど違和感は拭いきれない。まあこれからの人生、こういう現象の繰り返しなんだろうなっていう感じはするよ。
 そしてこれはデカい告白なんだが、俺のケツ穴って1つだけじゃないんだ、いや本当だよ。俺の好敵手たる痔瘻、こいつは肛門内部に穴を開けて膿の通り道を作ろうとする。途中に膿溜まりを残したうえでこの道を肛門外部にまで通し、こうして膿のトンネルが完成する訳だ。この肛門外部に開いた穴を痔孔っていうんだが、ケツに開いた孔/穴だからケツ穴だよな。俺の場合は左右にこの痔孔が2つ開いてるから、つまり俺はケツ穴3個持ってるんだよ、こいつはヤバいね。
 とはいえこっから実際にクソが出ることは幸運なことにない、クソが通るには穴が小さすぎる。だが実を言うと屁は出るんだよ。特に右の痔孔から屁がピュッて出る感覚は鮮烈なものだ。第1のケツ穴から出てくる正規の屁はいつだって滑稽な響きを伴いながら、この第2のケツ穴から出てくる屁はまるで一陣の風だ。そして出る瞬間、小さなカマイタチが肉を切り裂くような痛みを俺に齎すんだ。痛いんだなこれが、屁が出そうになると我慢して屁を押し留めたくなるくらいに。何にしろ屁があの皆さんが思うところのケツ穴、そこ以外から出る感覚は奇妙にすぎる。ミュータントだか何だかになった気分だ。前々からずっと、俺は韓国のりとコーラだけ摂取すれば生きられるサイボーグになりたいと願っていた。その夢はもはや叶いそうにないが、ケツ穴が3個あるミュータントにはなることができた。神に感謝するよ。

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【済藤鉄腸のすぐに使わざるを得ないルーマニア語講座その26】
Eu sunt mutant. Pot să dezlănțuiesc trei pârțuri de la trei anusuri la același timp. Aceste sunt atât de puturoase și ucigătoare încât pot să ucidă un elefant. Așadar, dacă mi-ai face ceva nepoliticos, te-aș ucide cu pârțuri.
エウ・スント・ムタント。ポト・サ・デズランツイエスク・トレイ・プルツリ・デ・ラ・トレイ・アヌスリ・ラ・アチェラシ・ティンプ。アチェステ・スント・アトゥト・デ・プトゥロアセ・シ・ウチガトアレ・ウンクト・ポト・サ・ウチダ・ウン・エレファント。アシャダル、ダカ・ミアイ・ファチェ・チェヴァ・ネポィティコス、テアシュ・ウチデ・ク・プルツリ。

(私はミュータントです。3つのケツ穴から同時に3つのオナラを解き放つことができます。それは致命的な臭さで、象でも殺せます。だからもし私に失礼なことをしたら、屁で殺しますよ)

☆ワンポイント・アドバイス☆
単語チェックをしていこうかな。"オナラ"は"pârț"で"ケツ穴"は"anus"、複数形を作る際はどちらにも語尾に"uri"を付けるよ。この文章のなかで個人的に好きな単語は"ucigător"かな、"~を殺す"という動詞"a ucide"から派生した形容詞で"殺人的な"とか"致命的な"っていう意味を持っているよ。だから物事を誇張したい時はこの言葉をよく使うね。そしてここは1番気になるところだろうけど、作者の屁は臭いよ。いや、本当臭い。特にお風呂のなかでブチ撒けられ、空気砲として水面に打ち出された屁はマジに臭い。だから嗅がない方がいいと思う。


私の文章を読んでくださり感謝します。もし投げ銭でサポートしてくれたら有り難いです、現在闘病中であるクローン病の治療費に当てます。今回ばかりは切実です。声援とかも喜びます、生きる気力になると思います。これからも生きるの頑張ります。