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営農型太陽光発電/ソーラーシェアリングを巡る規制議論の動向

営農型太陽光発電の規制議論の盛り上がり

2023年3月で、農地法の一時転用許可による営農型太陽光発電導入の制度がスタートして10年を迎えました。これまで着実に事例を積み上げてきた営農型太陽光発電/ソーラーシェアリングですが、ここに来て規制強化の動きがにわかに出てきています。

事実として、営農型太陽光発電の国内における事例では農業生産を蔑ろにしたり、全く行っていないような事例も増えてきています。下記の図は、今年2月に開催された農林水産省の農地法制の在り方に関する研究会の第3回会合で、農村振興局から提示された営農型太陽光発電の現状と課題に関するデータです。

営農型太陽光発電設備のうち、下部の農地での営農に支障を来している事例が全体の18%であり、その中の73%・335件で単収の減少が見られるとしています。更に、そのうち5割超が地域単収の0~20%未満という結果になっており、少なくとも国内の営農型太陽光発電事業の7%程度で著しい単収減少か、そもそも農業生産を行っていない実態があると推測できます。

不適切な事例の未然防止や対応策の整備

営農型太陽光発電事業を行っていながら、農業生産そのものを行う意欲がない事例については、速やかに事業廃止・設備撤去に向けた行政側からのアクションが取れるような環境整備が必要でしょう。

また、アレイ式の設備を中心に太陽光発電設備の設計と栽培を計画している作物の組み合わせが適切ではない事例も見受けられますが、こうした事例は一時転用許可の審査段階でしっかりと弾けるような仕組みを整える必要があります。

これについては、単収8割要件の基準となる情報の不足や、農業委員会事務局や農業委員が判断できない地域で栽培事例のない作物の選定に対する対応など、国内における営農型太陽光発電に関する学術研究の不足にも関係する課題の解決を図らなければなりません。

規制議論の方向性は?

ただ、営農型太陽光発電の規制を巡る議論を見ていると、そうした実務的な環境整備と言うよりも、立地を大きく規制してしまえば良いという主張が目立ちます。例えば、今国会で成立した国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律案の議論過程において、構造改革特区に指定された区域では営農型太陽光発電に係る農地転用を認めないとされました。

衆議院の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会での議論経過を見ると、営農型太陽光発電を農地の不適正利用の事例として挙げており、その流れで構造改革特区における営農型太陽光発電を認めないとする政府側の答弁が行われています。

また、構造改革特区法における企業の農地取得の特例について「地域計画」への記載を条件としましたが、営農型太陽光発電を規制議論でもこの「地域計画」における記載を条件とする動きが見られます。

営農型太陽光発電を契機に農業とエネルギーの未来の議論を

一連の営農型太陽光発電の規制議論を見ていると、営農型太陽光発電は農地の不適切な利用を許してしまうものであり、そのために立地も含めた厳格な規制を進めるべきという意志を感じます。しかし、上述した農村振興局の資料を見ても、営農型太陽光発電のうち著しい単収減少を生じている事例が7%程度、8割要件を満たしていない事例全体でも13%程度であり、その他の営農に支障がある事例を除いても全体の82%は十分な農業生産が行えていると言えます。

基本的に営農型太陽光発電では大きな支障なく農業生産が可能であり、適切な営農を行う意欲の有無が問題なのではないか、そうした事例を排除していくためにはどうすれば良いかという観点で議論すべきであり、一律に立地を含めた規制をかけるというのは議論が飛躍しすぎています。

営農型太陽光発電は農地において食料生産とエネルギー生産を両立させる取り組みであり、国内の農業生産に必要なエネルギーの98%以上を化石燃料に依存している現状では、営農型太陽光発電の活用が優良農地における農業生産の継続にも繋がり、食料安全保障とエネルギー安全保障を両立させていくことになります。

他にも、制度化当初から注目されてきた農業者の所得向上、遊休農地や荒廃農地の再生、新規就農や異業種による農業参入の促進、気候変動への適応策としての活用など、営農型太陽光発電の幅広いメリットを考慮しつつ、事業の適正化と更なる普及に向けた議論が必要です。

本件については、スマートジャパンのソーラーシェアリング連載記事にもまとめていますので、こちらも併せてご覧ください。


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