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「私を見て!」

夕方の散歩。
雑草が生い茂り、手入れをされていない場所には延々と「緑」一色が続く。
その中にたった一輪、背伸びをしたように咲いた花を見つけた。
どこからか種が飛んで来たのだろうか。
まわりの雑草より少し背が高く、遠目からでも目立つ赤色の花。


介護施設、認知症の人たちが数十人集まり、
そんな中で、ピアノを弾き、
皆さんに歌を歌ってもらう。

認知症の人たち、つい数分前の出来事を覚えていないのは、
珍しいことではない。
でも、昔、幼い頃覚えた唱歌の数々は、歌詞を見なくても歌える。
気持ちも幼い自分にかえって、楽しく歌う姿がこちらも見ていて嬉しい。

プログラムを進行しているこちらは、たった一人の私。
でも、皆さんから見れば、みんな一対一の関係なのだ。

うしろのほうから手を振る人、振り返してあげると満足そう。
目線を合わせるだけで、微笑んでくれる人もある。

時折、うしろの方から、
かなり音を外した声が聞こえてくる。
うまく歌えないのではない、
意図的なのがわかる。
しかも、大声で。
結構、叫び声に近い。

スタッフがあわてて、止めようと走るが、
「そのままでいいです」と合図を送るのが常である。



「先生!、私を見て!
ここにいるのよ! 歌っているのよ!」
明らかに私へのメッセージなのだ。

特別な思いでその人に手を振る。
気持ちが落ち着かれるのか、
普通の歌い方にもどる。

それでいい。
いつも、あなたのことを見ていますよ。


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