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ウサギの失踪

小学一年生の時、初めてウサギを飼ってもらった。
昔はデパートの外で、ウサギを販売しているおじさんがいて、ピーターラビットみたいな模様のうさぎが気に入って、買ってもらったのだ。

1990年頃は、ペットとしてウサギを飼育している家庭はあまりなく、友達も珍しいさにウサギを見にきていた。
その当時は犬や猫を飼う人が多く、どちらかというと僕の周りでは犬が多かった記憶がある。

ぼくの家ではウサギを外で飼っていて、学校が終わると、うさぎ小屋に入り浸って、うさぎと遊んでいた。
ウサギ小屋は親父が作った。
柱を立てて、金網をはり、扉をつけて人も出入りできるような、大きな小屋だった。
地面は土だったので、ウサギは穴を掘ることもできた。

ウサギはとてもよく懐く。
ウサギ小屋に入って座っていると、僕の足の上に登ってきていた。ウサギの小さな前足の重みが心地いい。
撫でてやるとじっとして、撫でるのをやめると手を舐めてきたりした。
学校に行く時は、ウサギ小屋の前を通ると、ウサギは金網があるにも関わらず、僕の方に飛びかかってきて、金網を突き破る勢いで顔をぶつけていた。

とにかく僕はそんなかわいいウサギが大好きだった。

ウサギは大人になり、地面に穴を掘って自由に小屋から外に出るようになった。だから学校の帰り家の近くで、ウサギを外で見かけることもあった。
それでも夕方になって日が沈み始めると、いつの間にかウサギ小屋の中に、帰ってきていた。当たり前の事だけど、ウサギにとってそこは自分の部屋なのだ。
半ばウサギの放し飼い状態だった。

今だったらそんなことしていたら、大騒ぎになっていたかもしれないけど、当時は、良くも悪くもあまり気にもしていなかったし、近所の人も、僕の家のウサギと認識していて、話題になったりもした。

学校が休みの日、僕はウサギと遊びたいがために、ウサギを庭に連れて、首にリードをつけて遊んでいた。
遊んでいる途中で僕はその場から何故か離れてしまう。
離れる時に、ウサギがどこかに行ってしまわないように、木の枝にリードを掛けて、その場から離れてしまった。

しばらくして戻ってきた時には、ウサギはいなくなっていた。
僕はうさぎと遊べなくなって、残念だったけど、心配はしていなかった。
何故ならウサギは、時間になったらちゃんと自分の部屋に帰ってくるから。

夕方になり日が暮れても、ウサギは帰ってこない。
ミッキーと名前を呼んで、家の周りを探しても見つからず、ミッキーの部屋を見に行ってもやっぱり帰ってきていなかった。

こんなことは初めてで、居ても立ってもいられない。
もうミッキーに会えないかもしれないと思うと、不安でたまらなくなっていた。
そう思うと、涙が溢れて止まらなくなった。

後悔して自分を責めていた。

父親が庭に出ていきミッキーの部屋を見に行った。
「帰ってるぞ!」
僕は急いで父親のところに走って行った。
ミッキーはなんとも思っていない顔をして、いつものところに座っていた。
その姿を見て僕は、今までどん底の気持ちになっていたところから、全てが解放され、後悔と自責の念を消火していた。



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