開幕直前:ポジショニングマップから読み解く2024年のJ3
いよいよ来週、2024シーズンのJ3が開幕します。
今季はJ3もJ1・J2と日程が揃えられたため、例年より約2週間早くお祭りに参加することができます。
今年はどんなシーズンになるだろうかと、皆さんワクワクされていることでしょう。
シーズンの開幕前にサポーターがすることといえば1つ。
そう、順位予想です。(偏見)
ただ近年のJ3は、各クラブがそれぞれの哲学をぶつけ合う混沌としたリーグに変貌を遂げつつあり、シーズン展望が極めて難しくなっています。
J2からの降格クラブがそのままピラミッドの最上位に収まるということはほとんどなく、むしろ降格に至った根本的な問題に向き合えない者は容赦なくJ3の最下層まで叩き落とされます。
今回はそんなJ3を、「スタイルの継続/刷新」「戦力の継続/刷新」の2つの軸によるポジショニングマップで読み解いてみました。
グラフや考察には定性的なものが多くなってしまっていますが、開幕を待つ間のお茶うけにでもなれば幸いです。
ポジショニングマップ
クラブ方針の可視化
J3全20クラブのオフの補強を「スタイルの継続性」と「戦力補強の方向性」の2軸でマップ化したものが、↓の図です。
アイコンの左上の数字は、昨年の最終順位です。
各クラブのポジションは筆者の独断と偏見によるものですので異論もあるかと思いますが、この表を使って色々とみていきたいと思います。
①全体的な傾向
まずマップ全体を見て、どのような印象を持ったでしょう。
「全体的に上に集まってるな」と思われたのではないでしょうか。
縦軸はクラブの「スタイルの継続性」を表現したものです。
今季のJ3では13クラブが「継続」側にプロットされており、このうち福島を除く12クラブで監督が続投しています。参考までに2023シーズンのJ3は続投監督が8名、新任監督が12名でスタートしました。過去5年間をみても同様に留任3:新任7くらいの割合で推移しているので、今年の傾向は比較的珍しいといえます。
また16位の讃岐や18位の相模原など下位フィニッシュしたクラブも多く含まれているのが興味深く、1年目で粘り強く深化させたスタイルを2年目で結実させようという意図が感じられます。
一方マップの下側にはJ2・J3で降格圏に沈んだクラブが多く並んでおり、変化を余儀なくされている実情が透けて見えます。
②継続は力なり:右上エリア
ここからは4つのエリアに属するクラブについてそれぞれみていきます。
まずは右上のエリアです。
変革1年目を粘り強く戦った霜田松本、1年目のJ3を期初計画以上の成績(+決算)で着地したらしいフリアン奈良など、スタイルの深化に手応えを感じていそうなクラブが並びます。特に縦軸の最上位に置いた沼津、松本、奈良の3クラブはコーチングスタッフの顔ぶれも去年とほぼ同じです。
高い練度で開幕を迎えることが予想され、昇格争い・プレーオフ争いへの期待も高まります。実際、テストマッチの成績も良いクラブが多いようです。
③実質的な1年目:左上エリア
スタイルを継続しつつも戦力の再編が行われたこのエリアは、一言でいえば「今年が実質1年目」です。
岐阜以外の5クラブはいずれも、昨年シーズン途中に指揮官が交代しています。標榜するスタイルを実現するために戦力の再構築が進められた印象です。今季はまず土台作りに力点が置かれるのではないでしょうか。
なお岐阜は属性的には右上エリアに置かれるのが自然なのですが、自慢の両翼ほか、既存戦力がかなり抜かれたことを重視して「刷新」側としました。
ただ田中や柏木がクラブアンバサダーとして留まったことで源流のクラブ哲学は維持されるでしょうし、河波や荒木、文などの新戦力が活躍すれば一気に昇格候補に踊り出てもおかしくないと思います。
④変化を強いられるクラブ、変化を起こすクラブ:左下エリア
戦術も選手も大きく入れ替わるこのエリアですが、各クラブの思惑は微妙に違うようです。
まずは北九州と宮崎です。JFLの最終結果でなんとか首の皮がつながったこの2クラブは否が応でも方針を変更せざるを得ません。選手、監督、コーチ、フロント、親会社、ほぼ全てが入れ替わり、まさに創造のための破壊といった様相です。
引き抜きや個人昇格も多いため戦力は相対的にダウンしています。
一方で興味深い動きを見せているのはFC大阪と鳥取です。昨年最終盤まで上位争いを繰り広げた、その土台を継承するという選択肢もあったはずですが、意図的にそして意欲的にチームを作り替えています。リスキーではありますが、昨年の相模原にも通ずる筋の通った振り切れ方だと思います。
⑤お金はあるけど使い方が…:右下エリア
最後は右下のエリアです。金沢は厳密には違うのですが、便宜上ここに含めます。
ここには「規格外」「生態系破壊」「超J2級」といった評価を受けながら望む戦績を得られていないクラブが並びます。潤沢な戦力を勝ち点に変換するために前年と異なるスタイルを模索しています。…というと好意的に聞こえますが、フロント判断で方針がコロコロ変わっているのが実態でもあり、懸念点も少なくないです。
チーム内にS級ライセンス保持者が複数いるのもむしろ不穏な感じです。
J3における「継続」の価値
戦力を維持するということ
「戦力の流出が少なければスタイルを継続できる」
「スタイルが継続すれば練度が高まる」
「練度が高まれば戦績が向上する」
どれも自然な考え方ですし、それなりに確度の高い事実だと思います。
某サイトでも流出が少なかったクラブは好意的に評価される傾向がありますし。
ただこの「継続」という言葉は、特にJ3においては注意すべき側面があると感じています。
例えば今オフの沼津は選手の引き抜きをほとんど受けずに済みました。
キーマンである持井や津久井も残留し、監督・コーチングスタッフも全員が留任。スタイルの精度はさらに増すことでしょう。
ただこれは、見方を変えると「相手にネタが割れている」ともいえます。
どんなに高速で切れ味の鋭いチョキを出してもグーには勝てないように、どこまで練度を上げていっても対策が進めば勝ち点は伸びなくなります。実際去年の沼津は秋以降に黒星が急増し最終的に13位にまで順位を下げてしまいました。
相手がグーを用意するなら、当然チームとしてのパーが必要になります。
つまりは対策の対策ですが、J3の資金力で高品質のチョキとパーを準備し試合で使い分けるのは決して容易なことではありません。
一方で、過半数のクラブが分析スタッフやテクニカルコーチを置いていることからも分かる通り、対策が敷かれる際の質と速度は明らかに向上しています。
かつてのいわきFCのような(相手が対策できないような)圧倒的強みがない限り、1つの戦術で独走することはほとんどできなくなっていると言っていいでしょう。
それを裏付けるかのように、去年のJ3はかつてないほどの大混戦でした。
選手が入れ替わる方が健全なJ3の妙
「有力選手を引き抜かれることはクラブの戦術的にマイナスである」
これもごく自然な考え方です。
確かに主軸を担っていた選手が居なくなることはクラブとしての強みを失うことにもつながります。
ただここも、J3特有の事情を考える必要があります。
嫌な言い方ですが、J3は選手にとって魅力的な舞台ではありません。
自クラブの環境、対戦環境、サラリー…いずれも良いとはいえないでしょう。個人的にはJ1→J2よりJ2→J3の落差の方が遥かに大きいと感じます。
仮に上位からオファーがあった選手の慰留に成功したとして、そんな環境に選手を長く留めておくことは、短期的な戦力維持としては正解でもマネジメント的には悪手になり得ます。(本人の希望で残留することももちろんあるでしょうが)
J3において、選手の個人昇格は「代謝」であり「循環」です。
むしろ脱皮のように、繰り返すことで強くなる仕組み作りの方が肝要です。適度に面子が入れ替わる方が選手のモチベーションやスカウティング対策の面からも有用といえるでしょう。
何かのコラムで北九州の小林SDが選手を留めてチーム作りできないことを嘆いていましたが、根本的に認識が間違っているなと感じました。
そしてこういう前提に立つと、ヘタに骨格が残ることはむしろ戦略的にはリスクであるといえるかもしれません。
シーズンを占ううえでの軸
相手を上回るスタイルを確立できているか
十分な戦力を有しているか
対策が進んだ時の回答が準備されているか
継続路線におけるJ3特有のリスクが回避されているか
前置きが長くなってしまいましたが、次回は上記の4つの考え方を軸にシーズン展望と順位予想をしていこうと思います。
これらを多く満たしているクラブほど優勝・昇格に近いといえるのではないでしょうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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